5「二つの情景」
5ー1
街中から北に数キロ。そこには、小さな湖があった。
森の緑、青い清水を湛えた、ファンクスが密かに誇る場所である。
ザックは今、その湖畔を歩いていた。
向かう理由はただ一つ。写真を撮るためである。
今日は一人ではない。隣には、変わった風貌の男が歩いていた。
派手目な色のジャケットをだらしなく着る様はもちろんだが、とりわけ珍妙なのはその頭部。
左右非対称に伸びた髪、それぞれ茶と白で分かれた色合いは、あまり見ないものである。
「……でな、オレがその時スパっと決めたんだよ」
男は陽気な表情を浮かべ、ひたすら口を動かしている。
一方ザックは、男に見えない様、顔を曇らせた。
これで何度目だろうか…… ため息を付いたのは。
そして自答する。昨日、男と出会った時からだと――
*
その日、ザックはチャットルームで湖畔に向かう支度をしていた。
どんな写真がいいかイメージをしている時、隣の客席から、穏やかではない情報が飛び込んでくる。
ここ数日、湖近付近で異変が起きているという噂だった。
巷では、「荒らしの仕業」とされているこの異変。
しかしザックは行く方針を変えない。撮影に関しての矜持が、むしろますます行く気を与える。
が、さすがに問題があったのでは、撮影に集中出来ないのも事実。
考えた末、チャットルームで三人ほど護衛を依頼する事にした。
シンクロ・シティでのチャネリングを使わない、その場での募集を決行。
時間をかけず一人の男がやって来た。
〝ビンズ〟と名乗ったその男は、コーヒーを豪快に飲み干すと、再びそれを注文。依頼そっちのけで口に運ぶ。
「護衛、ね。オレ一人いれば三人分の価値があるぜ」
飲み終えて、満足したのかザックを見、自信満々そう言った。
腕っ節に自信があるのか、やたらと自分を強く主張する…… ザックの目に、ビンズという男はそう映った。
「……解りました」
戸惑いながらも話を決める。
さっそく行こうとした矢先、外の天気に変化が生じた。
いつにも増して空間のフォトンエネルギーが熱く輝く。
こんな時は〝雨〟が降る。
予感は的中。すぐに落ちてくる、雨の槍。
これでは写真も困難なため、行くのを明日にし、その日は幕を下りた。
そして翌日――
*
「……てな具合で、みんな匙を投げてた事件を、オレがスパッとカイケツしたって訳よ」
いざ一緒に行動してみると、長々と自分の武勇伝を語るビンズに、ザックはすっかり調子を狂わされていた。
緑々した周囲の風景で気を解(ほぐ)しながら、なんとか取り繕っていく。
「あんたもスゴいと思うだろ」
そんな気持ちを知ってか知らずか、ビンズは口を閉ざさない。
歩く脚も、なんとも軽やかだった。
「まあ、そうですね」
相づちを打ち、ザックは〝嵐〟が過ぎるのを待つ事にした――
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