第7話 2度目の練兵場-1

 領主館に招待され、僕たちがこの世界にきた経緯やら何やらを話した日の翌日。

 昨晩は晩餐ということで、たくさんの豪華な料理をお腹パンパンになるまで食べ、すぐに就寝してしまった。

 朝になって、外泊する旨をリグさん夫妻に伝えていなかったことに気付いた。執事さんに確認すると、リエルザ様の方で連絡をしてくれていたそうで、感謝すると共に安心した。


 今日は練兵場へ行く日だ。行って何をするのかは聞いていないが、大体想像はつく。

 リエルザ様は朝から執務があるとかで、忙しいらしく朝食は僕たちだけでとることになった。それでも、朝食を終え一息ついていたところに、リエルザ様は顔を覗かせた。


「おはよう。そろそろ出掛けようと思うのだが準備は宜しいかな?」

「おはようございます。大丈夫です」

 朝の挨拶を交わした後、練兵場へと向かう。途中でリグさんが合流した。


「おう、お前たち。よく眠れたか?」

 リエルザ様に会釈だけして、僕たちに質問してくる。大丈夫なんだろうか。

「フカフカのお布団でよく眠れました」

 霞が返事をしたので、僕は会釈で済ませる。


「それは良かった、安心したぞ。それとリエルザ様、ギネスが見学に来るそうです」

「やはり気になるのだろうな、衛兵には奴が入れるよう手配しておけ」

 リグさんは頷くと部下らしき人を伝令に走らせた。ギネスさん、なんだかんだと僕たちを心配してくれているのだろう。

 練兵場までは遠くない、なんたって館の裏だ。直ぐに着いた。



 練兵場に着くと、訓練している兵士さんが複数人が同時に一糸乱れず、リエルザ様へと敬礼をする。凄い格好いい!


「おはよう、兵士諸君。此方のことは気にせず、訓練を続けてくれたまえ」

 リエルザ様が挨拶で返すと、兵士の方々は四方に散って訓練を再開させた。

「二人は冒険者なのだから、兵士のような基礎訓練も必要ではないのか?なぁリグよ」

 確かに真剣とか握ったこともないし、気にはなるな。

「どちらかと言えば、二人は中衛・後衛が適役でございましょう。まずは、長所を伸ばす訓練を施した方が無難なのではありませんかな」

「では、先日のように魔法と召喚を試した方が良かろうな。とりあえず、思うようにやってみよ」

 なんか丸投げしてきた感じが否めない。



「はい。では、そうしますと少し場所を開けていただけますでしょうか?何分効果範囲がわからないもので、宜しくお願いします」

 ぼくはそう言って頭を下げた。訓練していた兵士たちをリグさんが整理してくれ、ある程度広い空間が得られる。

「兵士の皆様もご協力ありがとうございます。そうだな、この前は炎だったから、ちがう精霊にお願いしてみたらどうかな」


「えっと、火じゃない精霊さんって何がいるのかな?」

 あ、そうか、この世界にどんな精霊がいるのか、僕たちはしらない。

「なら、お兄ちゃんが先にやってみるから、霞は見てて」

 霞は元気よく頷いた。


 僕は一つ深呼吸してから、集中する。実はちょっとやってみたいことがあるのだ。

 炎の精霊をイメージする、イフリートでも女の子だからイフリータ。


「炎の精霊」

 ボゥと火柱がたつ。

『よんだ~』

 間延びした声が響く。

「あぁ、名前をあげようと思ってね」『ほんと~』

「本当だよ」『なまえつけて~』

「さあ、おいで君の名はイフリータ!」


 目の前の地面から火柱が轟音共に立ち上る、火柱少しずつ人の形に収束する。


『ありがとう、ボクの名はイフリータ』

 ボクッ娘が完成した。でも、これで終わりではない。



 可能かどうか判断がつかないけど、もう一体呼ぶ。呼べるかわからない相手なんだけど。


「イフリータ、そこで待っていて」『わかった~』

 返事を聞いて続ける。


「時の精霊」『我を呼ぶものか』

「あぁ君に名をあげよう」『我に名は既にある』

「ならば、その名を教えてほしい」

『人の身で我を使うことはならぬ、これは警告ぞ』



「イフリータ、待たせてごめん駄目だった」『じじい呼ぼうとした~、すごい人間』

「ダメだって怒られちゃったよ」『そだね~』

 時の精霊は呼べなかった、人間ではダメらしいね。


「風の精霊」『呼んだか?』

 今度は慎重にいこう。

「力を貸してほしい、代わりに名をあげよう」『ほう、いいだろう』

「来てくれ、君の名はジルヴェスト」

 どこからともなく一陣の風が舞う、それが小さな旋風を作り出したかと思うと、これまた徐々に収束し始める風が四方八方に散ったかと思うとその場にジルヴェストが顕現するした。


「イフリータお待たせしたね、初めましてジルヴェスト。二人にやってほしいことがある。僕のイメージを渡そう」

 そう言って僕は念じる、2体の精霊それぞれにやってもらいたいことを的確に伝えた。


「さぁ始めようか」

 僕たちが立っている前方、そうだな20m程先にまずは小さな竜巻を作り出す。頭上を見上げるほど頂点が高い位置にある竜巻だ。

 竜巻が出来たら、竜巻の目の部分に炎を現出させてもらう。炎の上昇気流と竜巻の合わせ技で火災旋風を作り出した。

 ただコレかなり危険なので、ジュルヴェストに固定してもうらうのを忘れない。


「二人とも上出来だ。ジルヴェストもう少しだけ維持しててもらえるかい?」

『任せろ』『できた~』


「どうだ、霞。僕ちょっと失敗したけど、こんなことが出来たぞ」

「お兄ちゃん、熱いよ~!でも、凄いねー。私も頑張るね」

 うん、確かに暑いというより熱いね。熱風吹き荒れてるね。


「もういいぞー、ジルヴェスト。散らせられるか?」『ウム、難しいが任せろ』

 ジルヴェルタは風だけを綺麗に消した、残った炎は弱々しく地面を這っている。


「ありがとう。ジルヴェスト、イフリータ また何かあれば呼ぶよ」

『待ってるぜ』『またね~』

 ふう、無事に終わった。ジルヴェストの機転が利かなかったら大惨事だったかも、脂汗が流れた。


 「どうでしたか?」

 尋ねようとしたが、リエルザ様とリグさん、兵士の皆さんは呆然としたまま動こうとしない。これは一昨日の焼き直しか、再起動するまで暫くかかりそうだ。と、霞を呼んで少し休憩することにした。


「お兄ちゃん、私もできるかなー?」

「きっと出来るぞ。風と炎の組み合わせは、危ないからやめておこうね」

「うん、熱かったね」

 

 熱風吹き荒れた練兵場はというと、かなり荒んでいた。見なかったことにしよう。

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