第2-3話:プライベートの話

 昼休みになったのでいつものように働いているビルの玄関まで向かった。会社がまとめて発注している仕出し弁当をそこで買うことが出来るからだ。

 もちろん駅前までそう離れていない会社の立地のおかげで、外へ食べに行こうと思えば選択肢は多い。前に後輩の笹川と会社訪問の際に顔を合わせた喫茶店もある。

 ただ正直なところ、面倒なのであまり昼休みは遠出したくはなかった。そんな自分みたいな人間にとってこの仕出し弁当は非常にありがたい。


 はずだった。

「あれ? どしたんすか、これ」

 いつもであれば弁当を買おうとする社員たちが列を成しているはずの玄関ロビーはひと悶着が起きていた。とりあえず手近にいた顔見知りに声をかける。

 どうやら弁当を運んでくるトラックが、事故だか渋滞だかのせいで送れているらしい。昼休みのあいだに到着するどうかも怪しいそうだ。

 その説明を一手に引き受けている総務の若手が総スカンを食らっているわけだが、まあ責めてる奴らも本気じゃなさそうだし、これ以上ここにいてもしょうがない。

 俺は久しぶりに食堂へ向かってみることにした。


 俺の努めているこの会社はグループ企業の本社に当たる。ここ数年の不況のあおりで、敷地の一部を売却したが、それでも敷地内には複数のビルが立ち並び、食堂はそのうちの1つのビルのフロア1つを丸々占めている。

 部署やビルごとに昼休みの時間をずらすことでピークタイムを分散させようという狙いは本当に成功しているんだろうか。

 久しぶりに食堂に訪れた俺の脳裏をよぎったのはそんな感想だった。

 麺メニュー、魚メニュー、カレー、今日の定食など様々なコーナーが用意されていたがそのどれもにずらりと人が並び、大量に用意されたテーブルもほぼ全て埋まっている。

 とりあえず並んでいる間に席も順次空くだろうと甘い気持ちで料理を受け取った俺だったが空いている席が見つからない。

 いや、まったく空いていないわけではないが、4人がけのテーブルに3人グループが座っているというような場合だけだ。そこに割って入るのもさすがに気が引ける。


 いっそ席まで持ち帰るか。

 そんな考えまで浮かんできたところでいきなり後ろから肩を叩かれた。

神田かんだ先輩! こっちですって」

 妙に切羽詰まった様子を見せていたのは職場の後輩の笹川だった。より細かいことを言えば俺が教育係を務めている職場の後輩と言うべきか。

 そういえばコイツもいつもは弁当を買いに下まで降りていたな。仕方なしに食堂を選んだわけか。

 しかし呼び止めるために肩を叩くのは社会人ではかなり珍しいというか、正直避けるべき行為だと思うぞ。しかも先輩相手に。

 まだ俺だからいいが、頼むから他の先輩方を呼ぶ際には、前に回り込んで視界に入るとかして、なんとか声だけで解決して欲しいところだ。

 それをどう伝えたものか悩みながら後をついていくと壁に接しているせいで変形テーブルになっている3人がけの席に到着した。そこにはすでに女性の若手社員が1人、俺と同じ今日の定食(ちなみに魚の揚げ物だ)を前にスマホをいじっている。

「ほら、ここ空いてますから」

 あいも変わらず余裕のない表情で俺にその席を勧めてきた。

 仕事でどんなピンチのときでも自分のせいではないと信じ切った平気な顔しか見せないコイツがこんな表情を見せるのは珍しい。

「この人、職場の先輩。神田先輩、こっちは俺の同期の……」

「初めまして、笹川の同期の雨宮あまみや花梨かりんです」

 初対面の、それも別の職場の先輩にも物怖じする様子もないところは笹川に似ている。違うのは礼儀を心得ていること。そして十人並みの顔の俺や笹川と違い、なぜ営業や受付に回されなかったのか不思議で仕方ないその容姿だ。

 ハーフかクォーターかは知らないが欧米系の血が混ざってる気がするその整った顔は、それだけでは距離を感じさせるところだが、少し垂れ気味の目元が親近感を覚えさせてくれる。地毛と思われる少し茶色味がかった髪の色も同様だ。

「経理部の予算管理課に配属されました。趣味を聞かれたら映画鑑賞と答えることにしてますけど正直そんな数を見てるわけでもないです。はい、そんなこんなで宜しくお願い致します」

 ここまで一瞬の淀みもなく一気に自己紹介を終えるとニッコリと笑みを浮かべた。

 まずいな。

 俺の危機回避アビリティが、この女と全力で距離を取れと言っている。

 。その上、新人で、しかも愛想が良い。ほぼ役満だ。同じ部署じゃなくて本当に良かった。過去に何度か、社交辞令で女性の後輩に優しくされた同僚が失敗をやらかすのを見て来た身としては恐怖しか感じない。

 俺は日本人お得意の曖昧な笑みと頷きで応じ、あとは笹川に任せることにして食事に取り掛かった。

 しかし。


「笹川くんって職場でどんなんですか?」

「本人に聞いてくれ」

「……」

「それがぜんっぜん教えてくれないんですよー。同期なのに冷たいと思いません? 神田さんって同期と仲いいんですか? あ、そういえば神田さん、今8年目でしたっけ? 確か経理部に同期いると思うんですよね」


「神田さんはどんな仕事されてるんですか? 情報システム部ですよね? ハッカーみたいなこと出来るんですか?」

「出来ないな。笹川は優秀だからすぐ出来るようになるんじゃないか?」

「……」

「そうなんですか? 確かに会社で仕事にしてる人たちなはずなのに先輩方が大したことないみたいなこと言ってましたけど……あ、これ言っちゃいけないんだっけ? ごめん!」


 おい。笹川。ちょっと待て。

 いや、お前が俺たちの腕前をどう思ってようがそれはどうでもいいんだ。

 わざわざ2人で飯を食ってたってことは多少は下心があるんだろう。少しは努力しろ。いつも職場で見せている傍若無人っぷりというか、面の皮の厚さっぷりというかはどうしたんだ。頼むから俺に喋らせるな。


「神田さん」

 とっとと食べ終えようとする俺にタイミング良く話しかけてくる。

「情報システム部って残業ばっかりって聞いてますけど、ホントですか?」

「まあ、嘘じゃない」

 話が広がらないよう気を付けているつもりだったが。

「良かったー、私、定時後に映画を見に行きたかったんで、残業がない職場がいいって頼んだら経理部にしてもらえたんですよね。そもそもこの会社に決めた理由の1つも映画だったんですよ」

 うちって映画好きに訴求力あるような会社だったか? そんな疑問が浮かんだが、わざわざ自分から話を膨らましに行く理由もないな、と黙っていた。しかしその程度では止まらなかった。

「そういえば先輩、ミステリ読まれるんですか?」

「少しは」

「笹川くんから聞いたんですけど、クリスティ読むらしいですね。ほら、最近、アガサ・クリスティ原作の映画がやってたじゃないですか、ほら、えーと……」

「オリエント急行殺人事件か」

 つい答えてしまった。あまり本は読まないが推理小説だけは好きだ。上手く釣られた気もするが仕方ない。

「そう、それです。アレ、調べたんですけど、珍しいんですよね、映画のタイトル」

「珍しい?」

 何がだろう。あまり映画を見ないので珍しいタイトルとそうじゃないタイトルが分からない。

「原語の英語のタイトルと邦訳がほぼ同じなんですよ。英語のタイトルが Murder on the Orient Express ですから」

 その英語発音を聞いて思い出した。そうか、予算管理課に配属されたという噂の才女がコイツか。

 うちの会社は海外展開をしているグローバル企業でもあり、予算管理課は連結決算のために海外とのやり取りも多いと聞いている。

 英語を含めた数ヵ国語を使える新人の1人が経理部に引き抜かれたとかなんとか、という話を建井さんが悔しそうにしていた。うちの部署もグローバル統一システムを保守している関係で海外とのやり取りは多く、英語が使える人材は慢性的に不足している。

 会社の主要な部署が奪い合うような優秀な人材か。出世街道間違いなしだ。

 会社の派閥争いだのなんだのには距離を置きたい人種である俺としては、ますます関わり合いになりたくない。

「まあ、原作の小説が日本でも有名なタイトルだからだろ」

「ですよね! 普通そう思いますよね!」

 話を終わらせにかかったはずの俺の言葉に、我が意を得たりばかりに表情を輝かせる雨宮。

 こういう表情の変化がいちいち絵になるな。

 おい、笹川。見とれてる場合じゃないぞ。いい加減喋れ。

「指輪物語って知ってます? トールキンの小説」

「タイトルくらいは聞いたことはあるな」

「あれ、映画版、タイトル違ったじゃないですか」

 へえ、映画あるのか。あまりファンタジーは興味ないから知らなかった。

「ロード・オブ・ザ・リングって映画、知りません? あれ、原作の英語名そのまんまなんですよ。なんで、指輪物語はカタカナでオリエント急行は邦訳と同じなんでしょうね。推理小説以外あまり興味なさそうな神田さんですら指輪物語って聞いたことあるくらいなんですから、カタカナにするメリットってあまりないですよね」

「商標の問題か何かじゃないか?」

「そうかもしれませんね。でももったいない気がするんです、だって『ロード』って言われたら普通の日本人は『道路』とか『道』のほうが浮かんじゃって、名前だけは知ってるってレベルの人だと『指輪物語』と関連付けないじゃないですか」

 確かにな。少なくとも俺はそうだった。

 ちなみに「ロード・オブ・ザ・リング」の「ロード」は「Lord」であり、物語の中心となる指輪の持ち主であるラスボスを指すらしい。知らなかったが正直あまり興味はない。

「あ、それで思い出したんですけど、神田さん、『プライベートライアン』って映画ご存じですか? 見たことなくても聞いたことくらいはありますよね。あれ、ライアンって人のプライベートを描いた話じゃないんですよ」

「へえ、違うのか」

「あの Private は二等兵って意味で、そもそも元のタイトルも『Saving Private Ryan』だから、そのまま訳すと『ライアン二等兵を救出せよ』ってなるんです。映画の内容そのものです」

「戦争映画なのか」

 冗談抜きでライアンって人間のプライベートを描いた話だと思ってた。

 ちなみにこの会話をしている最中に、笹川がいきなりスマホで映画情報を検索し出して、何か言いたそうにしていたが、結局何も言わなかった(あとで得意げに騙られたことによると Wikipedia の説明と雨宮の説明が食い違っていたらしい。それだけ言うと笹川は席に戻っていった)。

「そうなんですよ! 映画の内容が伝わらないタイトルなんて本末転倒もいいところですよね! それでいて映画のポスターとか予告編って、そこまで知りたくないのにってレベルまで紹介してくるし、もう、ホント困っちゃいます」

 そういうと全然困っていなさそうな笑みを浮かべる。

 これほどの美人が、こういう親しみがいのある笑みを浮かべてくれると、それだけでもう「落ちる」連中が大量にいるんだろうな。

 今、まさに隣にいるコイツみたいに。

「そうそう、映画の内容が伝わらないタイトルって言えば、神田さん、『モンスターズインク』って聞いたらどんな内容だと思います? モンスターズはまあいいとして、やっぱりインクって聞いたらペンのインクを思い浮かべますよね。『モンスターのインク』って感じで、じゃあどんな魔法のインクなんだろ、って思いません?」

 俺が話を広げるつもりがないことをすでに分かってるらしく、少しでも答える気がなさそうと見ると、一気に話を自分で進めていく。そして少しでも俺の興味を引けそうだと気づくとそこを広げる。

 人たらしというか、なんというか、ご苦労なことだ。

 まあ、一応は俺も「落とす」だけの価値が多少はあると思われているわけか。それはそれで評価されてると言えなくもない。ありがたくもなんともないが。

 そんな下らないことを考えている間にも雨宮の言葉は止まらない。

「でもペンのインクって英語だと Ink って書くんですけど、この映画のタイトルのほうって Inc なんです。これ、Incorporated の略で、要は『法人』って意味なんですよ。あえて分かりやすく訳すなら『モンスター株式会社』って感じです。ホント、映画もそんな内容なんですよ」

「ピーターパンもパンは関係ないしな」

 相手が一息ついた瞬間に、これだけ馬鹿なことを言えば解放されるかもしれない、と思いながら、自分でもドン引きするようなネタを放り込んでみた。

「フライパンも空を飛ぶの関係ないですし」

 しかし、さらっと拾うとニッと笑って見せた。

 可愛いか可愛くないかで言えばめちゃくちゃ可愛い。

 それが怖い。

 しかし関わりたくないという気持ちを好奇心が上回った。

「そういえばフライパンのフライってなんだ。揚げ物のフライじゃないよな。フライパンじゃ揚げ物しないし」

「惜しい! めっちゃ惜しいです! 簡単に言うと揚げ物のフライなんですよね。えーと、そもそも空飛ぶほうは Fly で、フライパンのほうは Fry なんです。これ、炒めるとか揚げるとか焼くとか、そういう意味全般なんですよ。だからフライパン。それにフライパンでも揚げ物しますよ。もしかして揚げ物って専用の鍋でしかしないと思ってました? あまり料理しないってのがバレバレですよ。でも、そっか、残業多いとやっぱりコンビニ弁当とかで済ませちゃうんでしょうか。でもそういうの、体に良くないじゃないですか。気を付けたほうがいいです」

 本気で言っているとも思えなかったが、実際まさにその通りだ。体に良くない生活習慣になっていることは間違いない。気を付けたほうがいいかもしれないな。

「そうだな。そういう意味では、うちの会社、健康診断とかちゃんとしてくれるのはありがたい話だ」

「ホント、そうですよね、福利厚生が充実してるのもここの会社にした理由の1つで……あ、そうそう、会社の福利厚生の1つで映画のチケットの割引券が買えるってのがあるじゃないですか」

「あるのか?」

 それは素で知らなかった。

「えー、もったいないですよ、全然見ないんですか? もし半年に10回以上見るならおススメですよ。でもそれより少ないなら厳しいかもしれませんね」

 唇を尖らせてわざと不機嫌そうな顔をする。

「チケットなんですけど、期限があるんですよね。だから使い切らないと元が取れなくて、やっぱ損するのは嫌じゃないですか。無理してでも見るしかないってなって色んな映画を見るようになるらしいですよ」

「そうか。俺は年に数えるほどしか見ないし、1800円払って見ることにするよ」

 そう言い切って、これ以上は話に付き合うつもりがないことをはっきりさせたつもりだった。それは雨宮にも伝わったようで苦笑しながら「まあ、それは個人の自由ですから」と肩をすくめた。

 俺は内心で安堵のため息ついた。


 しかし。


「神田先輩、それさすがにコスパ悪くないですか」

 嘘だろ。

 お前、ここで喋るのかよ。

「好きで払ってんだから別にいいだろ」

「そうやって馬鹿正直に1800円払う人がいるから適正価格に落ち着かないんですよ。大抵の映画館なんて近くに金券ショップあるんですから、そこで見たい映画の前売り券を探したほうが絶対に得です。仮に見たい映画そのものの券が無くても、上映館の系列ごとの割引券ならあるはずですし、大した手間でもないのになんでやらないのか理解できません」

 ここまで一気に言い放たれて俺は辟易としたが、得意げに俺を見ている笹川を見ていて気づいた。

 そうか、コイツ、雨宮にいいところを見せているつもりなのか。

「じゃあ、俺、先に戻りますね」

 多分、本人は颯爽と席を後にしたつもりなのだろう。

 最後まで雨宮をしっかり見ることもできないまま姿を消した。


「可愛いですよね、笹川くん」

 立ち去る笹川の後ろ姿を眺める雨宮が浮かべた笑みは、楽しそうではあったが、好意に類するものがまったく感じられなかった。

「あまりからかわないでやってくれるか。ただでさえ色々面倒くさいヤツなんだ」

「ええ、神田さんも大変ですね」

「笹川はお前のことが気になってるみたいだな」

 別に仲を取り持つつもりなどなかった。ただここまで自分の思い通りに事を進めている相手を多少なりとも焦らせたくて、つい聞いてしまった。

「笹川くんのこと、好きですよ」

 だからこの見事な反撃には口に含んだ食事を吹きだしかけた。なんとかギリギリ咳き込むだけで済ませた俺は、自分でも目を丸くしていることを自覚しながら相手を見やった。

「嘘だろ?」

「神田さん、めっちゃいい顔しますね」

 ケラケラ笑われた。

「当たり前ですけど、恋愛感情はないですよ。安心してください」

 安心ってなんだ。

 そう言い返そうとして、普通に安心している自分に気づいた。この安堵はなんだ。まさか自覚してないだけで俺もこの後輩に心を奪われているとか? 正直、あまりぞっとしない考えだ。

「面白いじゃないですか。あんな意識が低い『意識高い系』の子。ホント、面白いですよね」

 口の端で薄く笑う。

 嘲笑の一歩手前の笑みで止めているのは周囲の目も意識してだろうか。逆に、俺にここまで垣間見せている理由も良く分からなかった。

 色々考えさせられている時点で、手のひらの上にで踊らされている気もした。

 まあいいか。

 笹川もおそらくはもう関わらないほうが身のためだろうが、俺にそこまで踏み込む権利はない。仕事に支障がでない限りは手を出すまい。


 雨宮がトレイに手をかけた。いつの間にか食事を終えている。気が付くと昼休みもほとんど終わりかけていた。

「では今後とも宜しくお願い致しますね」

「縁があればな」

 無いほうがいいんだが、というのが言外に伝わるよう返した。

「ところで神田さん、ミステリが好きらしいですけど、1つおススメしておきますね」

「映画か?」

「はい。『アメリ』って映画です。ちなみに原題は Le Fabuleux Destin d'Amélie Poulain です」

 何語だ? そういえば英語と日本語以外も喋れるマルチリンガルだったな。

「フランス語で『アメリ・プーラン、その素晴らしき運命』という意味です。日本語タイトル、かなりの意訳ですよね。でも私、この日本語のタイトルのほうが好きです。本当にどこまでも『アメリ』の物語なんです。上映されたとき、フランスの女の子たちはみんなアメリの運命に憧れたらしいですよ」

 そう微笑むと、トレイを持ち上げて立ち上がる。

 そして俺の側を通るとき、スッと顔を近づけて耳元に囁いた。

「もちろん私も」


 映画「アメリ」は、主人公の女の子であるアメリが一目惚れした男性の気を惹こうと悪戦苦闘する話だった。

 もちろんそれだけではなく、伏線と回収や謎解きなどの要素も確かにあったので、ミステリ好きだから薦める、という選択肢も分からないでもなかった。

 それでも、別れ際の思わせぶりな態度とこのラブストーリーの筋とを合わせると、別の意味にも深読みできる気がしたが、正直、あまりそっちには考えたくなかった。

 ただでさえ日々の仕事は忙しく、後輩は素直に指導される様子もなく、健康的な生活はなおも遠かったから、余計な気苦労は背負い込みたくなかった。


 ただその気苦労が向こうから背負われにくることまでは止めきれなかったのだが、それはまた別の話だ。

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