第2ー28話 お肉が食べたいのです。

「僕達も確認しなかったのが悪かったんだから、あんまり気にしなくていいんだよコンちゃん。」

 メガネが伏し目がちなコンちゃんに声をかける。第5ダンジョン部はまだ「黒磯駅前のダンジョン」前にいた。

「でも…。」

「気にすんな気にすんな!俺達には一月後には北海道旨いモノ祭が待ってるんだぜ?」

 タマ、合宿だからな。ただ旨いモノを食べに行くワケじゃないんだぞ。

「だが、そんな話をしていたら何か旨い物が食いたくなったな…。」

 タマの腹がグゥとなった。そしてもう1人腹を鳴らしたが、ここでは誰かは言わないでおこう…あれ?フェミちゃんの顔が赤いな…何でだろうね?

 時刻は間もなく正午になろうとしていた。

「あれ?あそこにいるのって…。」

 駅前のスーパーから出て来た人物にテレちゃんが気付いた。

「丹澤先生?…と、月刊ダンジョンの編集長さんだよね?他人のそら似かな?」

 メガネは半信半疑のようだ。

「こんな時は電話をかけてみましょうぜ!」

 タマはスマホで丹澤慶子に電話をかけた。丹澤慶子はバックからスマホを出して……無視した。

「……俺の着信を無視しやがりましたね…。」

 タマは軽く傷付いた。そしてその傷付いた気持ちは哀しみになり怒りへと変わっていった。

「うおのれ~丹澤慶子!!これが緊急事態の電話だったらどうするんだ!!ギャフンと言わせてやりますぜ!」

 そう言うとタマは丹澤慶子に向かってソロリソロリと静かに近付いて行った。

「ねえ、テレちゃん…あれ止めなくていいの?」

「いいんじゃないのか?どう考えても返り討ちにあうだろうけど。」

 遠くで第5ダンジョン部が見守る中、後ろに回り込んだタマは丹澤慶子に対してカンチョーの構えをとっていた。

「本当にバカだよなアイツ…。」

 テレちゃんは第5ダンジョンのメンバーの気持ちを代弁するように言った。そもそも女性にカンチョーしてやろうという発想が出るのが信じられないな。

 今思い出したんだけど作者が中学生の時にU君でヤツがいてさ、そのU君にK君ってヤツが渾身の力を込めてカンチョーをした事があったんだよ。そしたら、K君の指が折れちゃって大騒ぎになってね…。でもU君はなんともなかった。その後U君は「ダイヤモンドの肛門を持つ男」略して「ダイモン」というアダ名で呼ばれるようになったとさ。まあ、そのアダ名つけたの作者なんだけどね。元気かな…U君……。

 そんな話はさておき、タマは丹澤慶子にジリジリと近付いていた。

「そろそろかな?」

 メガネがそう呟くとほぼ同時に丹澤慶子は振り向きもせずに後ろ手でタマの腕を取り投げを打った。それは相手の背中を地面に落とすモノではなく脳天を地面に叩きつける殺人投げ技だった。

 タマの脳天がアスファルトにぶつかるすんでのところで神野さんが背中をトンと捌き、タマは大尻もちをつく形になった。神野さんのお陰で命拾いしたな。

「あらタマ君。どうしてこんな所にいるの?」

 先程命を奪う勢いだったのに関わらず丹澤慶子は何事もなかったように語りかける。

「先生!」

 他の第5ダンジョン部のメンバーも丹澤慶子の元に歩み寄った。テレちゃんはフェミちゃんの肩に手を添えている。

「みんなも?ああ、そこのダンジョンに行ったのね。どうだった?」

「はい。クリアしてきました。それより先生、デートですか?」

 フェミちゃんはニヤニヤしながら丹澤慶子と神野を交互に見る。

「そ…そんなんじゃないわよ!ちょっと良い肉とチーズが手に入ったからついでに…本当についでに神野さんを誘ってバーベキューをしようと思ってね。その他の買い出しをしたところよ。」

「肉とチーズ?」

「ええ、那須塩原ダンジョンスタンプラリーの景品よ。あなた達も頑張ってね。」

「先生いつの間に?」

「仕事終わってから1人でちょこちょこ行ってたのよ。一昨日制覇したわ。」

「それは良い事を聞きましたぜ…。」

 タマが尻を擦りながら立ち上がる。大丈夫みたいだな。

「何よ?」

 メガネは事の顛末を丹澤慶子に語った。

「そう…それは残念だったわね。私もギリギリだったみたいね。」

「さて、その可愛そうな教え子達に先生はきっと、必ず、そして間違いなくその肉を食べさせてくれると俺は思ってるんですけど…先生はどう思いますか?」

「え~~~。」

 『え~~~』はないだろう…。

「いいじゃないか慶子。もっと肉を買い足してみんなでバーベキューしようじゃないか。」

 神野は大人だった。

「まあ、神野さんがいいならそれでいいわ。」

 こうして第5ダンジョン部は肉にありつける事になった。タマはテレちゃんを再びおんぶして車へと向かう。

「なあ、フェミちゃん、気が付いたか?」

 テレちゃんがにやけながら同じくにやけるフェミちゃんに言う。

「もちろん。」

「何をだ?」

 背中にテレちゃんのおっぱいを感じながらタマは2人の会話に口を挟む。

「神野さん丹澤先生の事『慶子』って呼んでたよ。」

「そりゃ丹澤先生の名前は慶子なんだから当たり前じゃないか?」

「タマは本当に鈍感だな。2人きりでバーベキューをしようとしてて男性が女性をファーストネームで呼ぶなんて特別な関係としか考えられないだろ?」

「そういうもんかね?」

「そういうもんだ。」

「じゃあ、俺も『ていちゃん』と呼ぼうか?」

「恥ずかしいからマジでやめてくれ…。」

 作者はアダ名で呼びあうのもなかなかの親密さだと思うがな…。

 

 第5ダンジョン部と丹澤・神野ペアは那須町のキャンプ場兼バーベキュー場に来た。黒磯駅は那須町に物凄く近いのだ!!

「いや~いっぱいいるな~。」

 天気の良く土曜日ということで家族連れやら若者の集団やらでバーベキュー場は賑わっていた。

「想像以上に混んでるわね…。」

「先生!!あっちが空いてますぜ!」

 テレちゃんをおんぶしながらタマは上流の方を指差した。…ってか足を傷めてるとはいえ、テレちゃんをおんぶするのが当たり前みたいになってないか?テレちゃんも恥ずかしさに慣れちゃったみたいだね。

 上流に向かうとロープが張られている。

「何じゃこりゃ?」

「タマ君、どうやらこの先は私有地みたいだよ。ほら『この先、鈴木家私有地。立ち入るべからず』って書いてあるよ。」

「じゃあ、あそこでバーベキューしてるのはその鈴木家の方達って事なんだな?こっちでやっていいか交渉してきますぜ!!」

「ちょっとタマ君!!」

 丹澤慶子の静止も聞かず足場も悪いのにタマはテレちゃんをおんぶしたままその集団へと走って行った。


「お姉さま。何だか向こうが騒がしいですわね。」

 鈴木典子は混みあった下流方向を見ていた。誰だって?覚えてないか…タマを暗殺(?)しようとしたアイツだよ。

「気にしないで食べましょう。ほら、その辺のお肉ちょうど良いんじゃないかしら?」

「お…お姉さま!!」

「今度は何?」

 鈴木典子は下流方向を震えながら指差していた。

「あああ…あれは!!」

 指の先には憎き男がこちらに向かって走って来ていた。

「「た~ま~の~い~!!!!」」


 

 こりゃまたひょんな所でお会いしましたな…。まだ鈴木姉妹はタマの事恨んでるみたいだね…。妹は逆恨みだけどさ。

 次回!!肉を食う!!………つづく!!

 

 


 


 

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