第34話 通り名を考えるのです。
取材のあの日から数日が経った。あの後、いつも通りに戻ったタマはいつも通りの受け答えで第5ダンジョン部、丹澤慶子、鈴木会長のひんしゅくと怒りを買い、取材陣の爆笑を取りながら一通りの取材を終えた。雑誌の発売は7月20日に出るらしい。
「やはり必要だと思うのだよ。」
なんだ?タマ。一同ポカーンとしている。
「丹澤先生には吉祥寺ダークナイト、盆栽屋のオッサンは小平ブレイカーってかっこいい通り名ってのがあるだろ?」
「嫌な予感しかしないけど一応聞くね。それで?」
フェミちゃんが嫌々聞く。
「雑誌の取材受けただろ?俺達にもそろそろ必要だと思うんだ。」
「私は必要ないと思うわ。」
一刀両断だ。
「まあ、聞きなさい。土地名プラス職業ってのが今までの通り名だろ?正直ダサいとは思わんかね?ハンクス君はどうだね?」
「う~ん。そう言われればそうかも…。」
「ハンクス君!!」
フェミちゃんがハンクスを注意する。話を広げたらタマの思うツボだ。
「だろ?だろ!?でさ、職業の前を地名じゃなくてなんかカッコいいのを付けてはどうかと思ったんだよ。例えば『戦慄の』とか『黒翼の』とか。」
「タマ君…、とても高校生が考える議題とは思えないのだけれど……いや…やめてって言ってもどうせやるんだから好きにしたら?」
フェミちゃんはついにさじを投げた。大変だね部長。
「よし、部長の許可が出たところでまずはメガネからだ!!」
「えっ?僕?」
関わりたくなかったのでいつも以上に気配を消していたメガネが捕まる。
「メガネは戦士だよな…。メガネの特長はマジメ、地味、そしてメガネだな。戦い方の特長は…マジメ、地味、そしてメガネだな。まったく面白味のないヤツだな。」
大きすぎるお世話である。
「タマ君は気付いてないかもしれないけど、メガネ君の戦闘中の気配りは凄いのよ。いて欲しい所に必ずいてくれる。タマ君が思うより、ずっと頼りになるんだから。」
フェミちゃんがメガネの良い所をまくし立てる。そして、その言葉の裏にはタマよりメガネの方が優秀だと言っているに他ならない。
「フェミちゃん、ありがとう。」
注目されなれてないメガネは恥ずかしそうだが嬉しそうだ。
「そうなの?じゃあ、周りと先を見渡せる所から『千里眼戦士メガネ』と名付けよう。」
「通り名なんだからメガネは要らないんじゃない?」
ついにフェミちゃんも参加してしまった。
「そう?じゃあ『千里眼戦士』で。次はフェミちゃん!!」
「どうせ付けるなら可愛いのにしてよ。」
意外とノリノリだ。
「おう!!そうだな~…『殺戮アーマーナイト』ってのはどうだ?」
「可愛くない。」
「『ピンクアーマーナイト』は?」
「タマちゃん…なんか繁華街の匂いがするよ…。」
ハンクスは何でもエロい方に変換するな。まぁ、前も言ったけどこれが思春期の男の普通だけど。
「いつも僕達を護ってくれるから『守護乙女アーマーナイト』っていうのはどうかな?」
メガネ参戦!!
「なんか…いいかも…。」
フェミちゃんはまんざらでもなさそうだ。
「メガネが名付けたのは気に入らないが本人も気に入っているみたいだし『守護乙女アーマーナイト』で決定だな。次はハンクスだ。
そうだな…排便……。」
「絶対に有り得ないよね?」
ハンクスが先手を打つ。
「他に何があるんだ?」
友達とはいえ失礼にも程があるぞ。
「タマ君、私達ハンクス君がいなかったら大変なのよ?回復アイテム買わなくていいのはハンクスがいるからなんだから。」
フェミちゃんナイスフォロー!
「それは認める。だが、それをかきけす程の個性がハンクスにはあるのだよ。丹澤先生に恋するようなヤツだぞ。」
「え?」
「タマちゃん!!」
普通にばらした。
「ハンクス君、そうだったの?」
「確かに先生の前でのハンクス君はかっこつけ…いや、雰囲気が違うとは思ってたけど…。」
フェミちゃんとメガネが食い付く。人の恋バナほど無責任に面白いモノはない。
「おう。想いはもう伝えてあるぞ…俺が。」
「もうやめてよ。今は通り名の話でし
ょ!!」
「この議題は後に回すとして…今までの話を参考にして『色ボケエレメンタラー』というのはどうだろうか?」
「どこを参考にしたんだよ!!」
「じゃあ、省略して『エロメンタラー』っていうのは?」
「………。」
「タマ君、もう少し考えてあげようよ。」
「フェミちゃん、メガネは何か案があるのか?」
「そうね~。『恋するエレメンタラー』は?」
「やめてフェミちゃん…。」
「タマ君もフェミちゃんもハンクス君の最大の特長忘れてない?」
「メガネ、そんなもんはないだろ?」
「いや、そもそもトムハンクスに似てるっていう特長があるじゃないか。」
ごめん。作者も普通に忘れてました。
「だから、『ハリウッド』とか『スーパースター』とかで良いんじゃないかな?」
「『サタデーナイトフィーバー』とか?」
「それはジョントラボルタだよ…。」
その後、トムハンクス主演映画の中で一番カッコいいタイトル(第5ダンジョン部主観)として『インフェルノ』がいいんじゃね?的な流れとなった。ここに『インフェルノエレメンタラー』誕生である!!どうでもいいんだけどね。
「うむ。これで後は俺だけだな。さあ、みんな考えてくれ!!」
皆一様に考える。…考える…考える。
「………。」
「どうした?」
フェミちゃんが沈黙を破る。
「タマ君、残念なお知らせなんだけど…聞く?」
「ん?なんだい?」
言い辛そうにフェミちゃんが続ける。
「タマ君の職業の『うっかりさん』なんだけど、頭に何を付けてもカッコよくならないことが判明したわ。」
「なんだと!?」
「例えば…例えばよ?マーベリックから連想して唯一無二と付けたとするわ。そうすると『唯一無二のうっかりさん』ってなるでしょ?それだとただのオッチョコチョイみたいになっちゃうじゃない?」
「そうだね。仮に最初にタマ君が言った戦慄の…とか黒翼の…とか付けても結局その後に『うっかりさん』がくるワケだから間が抜けるよね。」
メガネが追い打ちをかける。
「こうなったらスベらない事を目標に笑いを取りに行くしかないんじゃないかな?」
ハンクスがとどめをさす。
「そ…そんな事あるか!!考えればカッコよくなる枕詞があるはずだ!!例えば…例えば……たと…えば………。」
再び沈黙が流れる。流石のタマもその事実を認めるのにそう時間はかからなかった。
「チクショー!!なんてこった!!無駄な時間を過ごしてしまったぜ。」
お前が始めたんだろ?
その時部室のドアが開いた。丹澤慶子だ。
「おっ。みんな揃ってるわね。突然だけど、夏休み合宿するわよ。」
「合宿ですか?いいですね!!」
フェミちゃんのテンションが上がる。
「どこでやるんですか?」
メガネもやる気だ。
「茨城県の大洗よ。」
「海か~。楽しみですね。」
ハンクスも乗り気だ。
ここで栃木県一口メモ。海のない栃木県の人は海に対する憧れは他県の人が思う以上に強い。作者も子供の頃、海に行って異常にテンションが上がり体調を崩すという事があった。後、お風呂の水に塩を入れて人工海水を作って親にしこたま怒られた事もある。あの時流した涙は海水の味がした……あぁ懐かしい…。
「え~。俺は夏休み予定があるんですけど。」
「タマ君何があるの?」
「毎日ゴロゴロしようと…。」
「それは予定とは言わないのよ。覚えておきなさい。」
かくして、第5ダンジョン部は合宿を決行する事となった。次回、合宿の全容が明かに!!そして、しれっとランクアップするぞ。つづく!!
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