5「二つの情景」

5ー1

 街中から北に数キロ。そこには、小さな湖があった。

 森の緑、青い清水を湛えた、ファンクスが密かに誇る場所である。

 ザックは今、その湖畔を歩いていた。

 向かう理由はただ一つ。写真を撮るためである。

 今日は一人ではない。隣には、変わった風貌の男が歩いていた。 

 派手目な色のジャケットをだらしなく着る様はもちろんだが、とりわけ珍妙なのはその頭部。

 左右非対称に伸びた髪、それぞれ茶と白で分かれた色合いは、あまり見ないものである。


「……でな、オレがその時スパっと決めたんだよ」


 男は陽気な表情を浮かべ、ひたすら口を動かしている。

 一方ザックは、男に見えない様、顔を曇らせた。

 これで何度目だろうか…… ため息を付いたのは。

 そして自答する。昨日、男と出会った時からだと――







 その日、ザックはチャットルームで湖畔に向かう支度をしていた。

 どんな写真がいいかイメージをしている時、隣の客席から、穏やかではない情報が飛び込んでくる。

 ここ数日、湖近付近で異変が起きているという噂だった。

 巷では、「荒らしの仕業」とされているこの異変。

 しかしザックは行く方針を変えない。撮影に関しての矜持が、むしろますます行く気を与える。

 が、さすがに問題があったのでは、撮影に集中出来ないのも事実。

 考えた末、チャットルームで三人ほど護衛を依頼する事にした。

 シンクロ・シティでのチャネリングを使わない、その場での募集を決行。

 時間をかけず一人の男がやって来た。

〝ビンズ〟と名乗ったその男は、コーヒーを豪快に飲み干すと、再びそれを注文。依頼そっちのけで口に運ぶ。


「護衛、ね。オレ一人いれば三人分の価値があるぜ」


 飲み終えて、満足したのかザックを見、自信満々そう言った。

 腕っ節に自信があるのか、やたらと自分を強く主張する…… ザックの目に、ビンズという男はそう映った。


「……解りました」


 戸惑いながらも話を決める。

 さっそく行こうとした矢先、外の天気に変化が生じた。

 いつにも増して空間のフォトンエネルギーが熱く輝く。

 こんな時は〝雨〟が降る。

 予感は的中。すぐに落ちてくる、雨の槍。

 これでは写真も困難なため、行くのを明日にし、その日は幕を下りた。

 そして翌日――







「……てな具合で、みんな匙を投げてた事件を、オレがスパッとカイケツしたって訳よ」


 いざ一緒に行動してみると、長々と自分の武勇伝を語るビンズに、ザックはすっかり調子を狂わされていた。

 緑々した周囲の風景で気を解(ほぐ)しながら、なんとか取り繕っていく。


「あんたもスゴいと思うだろ」


 そんな気持ちを知ってか知らずか、ビンズは口を閉ざさない。

 歩く脚も、なんとも軽やかだった。


「まあ、そうですね」


 相づちを打ち、ザックは〝嵐〟が過ぎるのを待つ事にした――


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