第9話 買い物
今、僕たちは冒険者ギルドのロビーにいる。目の前には、それは立派なキラと輝く青銅色のギネス像が聳え立っている。
何故こんなものがあるのかというと、領主館から帰った翌日ギネスさんがリグさん宅へ押し掛け、五体投地で拝み倒したのだ。すると、霞は一つ返事で聞き入れてしまい今に至る。
しかし、問題があった。当初はガラスで作る予定だったが、ジルヴェストが風でカットする以上破片等で危険が伴う。なので、今回は僕も参加しての兄妹合作となったのだ。正確には、僕が呼び出した精霊に丸投げと言っても過言ではない、霞は受けただけで何もしていない。…おかしい。
材料に青銅を用意してもらった僕たちは、ギルド職員に荷車を引いてもらいながら街の門の外に赴いた。
最初に呼んだのはイフリータ、用意してもらった青銅のインゴットを溶かしながら、大まかに人の形へと形成してもらった。これが一番面倒な作業だったのかもしれない。何しろギネスさんの注文が多く、ポーズを決めるのにかなり手間取った。
次に登場したのがジルヴェストである。彼には成型をお願いするのだが、カットはやはり破片が飛び散ってあぶないので、サンドブラストを活用することにした。しかしこれも結構危なかった、竜巻が大量の砂を巻き込んでヤスリのようになっている。
モデルのギネスさんはポーズを崩さないようにしながらも、キメ顔を保っている。そのポーズは、片手用の長剣を右手を伸ばし斜め上に掲げ、左手は腰に添え軽く足を開いている。二の腕がプルプルしているが黙っていよう、本人は本気だ。
モデルを一瞥し確認したジルヴェストは、ヤスリ状の風を器用に操作し徐々にギネスさんの顔や手足を緻密に再現し始めた、皮鎧の質感なども素晴らしい。彼の作業は何のことはなく10分程度終わってしまう、もう少し長ければ、ギネスさんは面白いことになっただろうに。
そうして完成したのがこの銅像だ、出来立てほやほやなので輝いている。数年もすれば腐食して、鈍い色になるのだろう。
この礼金として、500ゴールドを頂いたのだ。この世界に於ける金銭の価値が不明なので、どれだけの額なのかさっぱりだけども。
このお金を持ってこれからの冒険者生活に役立つようにと、メーシェさんが買い物に連れ出してくれたのだ。
最初に訪れたのは武器屋兼鍛冶屋だ。しかし、僕たちは剣など握ったことは無い。試しに持ってみたら結構な重さがあり、これを振り回すなんてとても無理だと判断した。
そんな話をして、武器は後回しにと防具屋さんに向かった。防具といってもやはり重い物は無理だ、身動きが取れなくなる。それでも安全第一ということで、一番軽い皮鎧に少し厚手の外套を買うことになった。
次に向かったのは隣にあった服屋、ここは普段着と皮鎧の下に着用するものを幾つか買った。
その次に訪れたのは、道具屋というか雑貨屋だ。ここでは大きめのリュックを1つと、軽症用の塗り薬に少し深い傷でも治せるポーションというお薬を購入することになった。薬に関しては消費期限というものがあり、期限を過ぎると薬効が著しく落ちるので十分に確認するようにと注意された。
最後に訪れたのは、魔法具店だ。ここには魔法に関するあらゆるものが揃っているらしい、見たことない物がたくさん店頭に並んでいる。
店主らしきお爺さんがのっそりと歩み寄って来た、僕たちを少しの間眺めた後ついて来いというような仕草をする、無言だ。
お爺さんの後に続いて辿り着いたのは、杖がたくさん立て掛けてある工房だった。
「お主ら、魔法使いじゃろう? 剣の類を持っておらんし、何より華奢じゃしのぅ」
お爺さんは突然話し出した。
「この子たちは、どちらかと言えば『精霊使い』ですよ」
僕が口を開こうとしたら、メーシェさんがそう答えた。
「なんと!精霊じゃと! うーむ…」
お爺さんは一人眉を顰めたまま考え込んでしまった。今の内に見て廻らせてもらおう。
「お兄ちゃんみてみて~、魔法少女カスミ!」
妙なポーズをとった霞が居た、目の錯覚だろう。
「へ~、面白い形をしているのな」
両端が丸みを帯びているバトンみたいな杖だ。なんだろう、妙な造形の杖ばかりに見えるんだけど。
「お兄ちゃん! ほら~みてってば~」
ワンピースの裾をヒラヒラさせてポーズをキメている霞、うん目の錯覚だな。
「なんだこれ? ただの鉄パイプじゃないか」
中程に継ぎ目があるが抜けない、でもくるくると回る。
「それはこうじゃ、こうしてこうして、こうやるのじゃ!覗いてみよ」
お爺さんが復活した!
「覗くってなんですか、……ってこれ、万華鏡じゃないですか!おーい霞、おもちゃだぞ」
くっだらねぇ~が、霞の暴挙を止めるには十分だ、よし!釣れた。
「ところでお爺さん、僕たち武器をどうしたら良いか迷っているんです」
お爺さんは怪訝な表情をする。
「この子達は、無手で何でも出来てしまうのですよ」
「…う~む、なら必要ないのではないか?」
お爺さんはそんなことを言い出した。
「確かに無くても平気なんですが、格好がつかないと言いますか」
「使いもしない物を持つより、盾の一つでも持っとった方が役に立つじゃろう」
おお、それは良いアイデアだ、発想の転換というやつか。
「そうじゃのう、なら儂が盾を作ってやろう。自慢ではないが、妙な杖を作るのは得意なのじゃ」
「えっと、盾ですよね?」
「じゃからの、杖のように魔力増幅の出来る盾じゃ」
どうじゃ? と白く伸びる髭を撫でるお爺さん。
「もう作ると決めたのじゃ! 出来上がってから買うかどうか決めたらええ。
また暫くしたら、店に顔を出せ。
…あぁそうじゃった忘れとった、儂はデニスじゃ、デニス爺と呼ばれておる」
「…はぁ、わかりました。数日したらまた来ますね」
強引なお爺さんだ、勝手に決めてしまった。でも、嫌いじゃない。
万華鏡を上下左右に振っては覗いている霞を連れて店を後にする。
「あのお爺さん、いつもあんな感じなんですか?」
メーシェさんに訊いてみた。
「まあそうね、ここら辺じゃ有名な偏屈なお爺ちゃんなのよね。でも、気に入られたみたいね」
偏屈な爺さんの創作意欲を満たしてしまったのは、何故なのだろうか。
「お兄ちゃん、私あの綺麗な杖が欲しいなーキラキラなの~」
霞は、餌に使った万華鏡に深く食いついてしまったようだ。困ったな、あれこそ武器として役に立たないぞ。
街にはほんのりと夕日が差している。
「それじゃ、帰ってご飯にしましょうか?リグもそろそろ帰ってくるでしょうしね」
「はーい、ご飯!」
霞が無邪気に返事をした。歩き疲れたから、僕も帰ってゆっくりしたい。
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