第32話 予行練習なのです。
ある日の放課後、タマは校長室に呼ばれていた。何かしたのか?
那須野ヶ原高校校長、大竹進次郎(おおたけ しんじろう)55才、身長180を超えガタイも良い。顔は強面で額には大きな傷がある。その風貌から密かに「ヤクザ校長」などとアダ名をつけられている。実際のところ、額の傷は愛犬アンちゃん(チワワ5才メス)の散歩中に側溝に足を取られブロック塀にぶつけて出来たものだ。趣味は料理。彼のラザニアは絶品である。
「玉乃井君。来てもらったのは他でもない。」
「他でもないと言われましても…。他が何か分からないんですけど…。」
同席している丹澤慶子が睨む。
「ゴホン。まぁ、あれだ。先日学校に月刊ダンジョン編集部から取材依頼があったんだが…史上5人目のマーベリックの君を取材したいそうだ。」
「はあ…。」
「…で、本校が取り上げられるのは実に名誉な事だし受けようと思うんだが、どうだろうか?」
「別に構いませんよ。」
「そうか。…で、担任であり、第5ダンジョン部顧問の丹澤先生に聞いたんだが…君は…その…個性的というか…。」
校長が言葉を濁す。
「校長。私が言います。要するにね、タマ君ってアホじゃない?」
丹澤慶子、あなたは少し言葉を濁しなさい。
「失礼な!!俺のどこがアホだって言うんですか!!」
「アホは自分をアホだとは思ってないわ。今回の取材、学校のイメージにも係わるから、ちゃんとしてほしいの。ウチって進学校でしょ?タマ君が那須野ヶ原高校のスタンダードだと思われちゃ困るのよ。」
辛辣だ。
「それがかわいい生徒に言う言葉か!!やってられるか!!校長、取材断って下さい!」
「かわいいと思ってないから大丈夫よ。」
丹澤慶子が火に油をドバドバ注ぐ。
「まぁまぁ丹澤先生。取材料も貰える様だし、君にとっても悪い話じゃないだろう?
個性が失われつつある現代社会において君の様な存在は貴重と言っても良い。ただ、少しだけ…少しだけ取材の練習をして万全を期して貰いたい…という事なんだ。」
「校長~あんた良い人だな~。丹澤先生!!教育者はこうじゃなきゃいかんのだよ!!分かっとるのかね!?」
タマは校長に抱きつき頭をなでなでしながら言う。
「校長をなでなでするのはやめなさい!!申し訳ありません!!」
「いやいや構わないよ。それでどうだろうか
玉乃井君?」
「お金まで貰えるならやりましょう!!頑張って偽善者になりきります!!」
偽善者になる必要はない。アホを隠せれば良いのだよタマ。
「そうかそうか。じゃあ、後は頼んだよ丹澤先生。」
タマに乱された髪を手櫛で直しながら校長はにこやかに言う。本当に良い人らしいな。
「え?タマ君月刊ダンジョンの取材受けるの?」
フェミちゃんがテンション上がり気味に言う。ハンクスとメガネも「お~。」と感嘆の声を上げる。
「そうなんだよ~。断ろうかとも思ったんだけど、校長がどうしてもって言うからさ~。」
早速天狗だ。
「…で、タマ君には取材の予行練習をしてもらう事にしたのよ。」
「予行練習ですか?」
「ええ、本番でどえらい事ぶっこまないようにしとかないとね。」
一同「あ~。」と一瞬にして納得した。
「まあ、編集長とは知り合いだからいざとなったら圧力かけて…。」
恐ろしや…。
「…と、言うわけで過去の月刊ダンジョンのインタビュー記事を参考に質問するから答えてね。みんなもちょっと付き合ってちょうだい。」
会議室を借り一同席に付く。テーブルの上には過去の月刊ダンジョンが数冊並んでいる。各々がペラペラのめくりインタビュー記事を探す。
「じゃあ、私から行くわね。ダンジョン攻略を始めるきっかけは何だったんですか?」
丹澤慶子が口火を切る。
「暇だったからです。」
「………。」
「次は僕が…自分の職業が決まった時、どう思いましたか?」
ハンクスが続く。
「ふざけんなと思いました。」
「………。」
「ダンジョン攻略で思い出に残っている事はありますか?」
フェミちゃんが続ける。
「う~ん…。ハンクスのウ○コが永かった事と…鈴木会長に殴られた事…後…おっぱいかな。」
「………。」
「え~と…、尊敬するダンジョンプレイヤーは誰ですか?」
メガネが続ける。
「尊敬はしてないですけど、恐怖を感じるのは吉祥寺ダークナイトです。」
「全ての間接を逆に曲げるわよ。」
「ごめんなさい。」
「……全然ダメね。」
「何でですか?正直に答えてるじゃないですか?」
「タマ君が正直に答える事が問題なのよ。これからビシビシ修正していくから覚悟するように。」
丹澤慶子の目が光る。修正という名の教育、教育という名の洗脳が始まるのであった。頑張れタマ、耐えろタマ、その先にはお金と名誉が待っている!!でも、ちゃんと出来るのだろうか…。
不安しかないまま次回取材本番!!そして、あのめんどくさい人がしゃしゃり出てくるぞ!!つづく!!
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