第140話 同調-2
「じゃ、よろしく頼むよ」
「ええ、お任せください。ご主人様」
無い胸をドンと叩くルーには不安しか覚えない。
「先ほども申しました通り、ご自身をしっかりと認識しておいてください。
では、参りますね」
そう言うや否や、ルーは僕の胸の辺りへと吸い込まれていく。
何を他人事のように、と思うだろうが、その通りなのだ。ルーが胸の内へと吸い込まれていくのだが、違和感は特に無い。
強いて言えば、ほんのりと温かいかな?
「聞こえますか、ご主人様?」
「ああ、聞こえているよ」
「同調は申し分なく完了いたしましたよ?」
何故、疑問形なのかと問いただしたくなるが、ここは我慢しよう。
「問題はありませんか?」
「問題と言われてもなぁ。特に何も感じないよ」
勿体つけていた割には何ら問題はなさそうである。
ただ普段の念話形式とは異なり、脳内というよりも胸の奥からルーの声が聞こえてくるだけなのだ。これを問題とするには、些か足りないかな。
「それでは、これからどのように致しましょう?」
「当初の予定通り、アレだ。西の島々、出来るだけ遠くを観ておきたいところだね」
ルーが胸の中へと至る為に内へと向けていた意識を外側へと向ける。
足元には当然のように夜霧が、少し離れた横の位置にジルヴぇストが浮遊している。夜霧もジルヴぇストも特に驚いたような様子はなかった。
「西ということは儂がそちらへと向きを変えるべきかの?」
現在、夜霧はバーベキュー中の霞方向を向いていた。僕を基準にすると、夜霧は東を向いていることになるね。
「いや、夜霧はそのままでいいよ。一応、霞たちの動向も気になるからね。そのまま様子を窺っていてくれると助かるよ」
「旦那様がそう言うのであれば、そのようにしておく他ないかの」
正面を向いていた自身の体の向きを百八十度入れ替える。回れ右の要領だね。
「で、どうしたら良いのかな? ルー」
「そのまま西の方向に意識を集中致しましょう」
「意識を集中たってねぇ……」
遠くを見つめる要領のまま、意識をルーの収まっている胸の内へと集中する。我ながら意味不明でありつつも器用なものだと思う。
そうこうしていると不思議と遠くの景色が見えてくるのだ。いや、何だろうなこれは……。
デジカメのズームのように、めくるめく視界が先へ先へと進んでいく。
「あれ? 止まっちゃったよ? 今、どういう状況なのかな?」
「普段私がしているように、遠くを見つめているのですよ」
ん? これなら別に同調する必要すらないのではないだろうか? ルーに見てもらえば済む話だよね?
ルーが遠くを見つめる場合、基本的に目からビームな状態なのだけど、今僕の状態はどのようなものなのか非常に気になる。
「ジルヴェスト! 僕、今どんな感じ?」
「あ?」
「あ、じゃないよ! 見た目、どんな状態か教えてほしいのさ」
「まあ、アレだ。今の主は目からビームって奴だぜ。
それにな、頭に花が生えてるぜ」
そういえば……、ルーの頭の天辺には白い彼岸花の花が咲いていたはず……。いや、まて、冗談だろ?
目からビームを放っている僕の頭の上に、お花が咲いているだと……?
そっと自分の頭に手を伸ばすと脳天に彼岸花の茎らしきものがあった。しかも、目からビーム出しっぱなしのはずだ。そばに霞が居ないことが救いだろうか、居ればまず笑われているだろうからね。
この際、花のことは気にしないことにしよう。これを取り除いた場合の影響が計り知れないのだ。
とは考えつつも、情けない気持ちでいっぱいだ。
「目からビーム、か。ルーは光の精霊だから、その光を細く絞ることで、細く長くすることは可能かい?」
「細く長く、ですか?」
「うん、そう。極限まで細くすることで光そのものを遠くまで照射することが出来るんじゃないかな?」
「今、優先的にご主人様の中にある知識と照らし合わせておりますので、少々お待ちください」
ん? 何だ、どういうことだ。 あ! こいつ、また勝手に僕の記憶を覗いて……。というよりも今は同調しているから、やりたい放題だったりするのかも?
「こら! ルー! お前、事前の説明不足だぞ!」
「それは申し訳ございません。しかし同調によりこのような結果が得られるとは、私としても考えておりませんでしたから」
「ああ、もう。で、出来るのか?」
「はい、ご主人様の仰りたいことは理解いたしました。これより実際に行ってみようかと。但し、ここから先は複雑な手順を踏むことになりますゆえ、十二分にご自身の在り様を自覚していただきますようお願いします」
ちょっ、いきなりハードモードは無しだよ?
在り方とは、僕が僕であることを強く認識する必要があるということだろう。
いや、まあ、どんなに考えても僕は僕以外の何物でもないのだけどね。
あっ! 今はルーがオプションになっていたんだっけ……。
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