第137話 漁村への道-1
「あれは島かな?」
「どうじゃろうの」
ウンディーネたちが漁をしていた場所から一番近い漁村へと辿り着いた。
この村は岬のような形状で海へとせり出した場所に存在した。村人曰く、この村に固有の名前はなく、岬の村と呼ばれているのだと教えられた。
家屋か倉庫のような建物が十軒ほどしか存在しない漁村ならではのことだろう。
『いくつかの島があるようだぜ』
「そうか、他の大陸を望めるわけではないか」
「その先には何もないようです。見渡す限り、海ですね」
ジルヴェストのレーダーとルーの千里眼でも大陸を見つけることは不可能なようだ。そもそもこの大陸からどの方角に大陸が存在するのか、よく分かっていないのだ。
「とりあえずはヘネスさんのお知り合い待ちになるだろうね。海図でもあれば、また話は変わってくるだろうからね」
「じゃあ、どうするの? お兄ちゃん」
「飯にするのかの?」
「いや、まて、昼食はさっき済ませただろうが」
漁村へと向かう道中で一度食事を摂ってあるのだ。お陰でオンディーヌの体内を泳ぎ回っていた魚は全て消費しつくしている。
「折角の海なんだから泳ごうよ、お兄ちゃん」
「この辺りは常夏といった感じの気候だから、それも良さそうだけどさ。
海の生態系がどういったもか分からないし、危なくないか?」
というか、水着の用意などしていない。下着で泳ぐという選択肢ならあるけど。
「儂らが付いておるからの。何が居っても平気じゃろうよ」
「しかしここは磯。その先に砂浜となった場所があります、そちらへ移動するべきです」
『妾はまた魚を捕まえるのじゃ! 集落から離れておれば、問題ないのじゃ』
『んんん、シュケー、海ダメだよ』
『シュケー殿は吾輩と留守番ですな』
青菜に塩といった状態に陥るのだろうか? シュケーが枯れてしまっても困るから、大人しく浜で待機していてもらおう。
『ちび共もダメだろ?』
「イフリータは、うん、駄目かも。スノーマンは平気じゃないか?」
「片方だけというと拗ねるからの。ガイアに任せてしまうのが良いの」
『うむ、賛成なのじゃ』
『つまんない』
『ぶー』
幼少組の退屈を紛らわせる必要があるな。好き勝手されたら大変だもの。
「じゃあ、イフリータとスノーマンはオンディーヌが獲った魚を調理したり、保存したりしてもらおうかな?」
『『うん、いいよ』わかったー』
「それなら私も後でお料理手伝うよ。スノーマンちゃんに凍らせてもらえば、ルイベを作れると思うんだよね」
ルイベって何だろう? よくわからないがそこは霞に任せてしまおう。
「陛下、調理は私が担当いたしましょう。その間、存分にお戯れください」
「モーちゃん、ありがとう。それなら、お願いするね」
「父さん、あたしもモーちゃんのお手伝いをするよ?」
「あっ、そうなの、なら任せるよ。鍋は僕のリュックにあるけど、それ以外に必要ならガイアに作ってもらって。火はイフリータに加減してもらうんだよ」
なんだかんだ言いつつも役割分担は決まった。いや、僕が泳いで遊ぶのを担当することには変更はないのだけど。
数少ない下着を濡らすことは憚られるのだけど、この綺麗な海で泳ぐという行為は止められそうにない。
僕はパンツ一丁あれば問題ないのだけど。霞は下着としている上下を身に着けたまま、海へと入っていた。若干透けているけど、何も見えていないフリだ。所詮は妹の体なのだ、疚しいことはないのだが……。
「茜とマリンは海中でも問題ないんだな」
「オーガは身体能力が高いですからね」
「お前は泳がないのか? ルー」
「ちょっと興味を惹かれますが、怖いといいますか」
「ルーにも苦手なものがあるのじゃの?」
「む、なんですかヨギリ。水中でも平気に決まっているでしょう?」
『婆さん、好い加減にしろよ。そいつは煽り耐性が皆無なんだぜ』
「なっ、何を言うのですか!」
本当だね。ルーは揶揄われることに慣れていない。
――ポチャン
「あぷあぶあぷぶ」
煽られるまま、海へと飛び込んだルーはそのまま溺れている。
小さいので僕の手で掬いあげることが出来たから良いけどさ。
「まったく、泳げないのに無理するなよ」
「プップッ、泳げないのではありません。空を飛べるので、泳ぐ必要がないのです!」
「だから、泳げないんだよね?」
「……」
「ふっ、強がりも大概じゃの」
『ハハハハハハ』
「くっ……」
「まぁまぁ、そこまでだよ。ルーも意地を張らないで、一緒に遊ぼう。お前たちも」
一方、霞と鬼たちは自由にはしゃぎながら泳ぎ回っている。
そして新参のリビングアーマーも自立稼働しつつ、海底を自由に蠢いている。
僕の眼で見て取れる範囲では貝か何かを採取しているようだ。
『大漁なのじゃ! ほれ、ちび共』
『わーい』
「イフリータ、火が強すぎるよー」
『えー?』
『うむ、獲れたては絶品ですな』
『おじちゃん、主の分をとっておかないと怒られちゃうよ?』
「そうです、待つのです、ガイア殿! 陛下たちの分が無くなってしまいます」
砂浜へと目を向けると、そこはまた違う意味で大惨事となっていた。
人間形態のガイアは食道楽とでも呼べそうだから、わかっていたのだけど。案の定、食いに走っているようだ。
『『『……』』』
「これはこれは、よー殿たちもご苦労様です。この貝は食用となるでしょうか? ペレ殿」
「どうかな? 父さんに訊いてみないと」
『ならば、吾輩が毒見をいたしますぞ』
ガイア、それはどうだろうか……。お前、毒だろうと金属だろうと平気で食べそうだよね?
いかん、浜の料理に気をとられている場合ではない。もう少しだけ泳いでから、合流しようかな?
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