第35話 合宿の説明やら不良やらなのです。

 夏休みを目前にひかえた7月の半ば。第5ダンジョン部は丹澤慶子に呼ばれ部室に集まっていた。合宿の詳細を聞くためである。まあ、それがなくても集まってるんだけどね。


「さて、先日話した通り夏休みの合宿の説明をしたいと思います。まずは日程、お盆過ぎの8月19日からの3日間よ。茨城県大洗の民宿に泊まって近くのダンジョンを攻略するわ。」

「海に行けるのはありがたいんですけど、大洗に行くメリットって何かあるんすか?」

 珍しくタマがちゃんとした質問をする。

「あるわよ。大会に向けてのレベル上げです。」

「なら、いつもの酒屋のダンジョンでいいじゃないですか?」

「酒屋のダンジョンでのレベルの上がりが悪くなってきてると思わない?」

 確かに自主的に酒屋のダンジョンに行き始めた頃は1日で2から3上がっていたレベルも2日で1、3日で1と徐々に上がるペースが下がってきていた。

「確かになかなか上がらなくなってますね。レベル40から特に上がらなくなってきた気がします。」

 フェミちゃんが独自に付けているダンジョン日誌を見ながら言う。そう、彼らは暇さえあれば(基本暇なのだが)酒屋のダンジョンに出向いていたのだ。あまりに頻繁に行くのでメガネは自転車を買った。

 

 そして、レベル40になりランクアップしていた。なぜその時を1話にして書かないのか?という疑問が読み手の方には生まれるかもしれない。その答えは作者が忘れていたからだ!!そりゃランクアップはこの物語では重要な所さ。でもね、鈴木会長とダンジョンに行った時レベル37であれから大分経ってるのに40になってないのはおかしいじゃんか?そして、それに気付いたのが昨日だったらあなたならどうする?「間に1話挟めばいいじゃない?」と思ったあなた!!

 正論です。

 でも…でもね………めんどくさいじゃん……。…と、いうわけで今語る!!事後報告として!!

 

 …というワケで、フェミちゃんは「アーマーナイト」から「ハイアーマーナイト」になり、敵後列まで届くスキル「貫通」と数秒間ほぼ無敵になる「鉄塊」を覚えた。

 ハンクスは「エレメンタラー」から「ハイエレメンタラー」に。スキルは「リカバリーエレメンタル」「キュアエレメンタル」とより強い回復と状態異常解除を覚えた。

 メガネは「戦士」から「戦士長」になり、広範囲スキル「凪ぎ払い」と攻撃力アップの「剛腕」を覚えた。

 タマは「浮っかりさん」から「浮っかり様」になった。「様」ってくらいだから偉くなったのかな?スキルは「肝吸いはなくてもいいや」を覚えた。どんなスキルかは謎だ。タマは使いたくてウズウズしているのだが、「お酒はやめなはれ」の例もあり、皆が止めているのが現実だ。話は戻る。


「…で、大洗にある水族館のダンジョンにはプラチナモフモフが出るのよ。タマ君の100%レアモンスターのスキルが通用するかは分からないけれども行ってみる価値はありそうでしょ?」

「なるほど。じゃあ、3日間そのダンジョン三昧なんですね。」

「う~ん。第1ダンジョン部がどうするか聞いてみてからしか分からないわね。」

「え?」

「今回の合宿は第1ダンジョン部と合同よ。」

「初耳ですよ。」

「当たり前でしょ?今初めて言ったんだから。」

「じゃあ俺は行きませんよ。あいつら絶対に朝ランニングしたり筋トレしたりしますよね?」

「するでしょうね。まあ、厳しく訓練するよりも楽しんでやる方があなた達らしい気もするから別に同じスケジュールでやる必要もないけどね。」

「?どういうことですか?」

「第1ダンジョン部の顧問の先生が合宿に参加出来ない…と言うか参加しないのよ。で、合宿するには大人が同行しなくちゃいけなくて鈴木さんにお願いされちゃったのよね。だから、どうせならあなた達も一緒に…というワケよ。」

「なるほど。じゃあ、ダンジョン行かないでずっと海で遊んでてもいいワケですね。」

 いや、行けよ。

「海の藻くずになりたいなら別にいいわよ。」

「ごめんなさい。」

 丹澤慶子を逆撫でする才能はピカイチだなタマ。メガネが手を挙げる。

「なあに?メガネ君。」

「参加費はいくらなんですか?」

「基本的に宿泊費とダンジョン代だけね。1万5千円くらいかしら?第1ダンジョン部はレンタカーバス代がかかるけど、あなた達は私の車で乗せていってあげる。」

 なんやかんや優しいね丹澤慶子。

「オヤツはいくらまでですか?」

 タマがベタかつ必ずスベる質問をする。

「1億円でもいいわよ。因みにバナナはフィリピンの年間生産量まで持ってきていいわ。持ってこれるもんならね。」


 親の同意書が必要なので丹澤慶子がプリントを配っていると部室のドアが勢いよく開く。そこには一目見ただけで不良である事がわかる長身で金髪の女子生徒が立っていた。

「あら。源(みなもと)さん。何か用かしら?」

 丹澤慶子の問い掛けを無視し、源と呼ばれた女子生徒は部室をぐるりと見渡しフェミちゃんで視線を止める。

「いた。郷田、久しぶりだな。」

 一同フェミちゃんを見る。当のフェミちゃんは堂々と源を見据える。その表情には笑みすら浮かんでいる。

「源さん久しぶり。何しに来たの?」

「もう少し驚けよ。約束を果たしに来たんだよ。」

 ピリピリとした空気が部室に張り詰める。ハンクスとメガネは落ち着かない。タマはハナクソをほじっている。緊張感のないヤツだ。

「約束した覚えは私にはないわ。今大事な話をしているところなの。後にしてくれる?」

「オヤツの金額が大事な話とは思えないけどな。」

 聞かれてました。

「源さん、教師の前でケンカは止めてね。フェミちゃん、なんで今日転校してきた源さんと知り合いなの?」

 丹澤慶子がにこやかに、そして威圧感を出しつつ言う。

「中学の同級生です。2年の時に確か…長野だっけ?に転校したんですけど。」

「岐阜だよ。またこっちに帰って来たんだよ。あんたとの約束は一時も忘れなかったんだからな。」

 ハナクソをほじり終えたタマがゆっくりと立ち上がる。

「おい。お前、まずは挨拶と自己紹介をしたらどうだ?」

「あ?誰だお前?邪魔すんなよ。」

 源がタマを睨む。

「お前の恫喝など丹澤先生の恐怖と暴力の前にはそよ風程度だぜ!!それにその品のないしゃべり方はなんだ!!」

 お前が品を語るな。

「うるせえな。」

「せっかく可愛いのになぜそんなもったいない事をするんだ!?」

「な…何言ってるんだお前?バカにしてるのか!?」

 源が怯む。タマの言う通りよくよく見ればフェミちゃんにも勝るとも劣らない容姿の持ち主だ。

「いいか、よく聞けよ。ここにいるハンクスを見ろ!!トムハンクスに似てるだろ?だが、ぜんっっっぜんカッコよくない。なのにカッコつけるんだぜ?それが腹立つこと腹立つこと。」

 一同ポカーンとタマを見ている。

「つまり、カッコいいヤツがカッコつければ様になるがハンクスがカッコつけると腹立つワケだ。と、言うことはカッコつけるのはカッコいいヤツの特権と言ってもいい。お前は可愛い…だから可愛い言葉使いや仕草が出来る特権を持ってるんだぞ?なら、なぜその特権を使わない!?もったいないだろ!!」

「お…おう…。」

「おう…じゃない!!」

「う…うん…。」

「よし!!!」


 なんか、うやむやになった。

 …で、結局、源とフェミちゃんの約束って何だったんだ?それに合宿はどうなるんだか…。とにもかくにも…つづく!!

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