アナザーストーリー4 新会長誕生なのです。
「清き1票を!私に清き1票をお願い致します!!」
彼女の名前は桑名七海。2年2組の帰宅部である。そう、たまに通り掛かって事件(?)を目撃するあの女子生徒だ。
時は10月、那須野ヶ原高校では生徒会選挙をこの時期に行う。鈴木会長がただの鈴木さん、または鈴木元会長になる日は間近だった。
桑名七海は生徒会長に立候補していた。学力も普通、部活にも入っていない、容姿も可愛い事は可愛いが突出しているワケでもない。このザ・普通の桑名七海が選挙に出て善戦しているのには彼女の特殊な体質が関係していた。
半月前。
「ふう…。」
食事を終えた昼休み、桑名七海は溜め息をついた。
「七海どうしたの?溜め息なんかついちゃって。」
友人の桜井が小ぶりなランチボックスを片付けながら聞いた。
「私ってさ~超普通じゃない?」
「う~ん…まあ、そうかもしれないね。」
「山も谷もない高校生活…これでいいのかな?って思っちゃってさ。将来高校時代を振り返った時に何の思い出もないんじゃないかって不安になるんだ~。」
「失礼ね。私との思い出もなくなっちゃうって事?」
「あ、ごめんごめん。桜井の事は忘れないよ~。でも、誤解しないで欲しいんだけど何か物足りないんだよ~。」
「じゃあさ、生徒会選挙に出てみたら?」
「え?いや、無理無理無理!誰も私の事なんて知らないし、出て私と桜井の2票だけなんて事になったら恥ずかしいじゃない。」
「大丈夫!私意外と顔広いんだよ。推薦人になってくれそうな人に声かけてみるから!」
こうして半ば強制的に桑名七海は生徒会選挙に出る事になった。
「七海!野球部のエースの猪木君が推薦人になってくれるってよ!」
「猪木君?…ああ、あの二股してる猪木君ね。」
「そうなの?知らなかった…。」
「七海!女子に人気の田沢君も推薦人になってくれるって!」
「田沢君?…ああ、夜中に女装してウロウロしてる田沢君ね。」
「そ…そうなの?知らなかった…。」
「七海!男子に人気の荒木さんも推薦人になってくれるって!」
「荒木さん?…ああ、趣味がダンゴムシ集めの荒木さんね。」
「そ…そうなんだ…。知らなかった…。」
「な…七海!不良を束ねてる神長君も推薦人になってくれるって言ってるんだけど…。」
「神長君?…ああ、女の子のアニメ『不思議アイドルお富ちゃん』の大ファンの神長君ね。」
「……何でそんな事知ってるの?」
これが桑名七海の特殊体質である。七海が歩けば秘密に当たる。七海はそれをバラしたりはしないのだが、それを見られた人達は七海にいつもびくびくしていたのだ。まあ、桜井には普通にバラしてるような気もするけどね。
結果、学校の人気者、カリスマが七海の推薦人となった。七海が演説をするとその後ろには総勢15人の推薦人が並んだ。推薦人達は個別にも七海の選挙活動をして前評判の筆頭、前生徒会書記の向田を脅かす程になっていた。
「何か凄い事になってきたね七海…。」
「自分でもびっくりしてるよ。何でみんな私の推薦人になってくれたんだろ?」
「…自覚がないのが凄いよね。恐ろしい子…。後は向田君に勝てるかどうかだね。」
「向田君?…ああ、中学の修学旅行で奈良の鹿に襲われてウ○コ漏らした向田君ね。」
「………。」
次の日、何故か向田君は選挙を辞退した。
こうして新生徒会長桑名七海は誕生したのだ。
「当選してなんだけど、こんな普通過ぎる私が生徒会長なんかやっていいのかな?」
「七海…あんた普通じゃないよ…。」
おしまい
「う~ん…う~ん…。」
「おい!タマ!大丈夫か!?」
タマは部室でうなされていた。テレちゃんが揺さぶるとガバッと起き上がる。
「ふはぁ!!お…恐ろしい夢を見てしまった…。」
タマの額からは大量の汗が流れている。
「どんな夢見てたの?」
フェミちゃんもただならぬ様子のタマに心配そうに話しかける。
「いや、俺が巨大なすり鉢の中にいてな、誰かが俺をすり潰そうとするんだよ。何とかそこから逃げだしたら今度は巨大な石臼に飲み込まれて、また誰かが俺をすり潰そうとするんだ。逃げても逃げても次々にすり潰そうとする奴らが現れて……すげぇ恐かった。」
タマはテレちゃんが差し出したペットボトルのお茶をグビリと一口飲んだ。
「すり潰されそうになるってなかなかレアな夢だね。」
メガネは心配しながらも興味深そうに言った。
「誰かにすり潰されるような恨みでも買ってるんじゃないのか?」
「テレちゃん!俺は恨まれるような事なんて何一つしてないぞ!」
いや、してるしてる。まあ、夢で良かった。正夢にならなければ良いね!
次回!アナザーストーリー5、アナザー中のアナザー。ストーリーに全く関係ない話だぞ。読まなくても問題なし!!………つづく!!
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