第2ー16話 遊園地にてタマ死すのです。

 第5ダンジョン部の面々は電車とバスを乗り継ぎ遊園地『那須ハイランドパーク』に来ていた。


「さすがゴールデンウィーク…中々の混み具合だな。とりあえず土産物でも見るか?」

 

 遊園地に限らず土産を先に買ってしまい邪魔になるという経験が読者の皆さんにもあるだろう。

 逆に観光地などで帰りに買おうと思っていた物が売り切れていて「あの時買っておけば良かった」と思う事もしばしばあるよね。え?ない?じゃあ、いいや。


「タマ、それは最後にしよう。」

 テレちゃんは呆れ顔だ。

「私ジェットコースター乗りたい!!」


 那須ハイランドパーク(以後那須ハイ)にはジェットコースターがいくつもある。ジェットコースター好きにはたまらない遊園地なのだ!!ジェットコースター好きにはね…。


「俺は…その…メリーゴーランドがいいな。」

 タマは口ごもる。さては…。

「僕も…その…タマ君に賛成かな。」

 メガネも口ごもる。お前もか。コンちゃんの目がキラリと光った。

「さてはタマ先輩もメガネ先輩も絶叫系は苦手ですね。」


 作者の統計という名の偏見では女性より男性の方が絶叫マシーンが苦手な場合が多い…気がする。

 かく言う作者も苦手だ。絶叫マシーンの行列に並んだだけで動悸、息切れ、手足の痺れ、便意、過去の恥ずかしい思い出などの症状が現れる。まあ、乗ってしまえば結構大丈夫なんだが……タマが何か言いたそうだな。


「ああ苦手さ!なぜ金を払ってまで命を危険に晒さねばならぬのだ?」

 そんな大袈裟な…。

「スリルを安全に味わえるのが良いんじゃないか?」

「安全だなんて誰が決めた。たまに途中で停まったりするニュースであるじゃないか?それが自分に起こる事を考えただけでキ○タ○袋が縮み上がりますぜ。」

「その表現はどうかと思うけど、僕も大方賛成だよ。」

 テレちゃんとフェミちゃんの目が光る。

「タマは私のオバケ嫌い克服を手伝ってくれたよな?今度は私の番だ。タマの絶叫マシーン嫌いを克服してやろう。」

「メガネ君とジェットコースター乗りたいな~。こんなに頼んでもダメ?」

 メガネは渋々とついて行き、タマはテレちゃんに引きずられながらジェットコースター乗り場へと向かった。


「テ…テレちゃん…わしゃもうダメじゃ…。さ…最後に1つ言わせてくれんか…。」

 タマは真っ白になりベンチに横になっていた。

「何だ?言ってみろ。」 

 テレちゃんはコーラ片手にその横に座っている。

「教えて欲しい事があるんじゃ…。『ポン酢』の『ポン』とは一体何なんじゃろな?」

「知らね。」

「そうか…。」

 タマはガクリと力尽きた。


 玉乃井樹、享年16歳…。楽しくも恥の多い人生だった。まあ、本人は恥とは思っていない事は幸せだったに違いない。


「何してるの?」

 フェミちゃんとメガネ、そしてコンちゃんがソフトクリームを持って帰って来た。

「ん?タマの臨終ごっこに付き合ってた所だ。メガネは大丈夫なのか?」

「うん。乗ってみたら中々楽しいもんだね。今まで毛嫌いしてて損したよ。タマ君は…ダメみたいだね。ジェットコースターは全種類乗ったし、次はどうする?」

「私あの迷路やりたいです!」

 コンちゃんは大きな迷路のアトラクションを指差す。

「結構体力使いそうだけどコンちゃん大丈夫?」

「ええ、最近とっても調子が良いんです!ダンジョン部に入ったおかげですね。」

 基本だらだらしてるけどね。まあ、その無理のない活動がコンちゃんには合っていたのかもしれない。

「よし、じゃあ行こうか!…あ、でもタマ君…。」

 タマはまだ真っ白だ。

「それなら大丈夫だ。えっと…」

 テレちゃんはバックをガサガサとしている。

「あったあった。」

 テレちゃんはマヨネーズを取り出し蓋を開けタマの口に突っ込んだ。シュボッ!と音を立て一瞬にしてそれはなくなった。その様はまさにイリュージョン!

「ふ~。生き返ったぜ!みんな何してるんだ!?次行くぞ次!!」

 元気になりましたとさ。


 その後、時々絶叫マシーンをはさみつつ遊園地を堪能した第5ダンジョン部は最後に観覧車の列に並んでいた。

 絶叫マシーンの度にタマは白くなっていたが毎度テレちゃんがマヨネーズを補給し復活していた。そんなに大量のマヨネーズ重かったでしょうに…。


「もう少しで順番だね。私とメガネ君とコンちゃん、タマ君とテレちゃんに別れて乗ろう。」

 フェミちゃんはフランクフルトをパクつきながら言う。よく食べるね。

「あの…、私、観覧車乗るの止めようかな~…なんて…。」

 コンちゃんが小さな声で言う。

「え?何で?」

 メガネが心配そうにコンちゃんを見る。タマは大きく溜め息をついた。

「バカだなメガネ、そしてコンちゃんもだ。

 コンちゃんはフェミちゃんとメガネの邪魔をしちゃいけないって気を使ってるんだよ。フェミちゃんもメガネもそんな心の小さい事は思わないぞ。だろ?」

「お前はこういう時だけ鋭いよな。そうなのかコンちゃん?」

 テレちゃんに聞かれコンちゃんは少し躊躇った後にコクりと頷いた。

「そんな事気にしなくていいのに。じゃあさ、私とテレちゃんとコンちゃんで乗ろう!」



「夕陽がキレイだね。あ~あ、もう帰らなくちゃいけないのか~。」

 フェミちゃんが観覧車の窓から見える景色を見ながら残念そうに言った。

「今日は楽しかったな。コンちゃんは大丈夫か?疲れてないか?」

 テレちゃんがコンちゃんを気遣う。

「大丈夫です。一日中遊ぶなんて初めてかもしれません。疲れてないって言ったら嘘になりますけど…とても心地良い疲れですね。」

「そうか。それは良かった。」

 フェミちゃんもテレちゃんもニコリと笑う。那須高原が夕陽に照らされた風景を3人は無言で眺める。

「…フェミちゃん先輩。」

 コンちゃんがその沈黙を破る。

「なあに?」

「私、小さい頃からメガネ先輩…リョウちゃんの事好きだったんです。」

 再び沈黙が流れる。

「…そう…。」

「はい。勉強と将棋ばかりしていたリョウちゃんが急に男らしくなったなって思ってたんです。ダンジョン部に入って、そしてフェミちゃん先輩と出会ったからなんですね。

 …で、偉そうに聞こえちゃうかもしれないんですけど、リョウちゃんがお付き合いしてるのがフェミちゃん先輩で良かったって思うんです。もちろん悔しい気持ちはあるんですけど……う~ん…なんか上手く言えないです。」

 コンちゃんははにかんで頬を掻いた。

「ごめんね…。」

「フェミちゃん、それは違うぞ。フェミちゃんはコンちゃんに褒められてるんだからな。」

「あ、そうか。ありがとうコンちゃん。」

 その後3人は和気あいあいと会話を続けた。


「おいメガネ見てみろ!人が蟻の様だ!」

「そんなセリフがラ○ュタにあったね。」

 タマとメガネは2人で観覧車に乗っていた。

「何で男2人で観覧車に乗ってるんだろうね…。」

 メガネは溜め息をついた。

「もしかしたら俺達カップルに見えたりしてな。」

「気持ち悪い事言わないでよ。」

「…やっと2人きりになれたな…メガネ…。」

「本当にやめてくれる?テレちゃんに言うよ?」

「本当にすいませんでした。でも巷ではBLなるモノが流行っているらしいぞ。そんな読者も取り込もうという俺の作者想いがお前には分からんのか?」

「読者とか作者とか何を言ってるのか分からないけど、多分いらない心配だと思うよ。」

 まったくだ。でも心配してくれてありがとうタマ。

「まあ今第5ダンジョン部は女性が3人で過半数を越えているからな。俺達抜きの女同士で話したい事もあるだろ?そのきっかけになると思えばこの状況もありっちゃありだろう。」

「タマ君がそんな考えがあったとは意外だよ。」

「まあな。今思い付いたんだけど。」

 だろうな。

 

 観覧車は次第に下がって行き地上に近付いてきた。

 先に降りていた女性陣がタマとメガネが降りてくるのを待っていた。

「お帰り~。どうだった?男同士の観覧車は?」

 フェミちゃんがニヤニヤとしながら2人に聞いた。

「どうもこうも嫌がる俺を無理矢理メガネが…。」

「笑えないよタマ君。」

 まだ言ってるのか?

「はいはい。そっちはどうだったんだ?」

 タマに聞かれ女性陣は笑いながら顔を見合わせる。

「とっても有意義な時間でしたよ。」

 コンちゃんは満面の笑みで答えた。


 コンちゃんももうすっかり第5ダンジョン部のメンバーになったね。コンちゃんのダジャレが今回なかったと思っている読者の方もいるだろう。なぜ今回なかったかというと……作者が思い付かなかったからだ!!


 次回!!大谷のダンジョンへ…は、まだ行かないけど、その相談をするのだ。……つづく!!





 


 

 

 

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