第2ー23話 ロックが鼻の粘膜を危険にさらすのです。

「タマー!!大丈夫か!?」

 テレちゃんの叫びが室内にこだまする。

「ふぉ~い。」

 間の抜けた返事を聞いてテレちゃんはホッと胸を撫で下ろす。まあ、ボスとはいえ初級ダンジョンだから大したダメージでもないんだね。

「うん。轢かれたタマ君も何ともないみたいだね。さあ、攻撃するよ!コンちゃん『応援歌』よろしく!」

「はい!」

 いや、何ともないワケではないぞフェミちゃん…。フェミちゃんの呼び掛けにコンちゃんは元気に答える。そして間も開けず前衛組がストーンスライムへと突撃して行った。

「…あれ?何か…何か…。」

 突撃するマー君の背中で揺られながらコンちゃんが頬を紅潮させながらふるふると震えている。

「コンちゃんどうした?気分でも悪いのかい?」

 メガネが走りながらコンちゃんに聞く。

「違うんです!…何か…何か楽しい!!」

「は?」

「この風を切って走る爽快感…。とてもロッケンロールな気分です!」

「は?」

 メガネが意味を理解する前にコンちゃんはロックの名曲を歌い出す。

 

 どうでもいい話だけど、作者はメジャーな音楽には疎い。

 友人とカラオケに行ってもそもそも歌いたい曲がカラオケになっていなかったり、あっても誰も知らないので盛り下がる。だから最後にカラオケに行ったのはもう10年以上前になる。一番引かれたのは、とあるアニメの主題歌フランス語バージョンを歌った時かな。でも、無駄に盛り上がってる空気をへし折るのもなかなか楽しいぞ!オススメはしないけど。

 なのでこのコンちゃんの歌っている曲は読み手の方の好きなロックナンバーを脳内で再生して下さい。


 コンちゃんの歌声でメンバーがうっすらと光り出す。しかし、以前とは少し様子が違う。

「あれ?『応援歌』の光りって赤かったっけ?」

 タマがテレちゃんを見やる。

「いや、白みがかった光りだったと思うぞ。」

 二人がそんな会話をしていると前方からフェミちゃんの声がする。

「ちょっとみんな~見て見て!!」

 槍を連続で素振りするフェミちゃんの肩より先があまりのスピードに消えているかの様に見える。それを見たメガネも真似てみるとやはり同じような結果だった。

「お~!見てくれテレちゃん!これは凄いぞ!!」

 タマは高速のコマネチをしているが肩より先が猛スピードで、もはやコマネチをしているかどうかすら分からない。

「はいはい凄い凄い。」

 テレちゃんは溜め息混じりに答える。

「なあ、テレちゃん…俺思ったんだけど…」

「なんだよ?」

「この猛スピードで鼻をほじったらどうなるんだろう…」

 やめろよ!絶対にやめろよ!

「バ…バカ!!そんな事したら鼻の粘膜がどえらい事になるぞ!」

「ダ…ダメだテレちゃん…。身の危険を感じつつも好奇心が…俺の溢れ出す好奇心が!!」

 タマの右手人差し指がゆっくりと鼻の穴に向かう。

「やめろタマ!!やめろーーー!!!」

 タマの指が鼻の穴に収まらんとしたその時、タマ、テレちゃん共に光りに包まれそして消えた。



「ふあ!!…外?……そうか、ボス倒したんだな。」

 テレちゃんは周りを見渡し安堵の表情を浮かべた。

「タマ君何やってるの?みっともないからやめなよ。」

 鼻の穴に指を突っ込んで立ち尽くしているタマにメガネが冷ややかに言う。鼻が爆裂する前で良かったな。

「よし!攻略完了!スタンプ貰って次行こう!」

「次?」

「そうだよ。この近くに2つ初級ダンジョンあるからそれもやっつけちゃおう!まずは先生に連絡しなきゃ。」

 

 この日、第5ダンジョン部はフェミちゃんの宣言通り3つのダンジョンを攻略した。

 報酬は「タンスの角に足の小指をぶつけた時の痛みの緩和」「こたつで寝ても風邪を引きにくくなる」「冷たい物を飲み食いした時の頭がキーンとなってる時間の短縮」であった。

 報酬ショボいけど、「これがこのダンジョンの報酬だ!」と見付けた人が凄いね。まあ、どうやって気付いたかは気にしないで欲しい。作者も気にしない。本当に気にしないで……お願いだから…。


「しかしコンちゃんの『応援歌』は、ますます謎が増えたわね。」

 帰りの車中、丹澤慶子は運転しながら言った。今日は飲まなかったんだな。よく我慢した!偉いぞ!

「バカにしてる?」

 してないぞ。

「私だって年がら年中飲んでるワケじゃないのよ。」 

 飲んでるじゃないか…年がら年中。

「なんですって?ぶっ飛ばすわよ。」

 おう!やれるもんならやってみやがれ!姿なきナレーションを殴る事が出来るのならな……ゲフッ!

「うるさい。」

 な…殴ったな!親父にも…殴られた事あるな…。え~と、80人位にしか殴られた事ないのに!!

「先生…誰と話してるんですか?」

 コンちゃんが恐る恐る丹澤慶子に話し掛ける。

「コンちゃん、気にするな。」

 テレちゃんがさらりとナレーションの存在を無かった事にする。話すだけでなく遂に物理的に干渉してきたな…。

「ほんと気にしないで。で、コンちゃんの『応援歌』だけど、曲のジャンルなのかコンちゃんの心持ちなのか効果が変わるみたいね。」

「先生!『心持ち』って言い方がカッコ悪いんで、そこは『ソウル』って呼びましょうぜ!」

 またどうでもいい事を…。

「そうね。コンちゃんのソウルの影響があると考えるべきね。」

 タマの案がすんなり通った。マジか…。

「色々試してみたいね。童謡とか演歌とかだとどうなるんだろう?」

 フェミちゃん興味津々で楽しそうだね。

「頑張ってレパートリーを増やします!」

 真面目か!!さすがメガネの従妹…。

「この調子でガンガン行こうね。目指せ!完全制覇!掴み取れ!和牛とチーズ!!」

「おーー!!」

 

 次回!!スタンプラリーは続くんだけど…第5ダンジョン部に全く関係ない異変が!!………つづく!!


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