アナザーストーリー3 帰宅困難なのです。

「おのれ…第5ダンジョン部め…。」

 ここは全高ダン会場の女子トイレ。その1個室をかれこれ一時間占領している人物がいる。

 彼女の名は鈴木典子。鈴木会長の妹にしてタマ暗殺(?)を企てた悪党である。

「悪党とは失礼ね。それにここは女子トイレよ。少しは気を使いなさいよ。」

 こいつもナレーションと話せるのか…。

「早く出て行きなさい!!」

 は~い。お前も早く出し切れよ。


「ふ~…。一段落ついたわ…。」

 鈴木典子はまだ痛む腹を擦りながらトイレから出た。自分が盛った下剤を飲んで腹下してちゃ世話ねぇや。

「おだまり!!」

 はいはい。

「お姉様は…もうダンジョンに入ったみたいね。今日もう一度玉乃井に罠を仕掛けたいところだけど、この状況じゃ難しいわ…。まあ、今日お姉様と玉乃井が当たる確率は低いでしょうから明日が勝負ね…。」

 多分第1と第5は今頃戦ってるぞ。ってか、懲りずにまたやるつもりだったのね。

「それにしてもどうやって帰ろうかしら。バスだとまたアバランチ(便意)が来た時に対応が難しいわね…。」

 アバランチとは雪崩の事である。カッコ良く言っても便意は便意…。

「タクシーが良いわね。アバランチ(便意)が来たら近くのトイレに寄ってもらえるし!」

 鈴木典子は意気揚々とタクシー乗り場に向かう。しかし、何かを思い出したのかピタリと足を止めバッグをごそごそと漁る。

「しくじったわ!!財布に252円しか入ってない!これじゃタクシー乗れないじゃない…。」

 社長令嬢が252円しか持ってないのか?

「昨日誘惑に負けて『ニョラゴンボール』全42巻を大人買いしたのがまずかったわ…。はうっ!!またアバランチ(便意)が!!」

 鈴木典子はトイレに吸い込まれるように戻って行った。大丈夫か?


10分後。


「ふ~…。一段落ついたわ…。」

 2回目だな。

「しかし、良く考えたら252円じゃバスにも乗れないじゃない…。本当にどうしようかしら…。

 ここに来てるのはお姉様には内緒だったけど恥を忍んで一緒に帰るしかないかな…。…ダメ!!それじゃアバランチ(便意)が来る度にトイレに寄ったら皆さんに迷惑をかけちゃうじゃない!お姉様が恥をかいてしまうわ。ましてスーパーノヴァエクスプロージョン(脱糞)なんて起こしてしまったら…もう生きていけない…。」

 スーパーノヴァエクスプロージョンとは超新星爆発の事である。カッコ良く言っても脱糞は脱糞…。

「困った…本当に困ったわ…。はうっ!!」

 またか?


10分後。


「ふ~…。一段落ついたわ…。」

 3回目だな。

「…お嬢さん?」

 声をかけたのは伊藤さんだった。伊藤さんの説明はもういいよね?

「い…伊藤さん!!ち…違います!私お嬢さん違う!」

 片言になってるぞ。

 伊藤さんはそんな鈴木典子の様子を見て何かを察したように話出した。

「すみません、人違いだったようです。しかし、何かお困りのご様子ですね。もしよろしければ助けになりたいのですが…。」

 そんな伊藤さんの言葉に鈴木典子は涙ぐむ。そして観念したかのように事の顛末を途中トイレをはさみながら話した。


「そうでしたか…。送って差し上げたいのは山々なんですが、私はここを離れるワケにはいきませんね…。やはりタクシーで帰られるのがよろしいかと…。」

「…伊藤さん…お金貸して頂けますか?」

「もちろん貸してもよろしいんですが…、帰られて代金を御自宅から持って来ればよろしいかと…。」

「あ…。」

 その手があったね。

 その後、タクシーの運転手さんに伊藤さんが事情を話してくれて鈴木典子は無事に帰宅する事が出来たそうな。


 鈴木家のトイレに鈴木典子は籠っていた。

「ありがとう伊藤さん。この恩は必ず返すわ…。」

 5年後、伊藤さんに初孫が出来た時、鈴木典子はなかなかの額の出産祝いと大量のベビーグッズを贈りましたとさ。


「本当に酷い目にあったわ…。玉乃井樹…いつか必ず…すり潰す…。」

 お前もか!?


次回!!アナザーストーリー4まさかのあの人が主人公。……つづく!!




 

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