第5話 謎スキルの実践

 冒険者ギルドから帰った翌日、冒険者ギルドマスターのギネスさんとの約束通り練兵場にいる。

 当初、リグさんが領主様の許可の元仕事を抜けて一緒にいくという話だった。しかし、メーシェさんが心配だからと付いて行くと言い切る。ならばと、リグさんは仕事にのまま戻らずにメーシェさんが僕たちを引率することになった。

 

 僕は、心配されるほどのことをしなければならないのか?と不安でいっぱいだ。霞はというと、目をキラキラさせて心配などどこ吹く風だ。

 隣に居たメーシェさんが軽く頭を下げた。何かと観ると、リグさんともう一人高そうな服を着た背の高い女性が歩いてきた。


「メーシェ、久しいな息災の様で何よりだ。それと話にあった子供たちだな」

「ご無沙汰しております、領主様」

 この女性が領主なのか、格好いい。

「はい、リエルザ様。兄の方がアキラ、妹の方がカスミという名でございます」

 リグさんは、僕たちにそれぞれ手を翳し紹介してくれたので、それに合わせ会釈をする。正直、礼儀作法はよくわからないもんな。


「そうか、今日は楽しみにしているよ。それにしても、呼びつけたギネス本人が来ていないのは何とも言えんな」

 領主リエルザ様は、嘆息した。ギネスさん領主様呼び出した癖して、遅刻してる場合じゃないよ!


 結局ギネスさんが練兵場に姿を現したのは、それから10分程経ってからだった。

 走って来たであろうギネスさんは、息を切らせている、少し遅れてアニタおばちゃんもやって来た。


「お待たせしたようで、申し訳ありません」

「アニタお前が付いていながらどういうことだ?」

 リエルザ様は、アニタおばちゃんと知己であるのか質問をしている。

「いえ、昨晩深酒をしたようでですね。つい先程、ギルドに顔を出したのですよ。しかも、約束すら忘れている始末で」

 リエルザ様の冷たい眼差しがギネスさんに突き刺さっている。

「誠に申し訳ございません」

 あのギネスさんが小さくなっている。

「ん、まあ良い。それじゃあ、始めてもらおうか」


 僕たち以外の視線が僕たちに向けられる。

「お兄ちゃん」

 霞は、僕の背中側に回って隠れているつもりだろうか、僕の服を引っ張っている。

「あの、どうすれば良いのか分からないのですが、出来ればアドバイスなどを頂けないでしょうか?」

 僕らは魔法もスキルも存在しない世界から、偶発的にやって来たのだ。やり方なんてわからない。ただ、場を白けさせて申し訳ない気持ちもないではない。


「ギネス! お前何の指導もしていないのか? 見ろ、泣きそうな顔をしているではないか!」

 リエルザ様はギネスさんを怒鳴りつけた。

「はい、申し訳ありません」

 これでもかとギネスさんがさっきよりも小さくなる、というか小さく見える。すると、リグさん夫妻とアニタおばちゃんが近付いてきた。


「どうしたもんだろうねぇ? 確かカスミちゃんは『精霊魔法』だったね」

 アニタおばちゃんが口を開く、霞は小さく頷いた。

「私は魔法使えないから分からないんだけど、よく聞くのがイメージするってやつだね。試してみようか?」

「うん、やってみる。でも、精霊魔法ってどういうの?」

 霞が小声で訊く。だが、やる気にはなったようだ。


「うーん、ちょっと待ってろ。リエルザ様ちょっと」

 リグさんは、質問を領主様に丸投げするつもりだ。なんと大胆な。


「う~む、そうだな。恐らくだが、イメージとしては普通の魔法と同じで大丈夫だろう。

 どれ、普通の魔法なら私も得意だ。何かの足しになるかもしれん、見ておれ」

 そう言って、少し僕たちから距離を手を体の前に翳す。

「炎よ、我が意に従い、我が敵を討て」

 何か言葉を唱えたかと思ったら、掌の先に炎が生まれ飛んでいき案山子みたいな木の人形が勢いよく燃えた。スゴイ!


「うわー凄いね、お兄ちゃん」

 霞はすっかり笑顔になっていた。

「本当に凄いね、今のを真似てみたらどう?」

「うん、やってみるね」

 リエルザ様も笑顔を向けてくれている、感謝しないとな。僕は軽く頭を下げた。


 霞は一人離れて立ち、両方の掌を前に突き出し目を瞑っているようだった。

「炎よおいで、うんお願い」

 周囲が急に暖かくなる、霞の両手の先にはとても大きい火の玉が浮いている1m程あるだろうか。なんか徐々に大きくなっている気がする。


「霞!大きすぎる、そのくらいでいいよ」

 僕は声を張り上げた。

「うん、おにいちゃん。うん、そうだねこれ以上はいいや。次は飛ばして、うんお願い」

 何かと会話しているみたい、精霊と会話しているのかな?今、飛ばしてって言わなかったか・・・?と思った時、大きな炎は放物線を描いて前に飛んで行った。

「ドコーン!」と大きな音を立てて地面をこれまた大きく抉った、地面は溶岩のように溶けて赤く光を放っている。霞の傍に行き大丈夫なのか確かめるが、何ともないらしく笑った。


「お兄ちゃん!出来たよ。火の妖精さん?と相談しながらやったの」

 自慢気に話し出す霞にほっとして、頭を撫で回す。

「霞のお陰でお兄ちゃんもなんとか出来そうな気がしてきたよ、ありがとう」

 本当にわかりやすい例を与えられた気がする、精霊と話をすればいいのだな。


 霞と話し終えると、大人達は漸く冷静さを取り戻したようだ。

「凄いよカスミちゃん!私は感動しちゃったわ」

 メーシェさんが霞を褒めちぎり、側に寄って両手を握っている。他の大人たちも褒め捲っている。



「さあ、次は君の番だが大丈夫そうか?」

 リエルザ様が尋ねてきた、僕は笑顔で言葉を返す。

「ええ、リエルザ様と妹のお陰でイメージが湧きそうです。ありがとうございます」

 そのまま少し長めに距離をとる、先程の霞みたいになると危ないからね。


 集中する。イメージするのは氷の精霊、姿形は雪だるまだ。

 頭の中に声が響く。


『ボクを呼んだ?』「ああ、君を呼んだのは僕だ」

『遊んでくれるの?』「僕の言うことを聞いてくれるならね」

『うんわかった。今行くね』


「さあ、おいでスノーマン!!」


 周囲の温度が先程までと打って替わって、急激に下がる氷点下近くまで下がっただろうか。でも、そんなに寒くはない。

 僕の目の前2,3m先に冷気が集中し出す、まるで雪玉が大きくなっていくかのようにしながら集まっていく。

「ポンッポンッ」と乾いた軽い音が響くと一瞬で、イメージとして見えていたスノーマンが顕現した!


『遊びに来たよ!何して遊ぶ?』

「そうだな~あそこに赤く燃える地面があるだろう? そこに大きな雪だるまを作るってのは、どうだ」

『わかった~任せて~、いっくよー!』


 スノーマンは、くるくると回りながらジャンプしたり手足を動かしたりと踊っているようだ。すると彼が顕現した時と同じように、されど一瞬で霞が開けた穴に3m程はあるだろう大きな雪だるまが完成した。


『できたよー、これでいい?』「ああ、十分だ。ありがとう」

『また呼んでね。名前はくれて、ありがとうね』

 精霊は消え、どこかへ帰って行った。『名前をくれた』って勢いに任せて大変なことをしてしまった。

 

 ふと、足音がして振り返ると霞が走り寄ってきていた。


「お兄ちゃん!すっご~~~~い 雪だるまが雪だるま作っていったよ!」

 飛び掛かって抱き締められた、目がキラッキラしてる。

「彼にはスノーマンという名を付けたんだ。今度また呼ぶから、その時お話してごらん」

「うん、ありがとう」

 素直で可愛いな霞は、少しバカだけど。


 霞の時と同様に大人達は口をあんぐりと開き、呆然としている。精霊関係は珍しいって言ってたもんな。

 大人達が落ち着きを取り戻すまで、また10分程掛かった。


「アキラ、やったな!」

「これは・・・素晴らしい!」

 リグさんと次いでリエルザ様が寄ってきた、拍手までしている。ギルド組とメーシェさんは未だに立ち直れないみたい。うん、ショックが大きいのかな。


 こうして、今日の謎スキル実践の催しは幕を閉じたのであった。

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