第2ー27話 説明はよく読んだ方が良いのです。
「タマ…本当に降ろしても良いんだぞ?」
タマの背中でテレちゃんは申し訳なさそうにしている。
「何を言ってるんでございますか?全然大丈夫でございますことよ!」
言葉使いがおかしな事になってるぞ。限界なんじゃないのか?
第5ダンジョン部は「黒磯駅前のダンジョン」の16階、つまり最上階にたどり着いていた。9階からテレちゃんをおんぶして来たタマは12階までは余裕だったものの13階で痩せ我慢状態になり15階に達した時、おんぶに限界を迎えた者のみが味わえるという伝説の「オンブーズハイ」の状態になっていた。
「タマ君、ボスの間が見えたよ。」
そんなタマを見て見ぬふりをしていたメガネだったが、さすがに声をかけた。
ボスの間はこれまであった襖ではなく木製の朱塗りの扉だった。扉の前でしばしの休憩を取る事にした。
「おいタマ、早く降ろせよ。」
皆が座る中、タマは立ったままテレちゃんを降ろそうとしない。
「何を申しておる。我はおんぶの神…恩憮主大神(おんぶのぬしのおおかみ)であるぞよ…。我からおんぶを盗ろうとするお主、只では済まぬぞ…。」
何かタマは「オンブーズハイ」を通り越して神の領域に達してしまったようだ。その結果、おんぶの神がタマに降臨してしまったらしい。……ってなんじゃそりゃ!!
「まあまあタマ君…。」
フェミちゃんはにこやかに近寄ったかと思うとタマのミゾオチに当て身を食らわせた。
「ヒウ!!!!」
タマは一瞬にして気絶する。その結果、恩憮主大神も出現から10行そこそこで天に帰って行った。さよなら、おんぶの神様…。
「テレちゃん大丈夫?」
心配するフェミちゃん。タマの心配もしてあげようよ…頑張ったんだから…。
「大丈夫だよ、ありがとう。タマもありがとうな。」
テレちゃんは気絶しているタマの頭を優しく撫でる。
「テレちゃん、ボス戦はどうしようか?」
「大丈夫。アンデットナイトにおんぶしてもらう。」
その手があったか…。
「よしっ。じゃあタマ君が意識を取り戻したら入ろうね。」
もはやタマの気絶は日常茶飯事になっちゃったな。
「お~…カッコいいボスだな。」
ボスの間に入ったタマは先程まで気絶していたとは思えない位普通に感嘆の声を上げた。
部屋の奥には身長3メートル程の赤と黒、そして金をあしらったきらびやかな鎧を着た武者が悠然と座っている。
「さあ、行くよ…。コンちゃんはロックの応援歌をよろしく。テレちゃんとタマ君は回復よろしく。」
フェミちゃんの抑えた声で素早く陣形を作る。
「リーチは圧倒的に相手が長いから距離はとるより詰めた方が斬撃は食らいヅラいよ。ただ、蹴りも出して来るから気を付けて!『ショーグン』は闇属性だからテレちゃんの闇の攻撃魔法は効かないからね。」
メガネはフェミちゃんの作戦の補足を口早にしてフェミちゃん、マー君ライダーコンちゃんと前進を始めた。テレちゃんはアンデットナイトを召喚してその背に乗る。
ショーグンは近づいてくるダンジョン部を迎え撃つ為にゆっくりと立ち上がり鞘を投げ捨てると刀を脇から大きく後ろに振りかぶる。
「武蔵なら『小次郎敗れたり』って言うところだね。横一閃に払うつもりだよ。散ってタイミングをずらす。私が最初に行くね!」
そのフェミちゃんの言葉にメガネとマー君は散開した。ショーグンの間合いに入ると轟音を立てて予想通り横に刀を薙いだ。フェミちゃんは小さな身体を屈んでより小さくしてそれをかわす。
「よし!予想通り…あっ…」
ショーグンは横に振り抜いた刀をもう既に両手で頭上に構えている。
「フェミちゃん!」
メガネが叫ぶ。
「くっ!!」
フェミちゃんは走りながら右斜め前に転がった。先程までフェミちゃんが走っていた軌道に刀が振り下ろされ床が爆ぜる。コンちゃんのスピードアップの応援歌がなければ危ない所だったね。
「想像以上に速いよ!みんな気を付けて!」
「うわ~…。アイツすげぇ強いな。」
ショーグンは3人を相手にしながらもほぼ互角の戦いを演じている。
「メガネの消費が激しいな…『伯爵の呪い』…。」
テレちゃんはメガネに回復魔法をかける。
「これでショーグンの体力も少しは削れるな。アンデットソルジャーをぶつけてみるか…。」
続けてテレちゃんはアンデットソルジャーを3体召喚し、ショーグンに向かわせたが、凪ぎ払うたった一撃の攻撃で葬られてしまった。
「うひょー!あんなの食らったら一堪りもないな。『お酒はやめなはれ』を使ってみたいが脱がせられる人いないな……テレちゃんいい?」
「殺すぞ。」
タマは冗談で言ったのにテレちゃんは本気の殺気を出す。実はこの時タマは少し…本当に少しチビったのだが、それはタマの名誉のために伏せておこう。
「冗談だぞ!本当に冗談だからな!!」
女の子に冗談でもそんな事を言ってはいかんぞ。
「まあ、私ももう何も出来る事がないからタマの何かしたい気持ちは分かるけど…あの4人に任せるしかないだろ?」
「そうだな。アイツの攻略方法は本とか雑誌とかだと何て書いてあるんだ?」
「まあ、光魔法が効果的とか距離を取って遠距離攻撃をし続けるとか、攻撃を避けながら多方向からの攻撃ってのが載ってるな。私達の作戦は一番最後のやつだな。」
「ふ~ん。…で、アイツってアンデットなのか?」
「?いや、アンデットじゃないと思うぞ。」
「なんで?」
「なんでって…。そんな事は本にも書いて無かったからだよ。そもそも何でそんな事聞くんだ?」
「だってこのダンジョンの人型雑魚はアンデットだったじゃんか?ならアイツもアンデットなのかな~って思っただけだよ。そうか~違うのか~。」
「……タマ、ちょっとショーグンに回復薬使ってみないか?」
「え?何で?」
「もしアンデットならダメージ与えられるだろ?」
「だって違うんでしょ?」
「そうかもしれないだろ?」
「…でも、だって違うんでしょ?」
「だから、そうかもしれないだろ?」
「だけども、だって違うんでしょ?」
「それでも……ってしつこい!!」
テレちゃんは自分の持っていた回復薬をショーグンに使った。ショーグンは「ウッ」と唸った。
「効いて…そうだな…。タマ!!やっぱりショーグンはアンデットだ!」
「マジか?よ~し!!じゃあ上級回復薬を湯水のように惜し気もなく使ってやりますぜ!!」
タマは持っていた回復薬をポポポイと次々と使った。
「フェミちゃん!コンちゃんの喉がそろそろ限界だ!応援歌の効果切れるよ!」
メガネがショーグン正面で戦うフェミちゃんに向かって叫ぶ。
「これはヤバいかもね。一端離れてコンちゃんを休ませよう!マー君は離れながら遠距離攻撃して!……あれ?」
フェミちゃんの指示が終わるか終わらないかの時、タマの上級回復薬乱れ撃ちのダメージでショーグンはガクリと片膝を着いた。
「え~と、何だか分からないけど畳み掛けるよ!全力で行くよ!!」
「了解!!」
ショーグンが塵となって消えて行くのを見ながら前衛組はその場に座り込んだ。
「あ~キツかった~。何とか勝てたね。」
「お~いみんな!俺の活躍見ててくれたか?」
タマが意気揚々と前衛組の所に歩いて来た。その顔は山のようにドングリを拾った子供のようなどや顔だったそうな。
「え?タマ君何かしたの?」
「全然気付かなかった。」
タマはその場に泣き崩れた。
「さて、スタンプラリーの難関の1つを何とか攻略出来たね!」
「あの…」
「うん。この調子なら期間中にはクリア出来そうだね。」
「あの…」
「誰のお陰で勝てたと思ってるんだ!?まったく…。」
「あの…」
「タマの回復薬攻撃のお陰だよ。みんな解ってくれたんだからもういいだろ?」
「あの!!」
コンちゃんの大きな声に皆が注目する。
「そうだ。コンちゃんの応援歌のお陰でもあるよね。なかったら多分負けてたと思うよ。ありがとうね。」
「あの…違うんです。」
「違うって?」
コンちゃんはスマホを操作して先輩達に見せる。
「ん?ああ、ダンジョンスタンプラリーのページだな。それがどうかしたのか?」
「ここ見て下さい…。」
コンちゃんは画面を下にスクロールして一部を拡大した。
「なになに…『先着50組終了しました。御参加ありがとうございました。』」
「え?どういう事?」
「え~と…つまりですね…。見逃してたんですけど賞品は先着50組だけなんです。そして思いの外このイベント好評だったみたいで、暇な大学生のグループとかがたくさん参加して50組がもうクリアしちゃったみたいなんです。」
「へ?」
え~と…残念だったね…。まあ、終わっちゃったもんは仕方ない。このイベントのお陰でたくさんダンジョンクリア出来たんだから良しとしようぜ!……次回!!思わぬ救世主と愉快なあの人達!………つづく!!
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