第41話 手こずってイライラするのです。

「遊びたりないな…。」

 タマが呟く。

「飲み足りないわね…。」

 丹澤慶子が呟く。

 一同ホテルで昼食を食べている。午前中、海で遊んだ第5ダンジョン部だったが一時間半程では少し時間が足りなかったようだ。

「ねぇ先生。午後も海で遊びませんか?」

 タマが丹澤慶子に話しかける。

「私は遊ぶ気しかないけど、あなた達はダンジョンに行ってらっしゃい。そのための合宿なんだから。」

 慶子よ…確かに一緒にダンジョンに入らないワケだから遊んでいても良いんだが、もう少し言い方ってもんがあると思うぞ。

「そうよ。私達は全高ダンに向けてレベルアップしに来たんじゃない!!」

 フェミちゃんは遊びたい心をグッと押し込めてみんなに檄を飛ばす。

「そうだよね。さあ、行こうか。」

 メガネが腰を上げる。それにつられるようにテレちゃん、ハンクスも席を立った。

「え~。行くの~?海であ~そ~び~た~い~~。」

 タマだけがまだごねている。

「じゃあ…、もし水族館のダンジョンでタマ君のレアモンスタースキルが有効でレベル60になったらずっと海で遊んでいてもいいわよ。」

「え?ほんと?よし!!行くぞみんな!!もたもたすんな!!」

 タマも席を立ちメンバーは食堂を出て行った。

「そんなに上手く行くかしら?テレちゃんとハンクス君の使い方に誰かが気付けるかどうかね…。」

 出た。久しぶりの意味深慶子。どういう意味だ?


 ホテルから徒歩10分程度の場所に水族館のダンジョンはある。その名の通り水族館の駐車場だった場所にある。だった…というのはダンジョンが発生した当時に駐車場であって、今現在は新しい駐車場があるのだ。発生当時は駐車場が使えなくて水族館はさぞかし迷惑を被ったであろう。しかし、結果としてダンジョンの利用者からの収入も得られ水族館自体も潤っている。

「ほ~。海沿いだけあってダンジョンもなんか水を感じさせる造りだな。」

 洞窟タイプのダンジョンだが水色掛かった色をしている。夏休みのせいもあるだろうがなかなかの人出だ。

「そうね。中も水が結構あるみたいよ。溺れても死亡するから気を付けようね。」

 フェミちゃんが注意を促す。

「ちょっといいかな?」

「なに?メガネ君。」

「プラチナモフモフなんだけど、かなりすばしっこくてなおかつ硬いみたいなんだ。…で、弱点は地属性。僕達のパーティーだとハンクス君の『グランドエレメンタル』が有効って事だね。」

「なるほどね。じゃあ前衛組がプラチナモフモフの逃走を防いでハンクス君が攻撃って感じね。」



 ダンジョン内は今までにない風景だった。ただ真っ直ぐに伸びる道の右側に等間隔のドア、そして左側は水だ。透明度が高いせいで逆に深さが分からない。

 一通り観賞した後、一番手前のドアを開ける。

「タマちゃんのスキル効果あるみたいだね。」

 どこからどう見てもプラチナモフモフとしか思えないモンスターが部屋の中央にいる。何でかって?だってプラチナでモフモフしてるんだもん。

「『悪霊の呪縛』で足止めする。」

 テレちゃんが目を瞑って放つ。それを合図に前衛組が距離を詰める。ハンクスも『グランドエレメンタル』を放つ。

「え?悪霊効いてない?」

 囲みはしたもののフェミちゃんとメガネの間をプラチナモフモフはスルリと抜け出してしまった。ハンクスのスキルも当たらない。メガネが反射的に剣を振り下ろす。ガキンと金属音が辺りに響いた。

「硬!!」

 メガネが手の痺れを感じてる間にプラチナモフモフは「そんな隙間に入れるの?」というような岩の隙間に逃げ込んでしまった。

「逃げられちゃったね…。」

「ごめん。私のスキル効いてなかった。」

 テレちゃんが謝る。

「そうか?ちゃんと効いてたぞ。時間が短いだけで。」

 タマの言葉に一同驚く。

「何でそう思うの?」 

「何でってあの悪霊は敵に絡みつくと笑うんだよ。さっきちゃんと笑ってたぞ、あいつら。」

「良く見てるねタマ君。」

「いや、あの中の一人がウチのじいちゃんに似ててさ。それで良く見てたんだよ。あっ、じいちゃんは生きてるけどね。」

 そんな理由かタマ。それに悪霊に似てるじいちゃんって…。

「とにかく何か手を打たないといけないね。ハンクス君の攻撃が当たれば何とかなりそうなんだけど…。ハンクス君も近付いて至近距離で撃ってみる?」


 その後、試行錯誤を重ねたが10戦して逃げずに戦ったプラチナモフモフ一体だけしか倒せなかった。貰える経験値は莫大でその一体だけで初期メンバーは43にテレちゃんは25になった。テレちゃんはランクアップし見習いが取れネクロマンサーになり、敵の体力を吸い取り仲間を回復するスキル『魂食い』と闇属性攻撃魔法『黒の閃光』を覚えた。

「なんかイライラするね…。」

 まあ、落ち着けフェミちゃん。

「第1ダンジョン部の人達はどうやって倒してるんだろう?」

 最もな疑問だねメガネ。

「恥を忍んで聞いてみようか?」

 お前には忍びきれない程の恥があるのにか?ハンクス。

「これじゃ海で遊べないじゃ~ん。」

 お前は黙ってろタマ。

「………あのさ…。」

 テレちゃんが申し訳なさそうに話し出す。

「ごめん。簡単に倒せる方法…思いついてはいたんだ…。」

「え?」

 一同テレちゃんを驚きの声と共に見る。

「ほんと、ごめん。」

「何で謝るんだ?もし本当なら凄いぞ。さぁ、早く聞かせなさい!!」

 タマは余程遊びたいらしい。

「あのな。私の『悪霊の呪縛』が短時間だが効くだろ?その時に前衛のみんなで完全に囲まずに一方向だけ開けておくんだ。」

「ふんふん。」

「そろ開けた所にハンクスが『グランドエレメンタル』を撃てば良いんだが…。この作戦には問題があって…。」

「聞いていると逃げられそうだけど…。」

「そうなんだ。」

「?」

「大人数…私が考えるに最低6人でプラチナモフモフの逃げる先をこちらが用意してやれば可能なんだよ。もちろん私とハンクスは外してだ。」

「テレちゃん…ダンジョンには5人までしか入れないんだよ?無理じゃん。」

 ハンクスが本意気で腹立つ発言をする。マー君入れたらお前ら6人だろうが。

「あ…なるほど、そう言う事か…。」

 メガネが何か気付いたようだ。メガネが続ける。

「テレちゃんは大丈夫なの?」

「ここまで話したんだ。やるさ。」

「幾つ出せるんだっけ?」

「今は3つが限界だ。」

 メガネの問いにテレちゃんが答える。

「おいおい。全く話が見えて来ないんだけど、俺とハンクスにも分かる様に説明してくれ。」

「あの…私にも…。」

 フェミちゃんも分からないようだ。

「私の『アンデットソルジャー』だよ。アンデットを3体…これが私の限界なんだけど…それを予め召喚して囲む要員を増やす。」

「なるほど!!それなら囲む人数はタマ君入れて7人…テレちゃんの作戦が可能なワケだ。」

 フェミちゃんが嬉しそうに話す。

「こんな良い作戦何で黙ってたんだ?」

 タマが聞くとテレちゃんはうつむいてしまった。

「ん?どうした?」

「だって……。」

 口ごもるテレちゃんの代わりにメガネが通訳するように話す。

「アンデットはテレちゃんの指示で動くんだよ。とても目を瞑ってはできないよ。

 ましてや召喚はテレちゃんの近くにされるし…オバケ嫌いのテレちゃんには辛過ぎるよね。」

 そういう事かとみんな納得した。

「テレちゃん大丈夫?」

 フェミちゃんが声をかける。

「だ…大丈夫だよ。大丈夫だから話したんじゃないか。この上ない程の大丈夫具合だ。全然、全然大丈夫。」

 こりゃ大丈夫じゃないな。

「タマ君。」

「何だフェミちゃん?」

「テレちゃんに付いててあげて。」

「…しょうがないな。俺しかいないもんな暇なの。」

 タマの口調にいつものいい加減さはない。テレちゃんの頑張りを助けたいというタマらしくない人間らしい血の通ったマトモな思考の表れだった。

「ひどい言われ様だな。」

 タマもナレーションが聞こえる様になったのか?勘弁してくれ。


「じゃあ、作戦通りやるよ。テレちゃん…よろしくね。」

「おう。任せとけ。」

 フェミちゃんの問いかけに気丈に答えるテレちゃんだが顔色は優れない。

「なあ…タマ…。」

「何だ?」

「手…握っていいか?」

「勝手にしろよ。」

「うん。勝手にする。」

 タマの手を握るテレちゃんの手は小刻みに震えていた。

「いくぞ。『アンデットソルジャー』!!」

 テレちゃんの周囲の地面が黒くなる。そこから3体の鎧を纏い剣を携えた半分骨になったアンデットが這い出て来る。テレちゃんの手に力が入る。

「タマ…やっぱり……。」

 テレちゃんが今にも泣き出しそうな顔でタマを見る。

「う~ん。今回はウチのじいちゃん似はいないみたいだな。ウチのじいちゃんはアンデットより悪霊に似てるという事が分かった。」

 タマが言うとテレちゃんがクスリと笑う。

「お前のじいちゃんに会ってみたくなったよ。」

「俺はじいちゃん似だそうだ。」

「じゃあ、タマも悪霊顔って事だな?そう思うと悪霊も怖くないな。…さぁ、始めるか…『悪霊の呪縛』。」

 テレちゃんのスキルの発動を合図にフェミちゃん、メガネ、マー君、そして3体のアンデットが予定の配置に着き攻撃も加える。

 スキルから解放されたプラチナモフモフは思惑通りの道を逃げる。

「ハンクス君!!今!!」

 フェミちゃんの合図を待っていたハンクスがスキルを放つ。プラチナモフモフは「ギャッ!」と声を上げ逃げ道を探すが見付からなかったらしくフェミちゃんに攻撃を仕掛ける。それを弾き返し、そこにハンクスがスキルを放った。これで終わりである。

 役目を終えたアンデット達が地面に沈んで行く。

「嘘みたいにハマったね…。」

 フェミちゃんが驚きを口にする。

「上手く行き過ぎた感もあるから次回も同じとは思わないようにしようね。」

 メガネも驚いているが気を引き締めている。真面目か!!

「外さないかドキドキしたよ。」

 今回は良くやったハンクス。褒めてやろう。

「よくやったなテレちゃん。」

「おう。」

 もう手は繋いでいない。みんなが二人の所に戻ってきた。

「「ありがとうテレちゃん。」」

「お…おう。」

 みんなにお礼を言われ恥ずかしそうだ。

 ん?マー君の様子がおかしい。何かムズムズしている。

「ん?どうしたマー君?」

 マー君はタマの問いかけを無視し、ハンクスを手招きする。

「え?僕?何?」

 ハンクスが近付いくとマー君は鎧の隙間を指差す。

「ん?こ…これは…。」

「どうしたハンクス?」

「マー君の中にプラチナモフモフが一匹逃げ込んでるみたいなんだ。」

「なんだと!?」

 確かに隙間にからチラチラと何かが動いているのが見える。

「…で、マー君がハンクス君を呼んだって事は…。マー君の中にスキル撃ってやっつけろって事?」

 フェミちゃんが聞くとマー君はコクコクと頷きジェスチャーで「ここ開けるからやっちゃって!」的な動きをしている。

「じゃあ、お言葉に甘えて…。」

 

 

 こうして合宿初日のダンジョンは終了した。何か作者の思惑を超えてみんな…タマですら人として成長している気がする。そしてなにより、マー君の中ってやっぱり空っぽだった事を確認しつつ………つづく!!

 


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