第40話 合宿開始なのです。

「ん~。この磯のかほり…。栃木では感じる事の出来ない生臭さだね~。」

「タマちゃん、地元の人に怒られるよ…。」

 第5ダンジョン部は丹澤慶子のワンボックスカーに乗って茨城県大洗に来ている。前方には第1ダンジョン部30名を乗せた大型バスが走っている。

「あっ。海見えた!!」

「え?どこどこ?」

 フェミちゃんとテレちゃんも楽しそうだ。

「そろそろお世話になるホテルに着くわよ。部屋に荷物を置いたら第1ダンジョン部と合同でミーティングね。」

「は~い。」


 ホテル『ウミネコ』。これから2泊3日お世話になる宿である。ビジネスホテルと観光ホテルのちょうど中間といったところか。

 この夏休み期間中に部屋が大量に取れたのは、単に鈴木会長の祖父がこのホテルの経営会社の大株主であったからだ。


「はい。第1ダンジョン部のみんなも集まって!!鈴木さん。第1の部屋割りは済んでるのよね?」

「はい。滞りなく。」

「よろしい。じゃあ一度部屋に荷物を置いて、そうね…10時に7階会議室に集合…ってことでいい?」

 鈴木会長は「はい」と答える。

「じゃあ一旦解散!!」


「おや?」

「どうしたのタマちゃん?」

「これなんだっけ?」

 タマの荷物の中から大きな封筒が出てくる。タマが封筒を開けると月刊ダンジョンが出てきた。

「これは俺が取材を受けた月刊ダンジョンじゃないか!!」

「え?まだ見てなかったの?僕達は発売日に買って読んだよ。あんなメチャクチャな取材だったのに流石プロだよね。見事にまとまってた。」

 メガネが思い出しながら言う。

「そうだ。出掛けに母ちゃんがいい加減開けて何とかしろって俺に渡したんだった。編集部から送られてきたみたいだな。」

「読むにしても後にしようよ。時間ないよ。」

「そうだな。まぁ、うまくまとまってるなら面白くはなさそうだから読まなくてもいいや。」

 いや、読めよ。

「僕ちょっとトイレ…」

 


「こら!!第5の男子!!遅い!!」

 会議室に入ると全員がこちらを見る。またしてもハンクスのウ○コによる災難だ。

「すんません。ハンクスのウ○コがながくて…。」

 ウケなかった。スベったのはタマだが、恥ずかしいのはハンクスである。

「まあ、いいわ。鈴木さん、後はよろしく。」

 そう言うと丹澤慶子は座り、代わりに鈴木会長が立つ。

「皆さん、移動お疲れ様でした。今回の合宿のスケジュールは事前の説明会でお話しした通りです。第5との合同合宿ですが実質別行動という事で…よろしいんですよね?」

 丹澤慶子が頷く。

「では、第1はこれから砂浜をランニング。11時半にホテルに戻ってシャワーを浴びて昼食になります。午後に水族館のダンジョンに行きますが班分けは昼食時に発表します。那須野ヶ原高生としての自覚を持って恥ずかしくない行動を心掛けて下さい。以上。」

 ちゃんとしてる。本当にあの鈴木会長なのだろうか?いや、こちらが本来の会長のイメージなのだろう。第1ダンジョン部は席を立ち部屋から出て行った。

「なんか本格的な部活って感じだね。」

 ハンクスが正直な感想を漏らす。

「だな~。一緒のスケジュールじゃなくて良かったよ。とりあえず俺達はどうする部長?」

「そうね…。ダンジョンに行くにはお昼まで時間はないし…。」

 フェミちゃんがどうしたものかと悩んでいる。

「海で遊んでくれば?」

 丹澤慶子が思わぬ提案をする。

「え?いいんですか?」

「フフフ…。ジャーン。」

 丹澤慶子がシャツを捲るとその下は水着だった。

「先生…。」

「海なんて久しぶりなのよね。砂浜で飲むビール…最高ね。」

 結局酒なんだね。丹澤慶子も栃木県人である。海でテンションの上がらない栃木県人などいないのだ!!(作者調べ)

「あなた達も水着持って来てるんでしょ?さあ、早く行きましょうよ!!さあ!!」

 見たことのないテンションの丹澤慶子に促され第5ダンジョン部は海へと向かうのであった。



「うお~~!!う~み~!!」

 タマが叫ぶ。

「ちょっとタマちゃん恥ずかしいからやめなよ…。」

「うわ~~!!う~み~!!」

 丹澤慶子が叫ぶ。

「………可愛い…。」

「おい。ハンクス、俺のやっている事と先生のやってる事、同じなのになぜだ?」

「何言ってるの?全然違うじゃない。」

 恋は盲目である。

「さて…僕は一泳ぎしてこようかな…。」

 メガネがストレッチをしている。

「せっかくの海で本格的に泳ぐってどんだけ真面目なんだよメガネは………って、メガネ!?」

「なに?」

「お…お前…その身体…。」

 細身に見えたメガネの身体は腹筋は6つに割れ、全体的にバランスの良い筋肉がついていた。いわゆる細マッチョだ。

「ああ、ダンジョン攻略始めてからさ、ちょっと身体を鍛える楽しさに目覚めて…。気が付いたらこうなってた。じゃあ行ってくる。」

 そう言うとメガネは一目散に海に走って行った。ハンクスも丹澤慶子を追いかけて行ってしまった。

「タマ君。今の誰?知り合い?」

 フェミちゃんとテレちゃんも合流する。二人ともワンピースで同じデザインの色違いだ。おそらく二人で仲良く買いに行ったのだろう。

「誰って…メガネだよ。」

「え?メガネ君?凄い筋肉だったよ?」

「うむ。俺も驚いた。それに引き換え俺の腹は…。」

 タマがポンと叩くとわずかに揺れる。

「ん~。太ってるワケでもないけど、もう少し鍛えた方が良いかもね…。…って、そんな事より、ほら何か言う事ないの?」

「何って?ああ、確かこういう時は女の子を褒めなければいけないという噂を聞いた事があるぞ。可愛い可愛い。」

 ハァと深い溜め息をつくとフェミちゃんはタマの肩を叩く。

「もっと自分の言葉でどこがどう可愛いのか褒めなさいよ。私はいいからテレちゃんを。」

「ちょっとフェミちゃん!!いいよ別に!」

 テレちゃんが赤くなる。

「テレちゃんを褒めれば良いんだな?…う~ん……。」

 マジマジとテレちゃんを見るタマ。鮮やかな水色の水着に透明感のある肌のコントラストを見てタマはかき氷のブルーハワイを連想した。


「うむ。美味しそうだな。」


 一瞬空気が凍り付き次の瞬間、フェミちゃんとテレちゃんの拳がタマの顔面にヒットしていた。

 舞い上がるタマの血の赤は青空にとても映えたとさ。


 次回!!ちゃんとダンジョンに行きます!……つづく!!





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