第2話 冒険者ギルドにて-1

「ここが冒険者ギルドだ。立派なもんだろう?」

 

 何故か自慢気なリグさん、今日は非番だそうで案内役を買ってもらったのだ。リグさん夫妻はリザードマンだけあって体が大きい、僕たちの1.5倍くらいある。だから、目新しいものに興味津々な霞を捕まえておくのに、非常に役に立ってもらっている。ぼくだけだと少し辛いんだ。



「3階建てのビルだよ、お兄ちゃん。ねぇ聞いてる?」

 霞はもうノリノリだ、目を離したらどこに行くかわかったもんじゃない。妹がこんな状態なので、僕は少し落ち着いて行動できるんだな。

「お前たち、本当に仲が良いな。ほれ行くぞ」


 リグさんは何かに関心しながら、歩を進める。リグさん・霞・僕の順に中へ入る、なんと扉はスイングドアだった。霞のイタズラで危うく顔をぶつけそうになりながらも、なんとか無事に入ることが出来た。お兄ちゃんをいじめないで妹よ。

 中に入るとこれまた広々としたところで、役場の待合室のようにイスがズラーっと並んでいる。カウンターには鉄格子が嵌まっている、強盗でもあるのかな?僕と霞が、周囲に目を巡らせているとリグさんに呼ばれた。


「ボウズ共、こっちだ早く来い」

 リグさんは、いつの間にか一番奥のカウンターの前に陣取っていた。霞の手を引いてその場に駆け寄りカウンターの前に立つ。すると、受付の牛の角のようなものを生やしたおばちゃんが口を開いた。


「あらリグさん、どうしたのこの子達?」

「あぁまぁな、それで冒険者登録を2名分頼みたいんだが」


 リグさんの回答は一瞬で終わり、牛のおばちゃんが冒険者登録に於ける注意点を簡単にしてくれた。名前と性別は必須で、住所は無ければ空欄でも可能だそうだ。また、字が書けないなら代筆してくれるという。そういえば、僕らこの世界の文字書けないんだった。



「では初めに、基本情報の記入をお願いします。用紙はこちらです、代筆は必要ですか?」

「代筆お願いします」

 僕は即答する。


 霞の記入はおばちゃんが、僕の記入はリグさんが手伝ってくれて早く済んだ。この世界の文字って、歴史の授業で習ったような象形文字に似てるな。

 リグさんが書いている文字を見ているだけなのだが、何故か読めている気がする。なんでだろう?

 記入を終えると、牛のおばちゃんはカウンターの手前右側に置いてある機械のようなものに、金属板のようなものを差し込んだ。その後、記入した用紙を機械の上に置くとレーザーのような光を発して、文字をコピーしているみたいだ。


「こちらに手を翳して」

 牛のおばちゃんは霞に声を掛ける。


「リグさん、あれが鑑定の魔道具ってやつ?」

「あぁそうだ、あれは登録用で簡易なやつだな。あれで不明な点があれば、ほれ、そこにあるデカいやつで診るんだ」


 そう言って、右隣のカウンターの前にデデンと鎮座する魔道具を指さす。登録用の魔道具の優に3倍はありそうな大きさだ。そんな会話をしている間にも、霞の鑑定は進んでいたようだ。リグさんと一緒に近寄ってのぞき込む。



「え~と何々? 言語理解、あっ! このスキルのお陰で文字が読めるのか、へ~スキルって面白いや」

「なにぃぃ、言語理解だとぉ? そんなスキル初めて聞いたぞぉ」

「うるさい静かにしなさい」

 牛のおばちゃんにと怒られる僕とリグさん。


 僕が驚いてる横でリグさんも大きく驚いている、ひょっとしてレアスキルなのかな。霞は珍しくも大人しく魔道具を見据えていた。


「あらお嬢ちゃん、精霊魔法の適正があるわね。この国で精霊魔法はかなり珍しいのよ。それと何かしら?」

 牛のおばちゃんが疑問を呈した直後、魔道具の上部が赤く点滅した。


「あらま~どうしましょう。ちょっと待ってて頂戴、偉い人呼んでくるから」

 タタタとカウンターの左後方にあった階段を駆け上がって行ってしまった、リグさんと僕は顔を見合わせる。


「お兄ちゃん、壊しれちゃったのかな~、大丈夫かな~?」

 霞の声が不安をはらんでいる気がしたので、大丈夫だよと頭を撫でてやる。



 暫くすると、牛のおばちゃんが戻って来た。後ろに居るのは偉い人だろうか。

「よう、リグ!珍しいスキル持ちを連れてきたそうじゃねーか?アニタが大慌てで呼びに来たぞ」


 牛のおばちゃんの名前はアニタというらしい。それにしてもリグさん、顔広いな。


「んあぁ、ギネス。マスターのお前がこんなところに顔出す方が珍しいんじゃないのか?」

 ほう、この偉いさんはギネスという名前なのか、人間だよな?

「言うじゃねーか、ハッハッ。まぁちょっと待てぇ、えーと・・・・・・・。

 わかったわかったぁ。この魔道具じゃ鑑定できない、激レアスキルがあるみたいだなぁ。ちょっとぉ嬢ちゃんこっちに来てみろぉ」

 霞が不安げに僕を一瞥して右隣のカウンターに移った。



「さあ、ここに手を置いてくれぇ。あぁそうだ、少しそのままでなぁ。アニター、プレート持ってこいぃ」

 アニタおばちゃんが顎で使われ、金属板を持っていく。直ぐに魔道具が動き始め、金属板に文字が刻み込まれた。


「おー出た出たぁ、なんだこりゃ『魔物の女王様』だとぉ?スキルの説明が空欄だな、ふーむ本部に問い合わせてみないと何とも言えんなぁ」

 『魔物の女王様』って霞、お兄ちゃんは許しませんよ。

 横にいるリグさんをみると口をあんぐりと開けて呆然としている。

 霞が少し心配なので後ろから頭に手を置いてやる、霞が振り返ると目の端に涙が浮かんでいた。



「この分だとぉ、あんちゃんのも期待出来そうだなぁ!」

 ギネスさんは可かと笑い上機嫌のようだが、僕は霞の例もあるので不安で仕方ないのですが。

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