第8話 2度目の練兵場-2

 休憩をしているとギネスさんがやってきた、今日は一人のようだ。


「なんだぁ?もう終わっちゃったのかぁ~?」

 周囲を見渡し、そんなことを言っている。しかし、まだ誰も反応を示さない。未だ呆気にとられたまま、回復していないのだ。


「おぅアキラ!終わりなのか?」

「ああ、いえ、僕は終わりというか一旦休憩してます。次は霞の番なのですが、何分皆さんがあの調子ですので」

「お前ぇ、なにやったぁ?」

「ちょっと精霊さんを呼んで色々やっただけですよ、いやだな~」

 脂汗が額に滲んできたように感じる。僕は何もやってない!やったのは精霊だ、お願いはしたけどね。


「お兄ちゃんね、すご~~~かったんだよ」

 ちょっと霞ちゃん黙っていようか、間が悪いから。ギネスさんの視線が痛い。

 それから、リエルザ様とリグさん、それと兵士さんたちが正気を取り戻すまで暫くの時間が掛かった。


「アキラ!!あれを見ろ、やり過ぎだ!」

 リエルザ様はお冠だ。


 改めて被害を観察してみると、地面は乾燥して細かい砂のようになっていた。しかも、竜巻が立ち昇っていた場所は、深く抉れている。 周囲にあったであろう訓練用の何らかの設備は、焼け焦げ原型を留めていない。塀のようなものは、若干形が分かる程度で焼けただれている。

 これは怒られて当然だよな、弁償と言われたら借金になるのかな?


「やり過ぎました、ごめんなさい」

 大人しく頭を下げる。やる時に、マズいかな?とは思ったんだよ。でも、成果を見せないといけなくて板挟みでさ。



「まあその余り怒らないでやってくださいな、この子たちも頑張っているのですから」

 リグさんのフォローが入るが、こればかりはどうなることやら。

「そう言われるとこちらも、怒るに怒れないではないか」


「後程、片付けや整地などを手伝わせて、それで勘弁してやってください」

 リグさんのお陰で何とかなったっぽいぞ。

「後でちゃんと穴は埋め戻します、片付けもきちんとやります」

 ここは勢いで押し切ろう、借金を抱えるのは得策ではない。



「……う~む、まあいいだろう。それで、次はカスミの番だがやるのか?」

 なんだか、やって欲しくなさそうな言い方だな。うん、僕のせいだ。


「はい!やります」

 霞の返答だ、簡潔でよろしい。


「あまり派手にはするなよ」

「ん~、わからないよ」

 急に不安が押し寄せてきた。やめて、お兄ちゃん心臓が潰れちゃう。

 


 霞は僕たちから結構な距離を離れて行った。何をするつもりだろう、気になるし怖い。


「それじゃあ、いきまーす!」


「きて!スノーマン」

 おっといきなり僕の名付けた精霊を呼んだぞ、そもそも来るのか? と思っていたら、僕の方に声が聴こえてきた。


『あるじによく似てるけど、あるじの知り合いなの?』

「ああ、そうだ。僕の妹だ」

『いもうと? 何だかわからないけど、わかった』

 何が分かったのだろう。



「わかった、力を貸してね」

 どうやら霞とスノーマンは会話しているようだ。


「大きな氷の塊をあそこにつくって」

 周囲の温度が急激に下がる、霞が指さす場所にトラックのコンテナみたいな長方形の塊が縦に出現した。


「スノーマンありがとう、この氷はどのくらい大丈夫なの?…うん、わかったー」

 何が大丈夫なのだろうか。



「ジルヴェストちゃん きて」

 ジルヴェストまで呼んだのか。案の定、質問に似た声が聴こえた。


『妹御か、力貸しちまっていいんだな?』

「ああ、頼むよ。何度もわるいね」

『あ~気にすんなって』


「そう、出来る?………じゃあ、お願い!」

 そんな会話の後、氷の塊を包むかのように竜巻が発生した。竜巻は何やら氷を刻んでいるように見える。

 どうなっているのかと凝視していると、突然竜巻が四散した。



「おおおおおおおお」

 練兵場に僕たちを含めた全員の感嘆の声がどよめく。

 竜巻が消えた後に現れたのは、それはもう立派なドラゴンの彫像だった。凄い!綺麗だ。


「やったね、ジルヴェストちゃん。ありがとう、またね~」

 霞はジルヴェストにお別れの挨拶をしているみたいだな。


「霞、凄いなーお前。僕は感動したよ」

 感動のあまり抱き締めてしまった、兄の愛情の表現方法として間違ってはいないはずだ。


「えへへ、やったよ、お兄ちゃん」

 霞は照れ笑いをしていた。



「カスミィ、すげ~なあんな物まで作れちまうのかよぉ。今度ウチのギルドにガラスの彫像作ってくれやぁ」

 ギネスさんが走って近寄って来た。ガラスの彫像、アリだな。

 リエルザ様たちもやってきた。


「素晴らしい!素晴らしいぞ!私の館にも是非に作ってくれ!謝礼は弾むぞ」

 うんうんとリグさんまで頷いている、みんな僕との扱いと大違いだ。



「じゃあ、次は再び僕の番だな」

 気合を入れる、今度こそ褒められたい!


「まっ待て!アキラ。何だかんだと疲れただろう、今日はこの辺で終わりにしようではないか。なあ、リグよお前はどう思う?」


 何故かリエルザ様に引き留められた。


「そうですな、良いものが見れたところで終わりにいたしましょうぞ」

 リグさんまで疲れちゃったのか、仕方ないな。


「なんだどうしたんだ?俺はアキラのも見ておきたいのだが」

「お前は少し黙っていろ!ギネス」

 リエルザ様のギネスさんに対する扱いはいつも酷いな、うん。


「そういう訳で今日はこれでお開きとしよう。リグよ、子供たちを送って行ってやれ」

 リエルザ様は、胸に手をやり嘆息していた。


「二人ともまた今度遊びにでもくるがいい」

 リエルザ様は最後ににこりと微笑んだ。



 僕たちはその後、リグさんの部下の方ににリグさんの家まで馬車で送り届けてもらった。

 霞は馬車を降りてからも、ずっと上機嫌なのだが、僕は何だか不完全燃焼だ。

 それでも、霞が僕の開けた穴の上に彫像を作ってくれたので、穴埋めと片づけは免除されたのが救いだ。


 僕は今日もまた、霞の頭を撫でる。

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