第139話 同調-1
一体、何故このようなことに?
「ちょっと夜霧ちゃん、どういうこと!
普段、楽天家を気取ってるけど、お兄ちゃんは神経質以外の何物でもないの!
そのお兄ちゃんがあんな笑い方するわけがない!!」
酷い言われようだ。
霞の眼には僕はそのように映っていたかと思うと、胸が痛い。否、心が痛い。
気を抜くと、そのまま前のめりに倒れてしまいそうだ。
「お、落ち着くのじゃ妹御よ。
わ、儂は旦那様の足場をしておっただけなのじゃ。詳しいことは知らん!」
霞は夜霧の肩を掴み前後に揺らそうとしているが、体幹のしっかりとした夜霧は揺れない。激しく揺れているのは霞の肩と首だった。
「残ってた精霊さんたちも消えちゃうし、見てよ! ガイアちゃんなんか土の塊に戻っちゃってるんだよ?」
「じゃから、詳しいことはそこに居るルーに尋ねるが良い。
全ては彼奴の仕業なのじゃからの」
霞に問いただされ四苦八苦していた夜霧は、あっさりとルーを売り渡したようだ。
そのルーはといえば、両手を頬にあて体をクネクネとしながら僕の周囲を飛び回っている。それに、普段とは若干色合いが異なる気もする。
霞はルーへと目標を定め、こちらへ歩みを進めて来ている。実際、然程も離れていなかったのですぐに目の前へとやってきた。
「ルーちゃん!
なんでお兄ちゃんがこんなに変になっているのか説明して! 今すぐ!」
「仕方がないですねえ。では、ご説明しましょう」
霞がここまで怒りを露わにするのはとても珍しい。しかし、説明自体はきちんと聞く模様である。
僕もまだ記憶が曖昧で碌に思い出せそうにない。ここはルーに頑張ってもらい、その間に僕もうろ覚えでしかない記憶を整理しなおすとしよう。
まず、島へと渡るために夜霧に乗り込んだ。
メンバーは夜霧とルーにジルヴぇスト。いまだ進行中のバーベキューの役割分担として、ガスコンロなイフリータ、冷凍庫のスノーマン、生け簀というより水槽なオンディーヌ。食事に夢中でこちらの話は上の空なガイア、ガイアにべったりのシュケー、特に役割のないペレは霞の元へ置いていくことになった。
いや~、シュケーを連れて来なかったのは失敗だった。龍形態の夜霧の背中には座席も何もないのに、僕の体を固定する役目のシュケーが必須だったのだ。
島までの距離が比較的近かったのが救いとなったけど、途中で呼び出せば済む話だったんだよな……。次からは忘れてはイケナイ。
「ジル、どうかの?」
「ああ、問題ねえぜ。人の形をした生き物は居ねえ、ちっこい鳥か小動物程度だ」
大して役に立ってないジルヴぇストは何のために一緒に来たのかと思えば、レーダーの役目を担っていたのか……。すまん、ジルヴぇスト。
「それでは特に問題はないようですし、始めましょう。
ヨギリはこのままご主人様の足場となるように、ジルヴぇストは離れておいたほうが良いでしょう」
「儂も離れておいた方が良くないかの?」
「あちらには背は低いですが林もありますし、できる限り遮蔽物のない視界を確保したいのです。夜霧が足場となれば、十分に視界を確保出来ましょう」
「う、うむ。仕方あるまいか、の」
「じゃあ、婆さんたち、よろしくやってくれ」
無人と思われる小島にに降り立ち、ジルヴぇストを遠ざけ、夜霧を足場に固定。
場所は小島の東端、僕の眼では点にしか見えないのだけど霞たちの姿が見える位置にある。島の西側には小規模な森があり、小動物が生息しているらしい。
事故はないと思いたいけど、人が住んでいないというだけでも安心かな。
「では、ご主人様。
これより始めますのは、ご主人様と私の同調となります。
言葉にすると大袈裟ですが簡単にご説明しますと、私がご主人様の魔力を用いるだけです。要するにご主人様は、燃料タンクとなるわけですね」
「燃料タンクって、お前また記憶覗き見ただろっ」
「細かいことは良いのです。分かり易くご説明しただけですので」
くっ、確かに分かり易いけどさ。僕が燃料タンクって、身も蓋もないよね?
「とは言いましても、それなりに複雑なのです。難しい部分は私が承りますので、ご主人様はご自身を保つように心掛けてください。
私としましてはご主人様に溶けてしまっても良いのですけど……」
「おい、あっさりとヤバい感じのことを言うんじゃありません!
溶けるとか……、どういうことだよ?」
「旦那様よ、旦那様の魔力は膨大じゃからの。旦那様自身でも制御できかねる代物じゃろ?
それをルーが代わりにやるのじゃ、少々の危険は考慮すべきかの」
いや、まてまてまて。この件について、主導権が元から僕にない。精霊たちで結論を出し、こうしてここまでやって来たわけで。一応、参加の可否は問われたのだけど。
危険を孕むというと出来るならやりたくない。でも、霞の女王様に対抗するには一枚くらい切り札が欲しいところではあるんだよな。
「言うほどの危険はありません。最悪、ご主人様の中に溶けた私が戻ってこれない程度のことです。
苦痛を伴うようなことはありませんので、考えすぎない方がよろしいかと」
だから、サラッと怖いことを言わないでほしい。
まあ、痛くないというのは良いことだ。
「自身を保てというのは、ルーが溶け込んでくるから、僕自身を見失うなってことか?」
「はい、その通りです。ご主人様がしっかりとなさって頂ければ、何も問題はないのです」
要するに、だ。僕がきちんと意思を保っていれば、何も問題はないという。
初めのことで緊張するけど何とかなる、だろう……か? 自信はあまりない。
仮にルーが溶けてしまっても、問題があるように思えないし、大丈夫だろ!
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