第138話 漁村への道-2

『婆さん、主がアレを試すには丁度良い場所じゃねえか?』

「無理じゃの。ジル、お主は旦那様がつい最近何をしたのか覚えておらぬのかえ?」


 ジルヴェストの言うアレとやらが何を指し示す言葉なのか非常に気になる。

 しかし何だろうか、直接訊いてはならないような。そんな感じがした。


「まだ無理に決まっているでしょう? 今のご主人様には荷が勝ちすぎます」

『いや~な、主だってこの道中に色々と頑張っているじゃねえかよ』

『妾は良いと思うのじゃ。人里から程よく離れておる場所じゃ、実験とするのであれば好かろうよ』


 一体、何の相談をしているのだろう? 僕に関係することであることは明白なのだが……。


「う~む、誰ぞ、良い案はあるかの?」

「百歩譲って仮に実験してみるとして、あの島の辺りでと想定しても、島に被害を齎さないことが前提となるでしょう。必然的にちびちゃんたちにペレ、ジルヴェストは論外となるでしょうね」

「では儂かの?」

『難易度で言えば、婆さんが一番簡単かもしれねえが……。結果から考えると、俺同様に無理じゃねえか?』

『そこで妾なのじゃ!』

「いいえ、オンディーヌも水害の恐れがあります。ここは実害が最も少ないと考えられる私でしょう」


 う~ん、僕に何かをさせようとしている?

 確かに最近は霞が力を付けてきて、僕も居場所がないのだけど。でも、まず何かしようというなら僕に相談してくれても良いと思うんだよね。

 ああでもない、こうでもないと夜霧たちは口論していた。まあ、結論は暫く出そうにないな。

 僕は今の内に海鮮のおやつを堪能させてもらおう。モー、ワカメみたいの食ってるけど塩味平気なのかな?


 ガイアに負けじと焼いた貝に挑む。うん、取れたての焼き立てって美味しいね!

 よー、ろー、いーたちに感謝したい。


「ガイア、なんかあいつら口論しているけど、放っておいて平気なのか?」

『ぬ、まずはこちらを平らげてからですな。その魚は吾輩のですぞ、主殿!』

「ほら、あいつら僕に何かさせようと企んでるみたいだし、気になるんだよ」

『そんなことを言いながら、吾輩に食事制限を施すつもりではありませんでしょうな?』


 ダメだ、こいつ。食い物を前にすると性格がガラリと変り過ぎだ。

 いまだ論戦を繰り広げている精霊たちの間に入り込むのには、少しだけど覚悟が必要な気もしてガイアに頼ろうとしたのにな。どうしたものか……。

 あぁ醤油が欲しい。



『主様よ! アレをやるのじゃ』

「いや、あの、アレとか急に言われても困るんだけど」

『えーとじゃな、アレはアレじゃ……。何と言ったかのう? そう、合体なのじゃ!』


 合体? 僕、いつの間に合体可能になったのだろうか?


「合体ならジルヴェストが僕に纏わり付いたりとかしてない……かな?」

「まったく以ってオンディーヌは説明が足りていません。

 ご主人様、オンディーヌの言う『合体』とはシンクロのことです。ご主人様と私たちのいずれかが完全な同調を果たすことを指します」

「えっと、そんなことしたら危ないんじゃないの? この間の爆発みたいな……」


 どう考えても危ないだろ! 無茶なこと言い出すなよ。


「ですから、失敗時の被害が極小で済むであろう私がサポートいたします。

 場所はここでも構わないのですが、念のためにあちらの島の辺りをと考えております」

「そもそもあの島って無人なのか? それよりも本当に大丈夫なのか?

 僕ごと爆発したりしない?」

「旦那様よ、ルーは魔力操作に長けておる。安心して臨むと良いの」

『そうなのじゃ。今回上手くいけば、妾らでも可能になるやもしれぬのじゃ』

『主がこのところ頑張っていたのを俺たちはちゃんと観ていたからな。まあ、なるようになるさ』


 合体がシンクロであり、精霊との同調であるということは理解した。理解はしたが、細かい説明をされたわけでもなく、はっきり言って意味が分からない。

 しかもそれを今から実践するという話だ。いきなり過ぎるだろ! 心の準備とか、色々考えることがあるんだぞ。


「まあ、なんじゃの。儂らも傍まで付いて行くゆえ、そう硬くならずとも好い」

「いやいやいやいや、そうじゃなくてだな。えっと何、何させるの?」

『主殿と吾輩らのシンクロ。主殿はシンクロの続く限り、一時的にではありましょうが、とても強力な存在となられるのです』


 何しれっと澄まし顔で説明してんだ、ガイア? 右手に焼き魚持ったままとか、ふざけてんのか?


 強力? 強力ねえ? 嫌な予感しかしない。


「そういうことじゃの。妹御よ、旦那様とちと出てくるの。

 あそこ見える島の辺りに居るからの、心配するでないぞ」

「えっ、いいなー。私も行きたい!」

「霞、なんかそれなりに危ないことやるっぽいから、ここで待っててもらえるかな?」

「そうなの?」

「……そうらしい」

「カスミ様、心配は無用です。何せ私が自らサポートするのですから」


 マズい、ここまで来るともう断れそうにない。物凄く嫌な予感しかしないけど、腹を括るしかない……のか?

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