第2ー17話 秋田名物は山程あるのです。

 ゴールデンウィークが開けて最初の日。第5ダンジョンメンバーは丹澤慶子と部室に集合していた。


「これがフェミちゃん先輩とテレちゃん先輩に…で、これがメガネ先輩に…それと、これが丹澤先生にで、これがタマ先輩に!」

 コンちゃんが父親の実家の秋田土産を配っていた。

「綺麗!これ高いんじゃないの?」

「これは銀じゃないのか?」

 フェミちゃんとテレちゃんは銀細工のストラップを貰ったようだ。

「ん~、安くはないですけど先輩達に似合うと思って。」

「ありがとう。大事にするね。」

「僕のは樺細工だね。しっとりとした手触り…この落ち着いた光沢…実に美しい。」

 メガネは樺細工の小箱を貰ったようだ。

「おっ。きりたんぽ鍋セット!今夜はこれで一杯やろうかしら。」

 本当に酒の事しか考えてないな…。

「先生にはお酒にしようかとも思ったんですけど、学校に持ってくるのに如何なものかと思いましてこれにしました。」

 確かに酒瓶抱えて学校に来るワケにはいかないね。

「…で、コンちゃん…、これは何だ?」

 タマは土産をじっと見ながら呟いた。

「知らないんですか?ナマハゲですよ。」

「それは知っている。なぜ俺にこれなんだ?」

 タマの手には顔に装着可能なナマハゲのお面があった。

「先輩こういうの好きかと思って!」

 コンちゃんは満面の笑みでタマを見た。

「嫌い…ですか?」

 タマのいまいちな反応を見てコンちゃんは少し寂しそうな表情になる。

「タ…タマ君!好きだよね!」

 その様子を見ていたメガネが慌ててタマに言う。

「タ…タマはそういうの集めてたもんな!」

 テレちゃんは嘘をついた。

「い…いいな~タマ君!やっぱり本場のナマハゲは違うわ~!」

 フェミちゃんは心にもない事を言った。

「お…おう!そうそう!こういうのが欲しかったんだよ!」

 タマは珍しく空気を読んだ。

「良かった~。タマ先輩!被ってみて下さいよ!」

「お…おう…。」

 タマはナマハゲのお面を被った。実にシュールな光景だ。

「似合ってるぞタマ。」

 丹澤慶子は笑いを押し殺している。タマはお面の下でどんな顔してるんだろうね?



「さてと…、タマ君、五百旗頭から私に連絡があったわよ。」

 コンちゃんの土産談義が一通り終わった時、丹澤慶子が話し出した。

「ホシリンから?何で先生に?」

 タマはまだナマハゲを被っている。

「五百旗頭が言うには『タマちゃんに連絡しても要領を得ない。』だそうよ。高校生なんだから電話応対くらいちゃんとしなさい。」

「ふあ~い。…で、何て?」

「来週の日曜日に大谷ダンジョンに行くのはどうだろうか…という打診だったわ。どうする?」

「俺は特に予定はないっすけど…。めんどくさいっすね。」

「タマ、いつかは行かなくちゃいけないんだから早めに行っといたらどうだ?もう勧誘はしないって言ってる事だし…。」

 テレちゃんはこの話が出てから常に気が気ではなかった。早く終わって欲しいのが本音だろう。ナマハゲタマはテレちゃんを見つめる。怖い怖い、もう取れよ。

「そうだな。いいっすよ。先生も行くんですよね?」

「めんどくさいけど仕方ないわね。五百旗頭の他にホーリーナイトと回復役のカーディナルが来る事になってるみたいね。」

「ほ~。そいつらは足を引っ張らないんですかね?」

 いつもみんなの足を引っ張ってるお前が言うな。

「強いわよ。2人ともレベル100だしね。今回ばかりはテレちゃんが来たいって言っても許可出来ないからごめんね。」

 テレちゃんは黙って頷いた。丹澤慶子に先手を打たれちゃったね。今回は我慢しよう。

「勧誘はもうしないっていうのも正直私は信じていないのよ。あいつらが簡単に諦めるはずないからね。」

 さすが丹澤慶子、良く分かってるじゃん。

「あっ!私良い事思い付いちゃいました!」

 コンちゃんが目をキラキラさせながら手を挙げた。

「良い事?なあに?」

「二度とタマ先輩が勧誘されない方法ですよ。」

「コンちゃん本当か!?」

 テレちゃんが食い付く。

「ええ。今回のダンジョン探索でタマ先輩がダメダメで使えないプレイヤーだって相手に思わせれば良いと思うんです!そうすればもう勧誘されないですよね?」

「なるほど!それは良い考えかもしれないね。」

 メガネが感心したように頷いた。

「うんうん。タマ君がダメダメを演じれば……。」

 そこまで言うとフェミちゃんは言葉を止めた。

「タマが…ダメダメを演じるか…。」

 テレちゃんも頭を抱える。

「あ…そうか。」

 メガネも何かに気付いたようだ。

「みんな気付いたようね…。」

 丹澤慶子が溜め息をついた。

「どうしたみんな!俺頑張ってダメダメを演じて見せますぜ!」

 タマはやる気満々だ!

「それは無理よ。」

「何でですか!?俺には出来ないって事ですか?」

「いや…」


「だってタマ君元々ダメダメの使えないヤツじゃない?」

 

 酷い!酷いぞ丹澤慶子!だけどそれは満場一致の意見だった。可哀想だが仕方がない。日頃の行いって大事だね。


 次回!!大谷ダンジョン!!…つづく!!


 


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