第2ー29話 肉を焼いて食うのです。

「おや!鈴木元会長じゃあ~りませんか!!鈴木家ってのは鈴木元会長の家の事でしたか。それなら話は早い。俺達もここでバーベキューをさせるが良い。」

 鈴木姉妹が発する敵意をスルーしてタマは上から目線で頼んだ。それは頼んだのか?

「お断りよ。」

 鈴木元会長は間を開けずに答えた。

「え?何で?」

 タマは心底不思議そうだ。今までの鈴木元会長への数々の所業があるのにそう思えるのが凄いな…。

「『何で?』じゃなわよ。ここは我が家のプライベートリバーサイド(私有地内河川敷)よ。何なら不法侵入で警察呼ぶわ。」

「それは困りますな。…おや?そちらはどなた様でしたかな?どこかで…」

 タマが鈴木典子を見ながら記憶をたどる。たどる…そして、たどる。

「あ…、中1の時に高山君に借りた200円返さなきゃ!」

 たどり過ぎた。何やってんだか…。

「タマ、覚えてないのか?ほら全高ダ……」

「お、お姉様!!別に良いんじゃないですか!?ほら!!あの辺でやってもらえば!」

 テレちゃんの言葉を鈴木典子が遮る。そういえば、全高ダンの会場に行ってた事はお姉ちゃんには秘密にしてたんだったね。その様子を見てテレちゃんはタマに耳打ちをする。

「覚えてるだろ?この子は全高ダンの時にタマのファンだって言って飲み物を持って来てくれた子だよ。彼女(典子)は姉の手前タマのファンだって言えないんだな。」

 違うよテレちゃん…。

「うむ…なるほど、そういう事か…。」

 だから違うってば!

「何をこそこそ話してるの?典子も何でこの人達の肩を持つのかしら?」

「ま…まあ、良いじゃありませんか!」

「そうだぞ元会長、そうケチケチしなさんな。それに丹澤先生も月刊ダンジョン編集長の神野っちもいるから恩を売っておくが良い。」

「………まあ、先生や編集長さんもいるのなら…妹の顔も立ててあそこの辺りなら良いわよ。」

 権力には弱いな元会長…。

「助かるぞ元会長!褒めてつかわす。」

「後で挨拶には行くけれど、こちらには一切干渉しないでちょうだい。今日は私と妹そして使用人さん達の親睦会なんだから。」

 使用人までいるとは本当にお金持ちなんだね。


「お~い皆!許可を貰って来たぞ!鈴木家って元会長の家だった。」

 タマはテレちゃんをおんぶしているとは思えないダッシュで皆の元に帰って来た。危ないな…気をつけろよ。

「それはラッキーだったわね。」

 そんな丹澤慶子の言葉にフェミちゃんとメガネは思った…「タマが交渉役でよく許可が出たな…」…と…。


 鈴木家バーベキューパーティーからだいぶ距離を取り第5ダンジョン部は準備に取り掛かった。

 火をおこすメガネと神野、食材の準備、下ごしらえをするテレちゃんコンちゃん、テーブルや椅子を用意するフェミちゃんと丹澤慶子(※飲酒しながら)、マヨネーズの確認に余念のないタマ。……1人だけ働いていない!!

 

「…では、え~と…特に言う事はないけど…乾杯!!」

 ここに来て4本目の缶ビールをかかげ丹澤慶子が乾杯の音頭を取る。網の上ではジュージューと肉が食欲をそそる音を立てている。

「んふふ…肉肉!!」

 タマは肉を皿に取るとマヨネーズをニュルニュルとかける。

「ちょっとタマ君、和牛にマヨネーズはもったいないんじゃない?」

 メガネが注意するもタマは一向に意に介していない。呆れるメガネに丹澤慶子が耳打ちをする。

「安心してメガネ君。タマ君の前にある肉は全てアメリカ産牛肉よ。せっかくの和牛をマヨネーズまみれにされてたまるもんですか。」

 確かに丹澤慶子の言う通りだけど…。

 タマはもはや肉であるかどうか解らない白い物体を口に運んだ。そして一噛み二噛みするとコトリと箸を置いた。

「…違う…。」

「どうしたんだタマ?」

 呟いたタマに正真正銘の栃木和牛を食べているテレちゃんが反応した。

「これは栃木和牛ではない!!外国産…おそらくアメリカ産の牛肉だ!!」

 そう言うとタマは丹澤慶子に目線を向けると丹澤慶子は目を逸らした。

「先生!俺に何か隠してますね?」

「……ええ、そうよ!タマ君にせっかくの良い肉を台無しにされるワケにはいかないわ!でも何でそんなマヨネーズまみれで判るのよ!」

 詰め寄るタマに観念した丹澤慶子は逆ギレと共に自白した。

「それは聞きずてなりませんぜ!マヨラー差別じゃないっすか!マヨネーズがどんなについていようとも和牛との違いなんて一目瞭然ですぜ!」

「ねえタマ君、脂の乗った和牛にマヨネーズは余計なんじゃないかな?その赤身の肉の方がマヨネーズに合うと私は思うんだけど。」

 肉をモキュモキュ食べながらフェミちゃんがもっともな意見を言った。俺もそう思うぞフェミちゃん。

「では聞く。フランス料理に『ロッシーニ風ステーキ』と言うのがあるのを知っているか?」

「確か牛ヒレ肉のステーキの上にフォアグラが乗ってる高級料理ですよね?」

 肉、肉、玉ねぎ、肉、ピーマンの順番で食べ続けているコンちゃんが答える。

「その通りだコンちゃん。ヒレ肉は本来脂の少ない部位だ。そこに脂の塊と言っても過言ではないフォアグラを乗せて脂を補完しているワケだが、昨今の高級和牛のヒレ肉には脂が乗っているのだぞ?それに更にフォアグラを乗せるのに説明がつかないだろ?ではなぜ脂の乗ったヒレ肉にフォアグラを乗せるのか……答えは簡単だ。美味いからに決まってるだろ?ならば脂の乗った和牛にマヨネーズをかけたっていいじゃない!」

 う~ん…それが美味いかどうかは別にしても一応筋は通ってるな。

「屁理屈はもういいわ。とにかくマヨネーズをつけるのはアメリカ産のみよ。これは私の買った肉だから有無は言わせないわ。」

 ここは引いておけタマ。

「横暴だ!!俺は断固戦いますぜ!!」

 引けよ!!

 そんな不毛なバトルの中、鈴木姉妹が丹澤慶子と神野に挨拶するために近づいてきた。

「丹澤先生お久し振りです。編集長(神野)一度お会いしてますが覚えてますか?元第1ダンジョン部部長の鈴木です。」

「久し振りね鈴木さん。場所貸してくれてありがとう。」

 丹澤慶子は先程までの形相とは真逆のにこやかな表情で答えた。

「もちろん覚えてるよ。大学でも活躍してるらしいじゃないか。いずれ取材させてもらおうと思ってるからその時はよろしくね。」

「ありがとうございます。ところで何やら揉めているように見えましたがどうかなさったんですか?」

 ああ…聞いちゃったよ…。巻き込まれるぞ。

「鈴木姉妹!良い所に来てくれた!!ちょっとこっち来てくれ!!」

 ほら巻き込まれた。

 タマは白い塊の乗った皿を二枚差し出す。無論マヨネーズまみれの肉だ。片方の皿にはマヨネーズアメリカ産牛肉、もう片方は皆が鈴木姉妹に気を取られている間にくすねたマヨネーズ栃木和牛である。

「この2つの肉を食べ比べて感想をもらえないか?ウチのメンバーだと偏見が入ってイカンのだよ。」

「絶対にお断りよ。ねえ典子。」

「ええ…。」

 鈴木典子は全高ダンでのマヨネーズたこ焼きの悪夢を思い出していた。

「そう言わずに!今度は絶対美味しいから!」

「今度は?」

 鈴木元会長は訝しげに典子を見る。タマよ…今のは失言だぞ。

「お姉様!何でもありませんわ!そこまで言うのでしたらいただいてみようかしら!」

 そう言った典子の顔はひきつりながらも覚悟を決めたモノだった。そんなに姉にあの時の事がバレたくないのか?

「じゃあ、まずこっちから食べてみてくれ。」

 タマは片方の皿を典子の前に置いた。典子は震える箸でそれを取ると恐る恐る口へと運ぶ。

 次の瞬間、典子の口からはグ○ート○タの毒霧の如くマヨネーズが噴霧された。それは太陽の暖かな光に照らされキラキラと輝き神々しささえも纏っていた。…と表現してみたけど、要するに吹き出した。

「!!典子!大丈夫!?」

「だ…大丈夫……ですわ。大丈夫…だ……」


 ※しばらくお待ちください※


「いや~やっぱり川辺でバーベキューは最高ね。」

 丹澤慶子はビールを片手に大きく伸びをする。あれ?鈴木典子は?

「本当に気持ち良いですよね~。」

 フェミちゃんも食後のアイスをメガネと美味しそうに食べている。だから鈴木典子は?

「コンちゃん水気持ち良いぞ。」

「じゃあ私も…。」

 傷めた足を川で冷やしていたテレちゃんがコンちゃんを誘う。お~い、鈴木典子は?

「なあ慶子…。」

「なぁに神野さん?」

「玉乃井君はあのままでいいのか?」

 神野の指差した先にタマが緩やかな川の流れに乗ってどんぶらこと流れて行ったそうな…。

 タマならきっと大丈夫!!…たぶん……。


 次回!!時はスルリと進んで合宿前日!!

 いや~それにしても前回から大分間が空いてしまった…。これからは定期的に更新します!…出来るだけ……。……つづく!!


 

 

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