第6話 領主館

 ギネスさんの企画した謎スキル実践の催しがあった翌日の今日、僕たちは二人揃ってアニタおばちゃんのカウンターの前にいる。

 早速、何か仕事をと思ってやって来たのだが何故かリエルザ様に捕まった。いや正確にはアニタさんに捕まって、リエルザ様が馬車でギルドまでやって来たらしい。


「どうして領主様がこんな所にいらっしゃっているのですか?」

 ギネスさんが質問する。


「ギネス、お前はこの子達にランクFの仕事を斡旋するつもりか?」

 リエルザ様はギネスさんの問いに答えるでもなく無視し、質問を質問で返す。面白いので黙って横で静観する。


「冒険者ギルドには冒険者ギルドのやり方があるのです。それに基礎をしっかり熟さなければ、危険に晒されるのはこの子達なのですよ」

 僕たちのことを本気で心配してくれている、格好いい。


「まぁそう言うな、この子達は暫く領主館で預かりたいのだ。私の方で鍛えようと思うのだがどうだ?」

「どうだ?などと横暴です。彼らは既に冒険者ギルドの構成員なのです。基本はしっかりと押えさせるべきです」

 この分だと話はずっと平行線なんじゃないだろうか。


「ならば、今日と明日だけで構わん。指名依頼だ、依頼料を払おう」

「そんな無茶苦茶です。第一、彼らはまだランクFなのですよ、指名依頼などと暴論もいいところです」


「何故、お前は幼い頃からそう融通が利かんのだ!」

「姉さんが傍若無人すぎるのですよ、わからないのですか?」

 全然似てない姉弟だった・・・。


 このままでは永遠に平行線だろうと、話が終わらないので介入することにした。

「あの僕としては、今日明日で済むのであれば領主様の元に行くのも吝かではありません」

 ギネスさんに目線を送り頷く、今回は仕方ないだろうという意味を込めて。

「本人の許可が下りたのだ、領主として招待する良いなギネス」

「わかりました。ただし、今日と明日だけですからね約束ですよ」

 ギネスさんが僕の方に向かい頷く、先程の意図を汲んでくれたようだった。妹の気まぐれ加減を知っている僕としては他人事ではないのだ。


「では、行くとするか。アキラ、そしてカスミも良いな?」

 僕は発言した責任があるので頷く、霞はと窺うとなんだ?馬車に興味があるっぽく頷いた。思わず、笑みがこぼれた。

 馬車に生まれて初めて乗った。乗り込んだ瞬間は感動したのだが、自動車に慣れている僕たちにはちょっと辛い揺れだ。霞も最早先程までの元気はどこへやら、蒼い顔をしている。


「着くまでに、少し話しをしよう。君たちは何者だ?」

 僕は目を伏せた、まさかこんな質問が飛んでくるとは思ってもいなかった。

「心配するな、何も取って食おうというのでは無い。興味を持っただけだ、あれほど素晴らしい力をもっているのだからな」

 僕は顔を上げる。好感を持って興味を抱いている様子だ、それなら僕たちの事情を話すのも可能かもしれない。霞を見る、僕の左腕をぎゅっと掴んでいる。


「妹と相談したいので、少し待ってもらえますか?」

「もう間もなく到着する、着き次第部屋を用意しよう。そこで相談するがいい」

 まぁ隠す事情すら無いもんな、もしかしたら帰り方がわかるかもしれないし。右手を伸ばし、霞の軽く頭を撫でる擽ったそうにしている。


 数分と経たず馬車が領主館に到着し、リエルザ様の言ったように部屋に案内される。質素なリグさんの家と違い、さすがは領主館というべきだろう。それでは、霞と相談することにしよう。


「霞、僕たちのことをリエルザ様に話そうと思うけど、霞はどう思う?」

「うん、私も話した方がいいと思う。お兄ちゃんが話してよ」

「大体は話すけど、霞の意見も言って良いんだぞ」

 霞は別段人見知りではないはずなんだが、どうにも人と話すのが得意ではないらしいのだ。

「うん、大丈夫。何か気が付いたら言うね」

「あぁお願いするね」


 霞の頭を撫でる、もうこれは僕の癖だな。よし、覚悟は決まった。

 廊下に出ると、執事らしき人が待機していたので言付けを頼んだ。すると一礼した後、執事さんは去って行った。


 扉がノックされる、開けると執事さんが立っていた。応接間まで案内してくれるそうだ。

 応接間の前に来ると、執事さんが扉をノックし中から声が掛かる。扉を開け執事さんが固定し、先を促されるまま僕たちは歩みを進めた。

 部屋の中に入ると、応接セットの小さい方のソファにリエルザ様が座っていた。


「よく来てくれた。相談はもう良いのか?」

「ええ構いません」

 高校生に社交など、無理に決まってるが霞の為にも頑張らないと。

「茶の用意をさせる、しばし掛けて待て」

 ソファを勧められたので、2人並んで座る。執事さんが紅茶を淹れてくれている、人数分注ぐと一礼して部屋を出て行った。


「まずはお茶をどうぞ、一息ついたら話してくれたまえ」

 お茶を勧められたが正直緊張で味なんてわからない。それに比べて霞は自由すぎる、茶菓子を美味しそうに口に含むとお茶で流し込む。なんてことだ、兄がこんなにも大変な思いをしているというのに!嘆息したいが我慢した。


「それでは少し長くなるかもしれませんが、よろしくお願いします」

 リエルザ様は頷くと、掌を上に向けて差し出し先を促す。

「僕たちは、こことは違う世界・異世界から来ました。どうやって?と聞かれても答えられる術がありません。僕たち自身どうやってこの世界に来たのか、わからないのです。だから、どうすれば帰れるのもわかりません」

 ここで一旦区切る、リエルザ様を見遣る。


「ほう、この世界とは異なる世界、異世界か」

 リエルザ様は、それだけ言うと押し黙った。


「この世界に来たのは、数日前です。僕たちの住んでいた世界で、祖父母の家の側にある古い祠があり、そこへ供え物をした後突如眠りに落ちました。目覚めてみると、この街の近隣にある野原でした。日が暮れそうで恐ろしかったので、遠目に見えていたこの街を目指し進み到着した次第です」

 僕はお茶で喉を潤す。


「街の入場門に辿り着いたのですが、僕たちは当然この世界のお金を持っていませんでした。丁度、入場門で検閲をしていたリグさんに話をすると入門料は建て替えてくれることになりました、また、お金が無いなら自分の家に泊まるようにと奥さんメーシェさんを紹介していただきました」

再び、一息つく。


「その後、街の案内をしてもらい。興味を引かれたスキルや魔法という言葉について、冒険者ギルドの魔道具なら何かわかると聞きました。そこで、成り行きで冒険者登録をすることになり、昨日の件へと続きます」

 話し終える。僕は背を伸ばし、軽く肩を回した。


「そんなことがあったのか、リグは相変わらずいい男じゃないか」

 リエルザ様は、ハハっと笑う。


「一つ尋ねるが、そなた達は人間だな?」

「はい、僕たちの世界には人類と呼ばれるものは、人間しか居ませんでしたから」

「ふむ、人間しか居らん世界か、興味深いな。私は純血の魔族なのでな」

「ということは、ギネスさんもですか?」

「そうだが?あやつ話しておらなかったのか、全く困ったものだ」

「てっきり人間なのかと思ってました」

「まあ、見た目は変わらんからな。魔力総量の違いだけだ」


「僕たちの世界には、魔力というものが存在しないので良く分からないのですが」

 リエルザ様は目を見開いた。

「益々興味深い。

 まぁ長い話をさせてしまい悪かったな、今日は休んで明日また練兵場に行こうか?」


「はい、いきましょう」


 元気よくここぞとばかりに霞が返事をした。僕とリエルザ様は、顔を見合わせ一緒になって笑った。

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