第2ー22話 出来るけどやらない事もあるのです。
「あっ!!先輩先輩、これ見て下さい!」
コンちゃんが相変わらず部室でだらだらしていた第5ダンジョン部のメンバーにスマホの画面を見せる。
「なになに…。那須塩原ダンジョンスタンプラリー開催?」
メガネが盆栽雑誌から目を離し素早く反応した。
「私、近場にまだ行ってないダンジョンがたくさんあるじゃないですか?これを機会に制覇するって事で連れて行ってくれませんか?」
「そういえば私達も最近…っていうか、ここ半年位あんまり新しいダンジョンには行ってない気がするな…。」
テレちゃんは寝ているタマの顔に落書きをしながら答えた。タマの瞼にはぱっちりとした目が描かれている。ベタだけど楽しそうだな。
「期間内に市内のダンジョン全制覇で栃木和牛とチーズ詰め合わせ贈呈だって!これは捨て置けないよね。」
フェミちゃんはゴクリと唾を飲む。意外と食いしん坊なのです。そしてタマの顔に鼻毛を描いた。
「じゃあ、先生に言ってみよう。期限はいつまでなのかな?」
メガネはコンちゃんに聞きながらタマの眉毛をつなげた。
「開催は7月8月の2ヶ月間ですね。市内のダンジョンの数は38ですから週に4ヵ所か5ヵ所行けば良い計算になりますよね。」
コンちゃんは答えながらタマの頬に赤いぐるぐるを描いた。
「結構厳しいな…。今年も合宿あるとしたらその時は行けないしな。夏休みにどれだけ行けるかだな。」
テレちゃんはダリの様な髭をタマの口元に描いた。
「う~ん……。」
テレちゃんはタマを眺めながら唸る。
「ここまで描いてなんだけど、あんまり面白くならなかったな…。」
酷い!!
スタンプラリー参加を決めたメンバーの足下には無惨にも打ち捨てられたタマがヨダレを滴ながら横たわっていたそうな。
さて、時は7月最初の土曜日。
7月に入ったらすぐにスタンプラリーを開始しようとしていた第5ダンジョン部だったが、何となくやる気が出なくて結局土曜日までダンジョンには行かなかった。まあ、第5ダンジョン部らしいっちゃらしいね。
那須塩原市旧黒磯地区にあるアウトレットパークに岩てできたダンジョンがある。
「さてと今日のダンジョンはここよ。初級ダンジョンだからあなた達には余裕ね。私はちょっとブラブラしてるから気を付けて行ってらっしゃい。」
「は~い。」
「た~ん、た~ん、た~ぬきの…」
「タマ君、その先は言わせないよ。初めてのダンジョンなんだからもう少し緊張感を持とうよ。」
タマが歌うのを止めてメガネが注意する。ありがとうメガネ。
「初級ダンジョンだぞ?現にスイスイ進めてるじゃないか。俺は暇なんだ。歌くらい歌わせろ。」
その歌のチョイスに問題があるんだぞタマ。
「そうだよ。そのスイスイが問題なんだよ。」
「何の問題がある?早いに越したことはないだろ………あ……。」
タマの視線の先にはフラフラと歩くコンちゃんがいた。
「ちょっとペースが早かったね…ごめんねコンちゃん、休もうか。」
「いえ…大丈夫です。こんな事で和牛とチーズ詰め合わせを諦めるワケにはいきません!」
そこまで頑張る程の景品だろうか?
「まあ、無理する事はないだろ。私が疲れたから休むぞコンちゃん。」
テレちゃんは優しいね。
「でも…。」
コンちゃんがうつむくとマー君がそっと手を差し伸べる。
「え?なあにマー君。…キャッ!」
コンちゃんが手を取るとマー君は軽々とコンちゃんを抱える。次の瞬間、マー君がミシミシと音を上げて背中が変形していく。
「マ…マー君!!そんな事出来るのか!?」
タマも驚きを隠せない。
マー君は隆起した背中にコンちゃんをストンと載せた。
「ふむ…。よく見れば椅子みたいになってるな。コンちゃん、ケツ痛くないのか?」
女の子にケツとか言うな。
「それが何と言うか…。硬いんですけどピッタリとフィットして…何だか子供の時にお父さんにだっこされた記憶が甦る感じです。」
「いいな~。マー君!俺も乗せろ!」
マー君はよじ登ろうとするタマをペシリと叩き落とす。
「タマ、ここは譲れよ。コンちゃんも体力つけるのも目的だから疲れるまでは自分で歩いた方がいいな。」
「はい!テレ先輩!ありがとうマー君。」
ここにマー君ライダーコンちゃんが誕生した!
しばらく進むと木製で両開きのドアにたどり着いた。
「ここがこのダンジョンのボスの間だね。」
フェミちゃんが足を止めてみんなに言う。
「ここのボスはどんなヤツなんだ?」
「ここは『ストーンスライム』だね。」
「またスライムなのか!?」
なんかごめんなさい。
そんな作者の懺悔をスルーするようにフェミちゃんを先頭に扉を開ける。
部屋の中央に『山盛りスライム』よりやや小振りの塊が佇んでいた。
「あれが『ストーンスライム』だな。でも…なんだか…その…。」
テレちゃんはその見た目を表現する言葉を探した。
「何かに似てると思ったら地面に落としたガムみたいだな。」
読み手の皆さんも経験があるだろう。子供の頃、外で噛んでいたガムをうっかり落としてしまった事が…。砂にまみれたガム…ストーンスライムはまさにそんな感じの見た目だった。あっ、もしガム落としたらちゃんと拾ってゴミ箱に捨てようね!!
「まあ、見た目はともかくとっとと倒しちゃおう!コンちゃん、マー君から降りようか。」
フェミちゃんがコンちゃんに促すとマー君が首を横に振る。
「マー君、そのままじゃ動きづらいだろうしコンちゃんも危ないだろ?」
テレちゃんが言うとマー君は再び首を振るとまたミシミシと背中を変形させる。それはコンちゃんを包み重厚な鎧を着た姿へと変えた。兜には花などの植物を象った装飾が施されている。
「お~!カッコいい上にオシャレ!これなら安心かもしれないね。」
フェミちゃんが賞賛する。
「いいの?マー君?」
コンちゃんの問いにマー君はビシリと親指を立てた。
「戦力を失わない上にコンちゃんも護れるから一石二鳥かもね。」
「そうだな。魔神の鎧を装備したのと同じだからな。」
メガネとテレちゃんは感心したように言った。ただ1人納得のいかない顔をしている人物がいた。タマである。
「ちょっと待て!そもそもマー君は俺の装備のはずだぞ!?俺が一度も着た事がないのになんでコンちゃんが装備したみたいになってるんだ!?マー君もマー君だぜ!そんな事が出来るならなぜ俺にやらなかったんだ!?」
タマの怒りはMAX寸前だ。そんなタマを見てマー君はメガネからメモ帳とペンを受け取り何やら書くとタマに見せた。
「なになに…『うるせぇ。』だと…。なんだとコノヤロー!!」
タマは子供ぐるぐるパンチを繰り出すがマー君は軽々と回避する。勢い余ったタマが数歩前に出ると突撃してきたストーンスライムに豪快に轢かれた。
「あ…。」
一同はそれしか言えなかった。ストーンスライムの事忘れてなかったか?
次回!!ストーンスライム戦!…だけど、まあ、初級ダンジョンだからね。簡単に勝てます。次回予告で結果まで言ってしまったところで…つづく!!
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