第20話 思ってたんと違うのです。

 翌日の放課後、第5ダンジョン部は丹澤慶子抜きで酒屋のダンジョンに自転車で向かっていた。メガネ以外は自転車通学なので良かった。メガネは丹澤慶子の計らいで学校の備品の自転車を借りたのだ。ブレーキがキーキーうるさい古い自転車だ。

「メガネ!!キーキーうるさい!!」

「仕方ないじゃないか!!」

 ごもっともである。 

「今日もタダにしてくれるかな~。みんな500円持ってきたわよね?」

 フェミちゃんが期待を口にする。してくれたら良いねフェミちゃん。

 酒屋のダンジョンに着くとありがたい事にタダにしてくれた。申し訳ないので各々カキピーやらさきいか(安いやつ)やらを買った。おやつである。


「さあ、2時間くらいしかないからガンガン戦いましょう!!レッツランクアップ!!」

 フェミちゃんやる気満々だね。

「あの~。1つ提案があるんだけど…。」

 珍しくメガネが話し出す。

「何だ?メガネ。」

「僕、あれからネットで色々調べたんだけど、普通ゴールドモフモフって出現率5%なんだって。」

「それで?」

「つまり普通、このダンジョン全部回って1回出るか出ないかって事なんだけど、前回80%ゴールドモフモフで後の20%もゴールドチクチクだったんだよ。これは異常なんだけど、多分タマ君のおかげなんだと思う。」

 タマが少し偉そうな態度になる。謙虚さはないのかタマ?

「…で、もし今回もそうなら奥の部屋まで行って帰って来るよりも入口近くの2、3部屋入って外出てまた入るを繰り返した方が効率が良いと思うんだよね。」

 一同「お~!!」と感心する。

「さすがメガネ。伊達にメガネかけてないな。」

 意味は分からないが、伊達にメガネかけてないと伊達メガネかけてないと似ていて紛らわしいな。そう思いません?思わないか…。

 

 メガネの案を採用したおかげでその時はすぐにきた。ランクアップである。

「ランクアップって見た目は変わらないのね…。スキルが増えたみたい。」

 フェミちゃんは見習いアーマーナイトからアーマーナイトになった。スキルは「体当たり」「鉄壁」が増えた。

「僕も増えたよ~。水と土かな?」

 ハンクスは見習いエレメンタラーからエレメンタラーになった。スキルは「ウォーターエレメンタル」「グランドエレメンタル」が増えた。少しカッコイイ名前なのが腹立つ。ハンクスのくせに…。

「僕も戦士になって『二段突き』と『カウンター』覚えたみたい。」

 メガネ、セリフで全部説明してくれてありがとう。

「…で、タマ君はどう?」

 一同がタマに注目する。緑色なのは忘れてないよね?

「『浮っかりさん』になった…。」

「「「はい?」」」

「うっかりさんの『う』が『浮く』っていう漢字になった。」

「それは……どんな意味が?」

「俺に聞くな。」

「あっ!!タマ君、スキルはどうなの?」

「あ!!!あるある!!え~と…。」


『「あなた…もうお酒は…」

 「うるさい!!」

 「もう家にお酒を買うお金はないのよ」

 「あるじゃねぇか」

 「!!あなた!それは今月のお家賃…。それだけは!!」

 「やかましい!!酒買ってくらぁ。」』


「…というスキル。」

「……それは、どんな意味が…。」

 メガネが恐る恐る聞く。

「以下同文だコノヤロー。」

「会話になってるのがイラッとするね。」

 ハンクス、お前が言うな。

「ま…まあ、使ってみないとどんなスキルか分からないね。そうだ!!買える装備も増えてるはずだから一度戻って見てみない?」

 頼りになるのは君だけだよフェミちゃん。スキル名を毎回言うのがめんどくさいので『お酒は止めなはれ』と呼ぶ事にする。


 ランクアップしたのでショップで買い物する事にした第5ダンジョン部。

「増えてる!!私はヘビィナイトアーマーと千人長の槍にする。色はもちろんピンクで!!。」

 フェミちゃんは女子なのに買い物が早い。

「僕は…え~と…う~ん…。どうしよう。」

 ハンクスは男なのに優柔不断だ。しかし、これに関しては作者は何も言えない。こうなると作者は悩んだ結果、何も買わないのだ。

「変えなくていいかな…。」

 お前もかハンクス。

「僕はブレストアーマーとシャムシールにする。」

 メガネは初めて鎧を買った。お金を貯めてたので一番高い武器を買う。計画的だね。真面目か!!

「俺はね…。もう期待しない事にしたんだよ…。どうせヒノキの何かと布の何かしかないに決まってるのさ…。」

 やさぐれているというよりも学習したと言った方が良いだろう。みんなもきっとそうなんだろうな~と思っている。

「ん?…うおぉぉぉぉぉぉ!!!!」

「ど…どうしたのタマちゃん!?」

 タマがワナワナと震えている。

「あるぞ…剣…そして鎧…。ついにこの村人スタイルから脱却出来るのだ!!後、緑色からも!!」

「ほんと!?良かったね。タマ君!!」

 フェミちゃんが喜ぶ。

「タマちゃん、おめでとう!!」

 ハンクスが喜ぶ。

「タマ君。これでまともに戦えるね!!」

 メガネが無意識に小バカにする。

「よ~し!!金はたんまりあるんや。買ったるで~。」

 エセ関西弁だ。関西の方ごめんなさい。

「決めた!!魔神の鎧と魔剣グラム!!色は変えない!!」

「!!!それってタマ君!!上級装備…」

 フェミちゃんパニック&エキサイティング。タマが光に包まれる。光が終息しタマの姿が現れる。その姿は!!その姿は………あれ?

 そこには布の服とヒノキの棒を持つ初期装備のタマがいた。

「……戻ってるんですけどぉぉぉ!!!」

 タマの渾身の叫びであった。

「タマちゃん……一体何が…ヒィ!!」

 ハンクスが悲鳴を上げる。フェミちゃんとメガネも固まっている。

 タマの隣に2メートル程の鈍い光を放つ厳つい鎧が幅の広い古代文字が刻印された長剣を持って佇んでいた。

「これは…間違いないわ…。魔神の鎧と魔剣グラム…。」

「何でこんな所に…。自分で着ろって事かな?」

 タマが鎧に触れようとすると鎧はタマの手を振り払った。

「うわ!!動いた!!」

 タマ以外の3人が後退る。

「おのれ鎧…持ち主である俺の手を払うとは許せん。」

 いや…タマ、動いた事は気にしないのか?

 再び触れようとしてもやはり振り払われる。触ろうとする。振り払われる。触ろうとする。振り払われる。触ろうとする。振り払われる。触ろうとする。振り払われる。触ろうとする。振り払われる。触ろうと…

「ぬぅわぁぁぁぁ!!!!腹立つ!!ハンクスの次くらいに腹立つ!!」

 どさくさに紛れた暴言。

「もういい!!みんな行くぞ!!こんなの放っておこう!!」

 プンスカと怒りながら再びダンジョン内に入ろうとするタマ。

「あの…タマ君。」

「何だ?フェミちゃん。」 

「付いてきてるよ。」

「何が?」

「魔神の鎧。」

「え?」

 振り向くと魔神の鎧がこっちを向いている。だるまさんが転んだ状態だ。

「何だお前。俺達と一緒に行きたいのか?」

 魔神の鎧はコクリと頷く。どうやらコミュニケーションはとれるようだ。

「そうか…。邪魔するんじゃないぞ。」

 このタマという男、動く鎧にも動じず、状況にすぐに対応する能力…意外と凄いヤツなんじゃ…。

「タマちゃん、何でそんな簡単に受け入れられるの?」

「ん?考えて何か解決するのか?めんどくさい。」

 前言撤回。ただのちゃらんぽらんでした。


 再びレベル上げを開始する。

「陣形変えるよ!!私とメガネ君が並んで前衛、タマ君は私達の後ろ。ハンクス君は狭い所では3メートル、広い所なら5メートル後方で援護。」

 フェミちゃんが新装備を踏まえて陣形を指示する。ふと見ると魔神の鎧が自分を指差している。

「あなたも戦ってくれるの?」

 魔神の鎧はコクリと頷く。

「じゃあ、私の隣に来る?」

 魔神の鎧は再びコクリと頷くとフェミちゃんの隣についた。

「さぁ。行くわよ!!」


 その後は攻撃力の上がったフェミちゃん、メガネの活躍。ハンクスの腹の立つ安定の援護。タマの無意味な踊りなどでゴールドモフモフを次々と倒していく。

 しかし、最も活躍したのは魔神の鎧であった。先陣を切り、攻撃防御共に的確なサポートもこなした。

「ありがとう魔神の鎧君!!」

「助かったよ魔神の鎧!!」

「頼りになるな~魔神の鎧!!」

「調子乗んなよ魔神の鎧!!」

 タマだけは面白くないようだ。そしてタマ、お前新しいスキル忘れてないか?使ってみれば良いのに…。ともあれ、ランクアップ、新しい装備、新しい仲間(?)を迎えた第5ダンジョン部。鈴木会長とのダンジョン攻略までにどれだけ強くなれるか楽しみだね。

次回!!丹澤慶子の一人酒ですよ。………つづく!!



 

 

 



 

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