第2ー21話 乱文は暗号に似ているのです。

「ハア…。」

 スマホの画面を見ながらテレちゃんは今日198回目の溜め息をついた。

「テレちゃん…、丹澤先生もついてる事だしきっと大丈夫だよ。心配なのは分かるけどさ。」

 心配しているテレちゃんに同じ位心配そうにフェミちゃんが声をかける。

 昨日第5ダンジョン部は毎週土曜のダンジョン探索をタマが翌日大谷ダンジョンに行く事から中止した。そして今日、コンちゃんのレベル上げのためにタマ抜きで大田原の酒屋のダンジョンに行ったのだ。

 そしてその帰り、みんなでファミレスでお茶をしているところだった。

「タマ大丈夫かな~?怖すぎてウ○コとか漏らしてないかな~…?」

 どんな心配だ。

「それは大丈夫だと思うよ…たぶん…。」

 たぶんかい!!

「タマには終わったら教えろって言っておいたんだけど…まだかな~。」

 何だかいつもとキャラが違うぞテレちゃん…。でもキャラが変わる程心配だってことは分かるぞ。

 その時、テレちゃんのスマホが鳴った。

「来た!!タマからだ!!」

「なんて?」

 一同息をのみテレちゃんの返答を待つ。

「え~と…。おー!!タマの大活躍で大谷のダンジョン攻略したって!!」

 テレちゃんの報告に一同「お~!」と歓声を上げた。周りの客がこちらを見る。

「…思わず大きい声出しちゃったね…。凄いねタマ君。確かあそこのボスは攻撃が全く効かない『ブロッケン』ってヤツだったよね。それでそれで?」

 一度周りを気にしたメガネも興奮を抑えきれない。

「うん。どうやらそれが本体じゃなかったみたいだ。丹澤先生達が防戦一方の中、タマが…え~と…“唯一冷静だった俺が異変を察知して本体を見つけた”…だってさ。」

 ずいぶんと誇張したな。

「暇だったんだね。」

「暇だったみたいだね。」

「暇だったんですね。」

 バレてるぞタマ。

「それで…ん?」

「どうしたのテレちゃん?」

「ボスを倒した後みたいなんだけど…なんか、龍と大蛇が出たみたいだぞ。」

 何を報告してるんだタマ…。

「龍と大蛇?ボスの後に敵が出るなんて聞いた事ないね…。」

 メガネが難しい顔で考えている。

「まあ、高位ダンジョンなんだからそんな事が起こっても不思議じゃないんじゃないかな?」

 フェミちゃんは深くは考えていないようだ。

「ん?龍はダンジョンで、大蛇は蕎麦屋で発見したらしい…。」

 おいおい…。

「蕎麦屋?意味が解らないね。じゃあ、大蛇は敵じゃないのかな?蕎麦屋で飼ってるとか?」

「そんな『蕎麦屋』が『側』にあったら嫌ですね。なんつって…プププ…。」

 久しぶりに出たな。

「…そうだな。…で、この最後の一文が一番の謎だな…。」

「なんて?」

「“俺はアマガエル”だってさ。」

「アマガエル…か…。詩的な表現だね。宮沢賢治の『春と修羅』の“おれはひとりの修羅なのだ”的な?」

 メガネよ、本気で言ってるのか?

「違うと思うよ。」

「だよね。」

 本気じゃなかったか。

「周りの人達が凄すぎて自分がちっぽけに感じたって事じゃないですか?」

 コンちゃん、当たらずとも遠からず…って言うか、体の一部がちっぽけだったんだから、ある意味正解です。

「まあ、詳しくは明日タマから直接聞けばいいか。でも無事で良かった…。」

 ほっとしたのかテレちゃんは全く口を付けず冷めてしまったカフェオレを飲んだ。


 翌日、タマの大袈裟なダンジョン報告を一通り聞いた後、テレちゃんは聞いた。

「…で、タマ。昨日の龍とか大蛇とかアマガエルって言うのは何だったんだ?」

「ああ、あれはだな…。」

 タマは事細かに龍と大蛇について語り出す。テレちゃんとフェミちゃんは唖然とし、メガネはやたらと咳払いをしている。コンちゃんは「トイレに行く」と言って席を外した…というか逃げた。

「…というわけなんだよ。ほんとあれに比べたら俺なんてアマガエルさ。……ん?どうした?テレちゃんフェミちゃん?」

「私の…。」

 テレちゃんはプルプルと体を震わせる。

「ん?」

「私の心配を返せ!!!!」

 テレちゃんの右ストレートは踏み込み、腰、肩の回転、全てが完璧なプロの目に留まる程のモノだったとさ。めでたしめでたし。

 

 その時、メガネは思った。「僕のはナマコかな…」と…。メガネよ、それは少し生々しいぞ…。


 教訓『報告は全部する必要はない』


 次回!!第5ダンジョン部の新たなフォーメーション!!……つづく!!



 


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