第33話 取材を受けるのです。
今日は土曜日だが第5ダンジョン部は学校の会議室にいた。タマの取材のためダンジョン攻略は休みだ。
「取材の人達遅いね~。っていうか、僕達がいる意味あるのかな?」
ハンクスが愚痴る。
「東北道が事故渋滞で少し遅れるって連絡があったわ。第5ダンジョン部の取材もしたいみたいだから休みのところ悪いけれどよろしくね。でも一番問題なのは……。」
丹澤慶子は深く溜め息をつく。
「何でアイツは来てないの?」
会議室にタマの姿はない。
「私、ちゃんと9時に集合って言ったわよね?」
一同コクリと頷く。
「逃げる理由はないし…まさか事故にあってたりはしないよね…。」
ハンクスは心配そうに呟いた。その時、会議室のドアが開く。
「先生、皆さんおはようございます。遅くなって申し訳ありません。少々美容室で時間がかかりまして。」
そこにはピッチリ七三分けのタマが立っていた。
「タ…タマちゃん…どうしたの?その髪型…。」
「やあ、塩野谷君(ハンクスの名字)。我が校の品位を汚さぬよう考えた結果、これが最良であると決断したのだよ。君達も細心の注意を払ってくれたまえよ。」
大丈夫か?タマ。
「良い心掛けね。私が監視する必要はなかったかしら?」
入り口から唐突に声がする。鈴木会長が男Aと男Bを引き連れて立っている。男Cはお婆ちゃん家に行く用事があっていないのだが、どうでも良い話だ。
「鈴木会長、おはようございます。その節は大変失礼致しました。ご心配ありがとうございます。」
本当にどうした?タマ。
「せっかくだから同席させてもらっても良いかしら?後学のために。」
「もちろんですよ。良いですよね?先生。」
「え?えぇ、良いわよ。」
タマが丹澤慶子を立てている…。教育(洗脳?)した丹澤慶子も驚く程の変わり様だ。その時、丹澤慶子のスマホが鳴った。
「あ…。着いたみたいね。迎えに行ってくるから皆はここで待っててね。」
「あら?編集長自らお出ましとは珍しいわね。」
校舎入り口で取材陣を出迎えた丹澤慶子は先頭を歩く茶髪の40代のすらりとした男性に声をかける。
「よう、丹澤。会うのは4年…いや、5年振りか?相変わらず綺麗だな。」
月刊ダンジョン2代目編集長「陣野明(じんの あきら)」創刊当初から携わり、自身も新宿カーディナルというアダ名が付く有名なプレイヤーだ。カーディナルとは回復系職業のビショップの最高位だ。因みに訳すと枢機卿って感じでやんす。
「相変わらずチャラいわね。分かってると思うけど、私の事には触れないでね。」
「分かってるよ。でも丹澤がダンジョン部の顧問やってるって聞いた時は驚いたよ。もうダンジョンには関わらないと思ってたからさ。」
「その話は今は止めて。今回はタマ君とウチの第5ダンジョン部の取材でしょ?」
「はいはい。これも何かの縁だ。またやり直さないか?俺達。」
おや?何やら色っぽい話だな。
「な…ななな何言ってるの!?バカじゃないの!?その話、ぜっっったいに生徒の前で話さないでね!!」
丹澤慶子が紅くなる。酒豪、修羅、羅刹と形容される丹澤慶子の意外な一面だね。
「本気なんだけどな~。まぁ考えといてよ。さぁ、仕事仕事。」
陣野はにこやかに笑いながらまだ紅い丹澤慶子に案内するよう促した。
「はじめまして。月刊ダンジョン編集部編集長の陣野です。こっちがカメラマンの館野でこっちの女性がライターの飯田です。今日はよろしくお願いします。」
3人は軽く頭を下げる。
「こちらこそよろしくお願いします。私が玉乃井樹です。」
ちゃ…ちゃんと挨拶してる…。
その後、第5ダンジョン部がアダ名を含め自己紹介する。そしてなぜか鈴木会長が挨拶をした。お前がするなら男Aと男Bにも自己紹介させてやれよ。
「では、早速取材に入らせてもらおうかな。玉乃井君、史上5人目のマーベリック『うっかりさん』になった時の事やその時の気持ちなんかを聞かせてもらえないかな?」
「はい。ダンジョンについて無知だったもので初めは正直ガッカリしました。何せ、装備がヒノキの棒と布の服でしたし、スキルもなかったんですから。後にマーベリックだと聞いて本当に驚きました。」
面接の解答みたいだね。
「なるほど。それで初めてのダンジョンで『アカラナータフレイム』を使ったって聞いたんだけど、本当?」
「はい。その1度だけですけど、確かに使いました。先程も申し上げましたが、それがどれほどのスキルかは知りませんでしたので、やはり後から聞いて驚きました。」
「ふんふん。後、俄には信じられないんだけど、装備が独自で動いてるって聞いたんだけど。」
「はい。魔神の鎧なんですけど、私に装備されずに独自に動いています。名前をそこにいる部長の郷田さん(フェミちゃんの名字)がマー君と名付けました。今では頼りになる仲間の一人ですね。たまに腹立つけど。」
おや?よく見るとタマの七三分けが少しはね上がっている。
「……。なるほど、未知のスキルを持ってるって聞いたんだけど、それはどんなスキルなのかな?」
「名前は長いので略して『お酒はやめなはれ』と呼んでいます。仲間一人の装備を解除する替わりに敵を泥酔状態にするスキルですね。鈴木会長を半裸に、ハンクスを全裸にしてやったぜ。」
鈴木会長が固まる。タマの七三分けが乱れてきている。
「…そ、それは鈴木さんもハンクス君も災難だったね。状態異常泥酔ってのも初めて聞いたよ。」
丹澤慶子の周りの空気が変わる。ヤバいぞ。
「俺にしてみればもっとちゃんとしたかっこいい職業とかスキルが良かったっすよ。緑色にはなるし、先生や会長には殴られるし、オタマジャクシとは蔑まれるし…。」
タマの七三分けは崩壊している。七三分けに魂を乗っ取られていたようだ。
「あ…あぁ、なるほど、普通の職業ではなかなか経験出来ない事が出来てるってことで良いのかな?」
「そんな生易しいもんじゃありませんぜ陣野っち!!あんたに俺の苦労など分かるわけ…げふっ!!」
タマが当て身を食らい気を失う。食らわせたのは丹澤慶子ではなく鈴木会長だった。
「みなさん。玉乃井君はちょっと体調が悪いみたいなので私達が介抱してきますね。その間に第5ダンジョンの取材をしていただければ……。」
男ABに担がれタマは鈴木会長と共に部屋を出て行った。
「……なぁ丹澤。今のは何だったんだ?」
「気にしないで。」
「いや、玉乃井君明かに変だったろ?それに当て身を…。」
「気にしないで。さぁ、タマ君が戻るまで第5ダンジョン部の取材しちゃってよ。」
丹澤慶子は何事もなかったように振る舞う。
「あ…あぁ…、そうだね。じゃあ、創部の話から聞いていこうかな。」
第5ダンジョン部の取材が順調に進む中、会議室の扉が開く。
「オマタセイタシマシタ。」
タマの髪型は七三分けに整髪剤でガチガチに固められていた。頭にマジックで書いているみたいにピッタリと張り付いている。そしてその目には光はない。
「サキホドハ タイヘンシツレイ イタシマシタ。」
タマの背後には鈴木会長と男ABが控えている。
「遅くなりました。玉乃井君の体調が戻ったみたいなので続きをどうぞ。」
ニコリと笑う鈴木会長だが、目の奥は笑っていない。
「あ…あぁ、第5ダンジョン部の創設からの話は大体聞いたよ。じゃあ、玉乃井君がダンジョンで思い出に残っている事は何か聞いて良いかな?」
タマの異変を気にしながらも陣野は聞いた。
「ハイ。ヤハリ ハジメテノセントウ…セント…セン…セン……ハンクスノウ○コ……カイチョウ…センセイ……ナグラ…オッパ……オ……。」
様子がおかしい。
「ムピーー!!!」
奇声を発するとタマはバッタリと前のめりに倒れた。
「タマ君!!」
「タマちゃん!!」
皆慌てて駆け寄る。仰向けに転がし丹澤慶子がペットボトルの水を顔にかける。
「う…う~ん…。」
「大丈夫…みたいね…。」
一同ホッとする中、タマは頭を振りながら上体を起こした。
「あれ?みんなどうしたんだ?ここは…学校?」
タマには今朝からの記憶がなかった。これが後に第5ダンジョン部に代々伝えられる怪談『七三分けの呪い』である。後輩達はこの話を怖れ決して七三分けにはしなかったという…。
「じゃあ、改めて…創部のきっかけを教えてくれるかな?」
「暇だったからです!!」
教訓「無理するな!!」…つづく!!
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