第19話 忘れていたのです。

 あれから3日が経った。

 ハンクスはあれから一言もタマに話かけてこない。タマが話しかけても「あぁ。」とか「うん。」とかしか答えなくなった。まぁ、当然だね。でも、しっかり部室には来るのは丹澤慶子に会えるからであろう。さすがのタマも少なからず反省しているようだ。

 もう一人の当事者、丹澤慶子は何事もなかったようにいつも通りの態度だ。さすが大人。

 フェミちゃん、メガネもいつもと違う2人に違和感を抱きつつも聞きづらいのか何も詮索してはこない。


「ちょっとタマ君。こんな物を預かったんだけど…。」

 丹澤慶子が部室を訪れタマに茶封筒を渡す。表書きには玉乃井樹様と書いてあり裏の左下に鈴木涼子とあった。

「あ。」

「どうしたのタマ君?」

「忘れてた…。」

 やっぱり忘れてたんだな。恐る恐る封を切り便箋を取り出す。


『前略

 玉乃井樹様。

 過日は大変失礼致しました。

 さて、先日お願いした件、御検討頂けたでしょうか。お忘れではないとは思いますが御連絡頂けましたら幸いです。

 追伸

 私は色々忘れていません。 』


 最後の一文が怖い。

「先生。実は…。」

 タマは拉致されたあの日の事をこと細かに余計な事も織り混ぜて話した。

「…という事があったんですよ。」

「そう。いいんじゃないの?みんなもいいわよね?

 返事書きなさい。私が渡してきてあげるから。タマ君が行ったら何か問題起こして帰って来そうだし。」

 酷い言い様だが、その危惧が現実になる確率は非常に高い。

「じゃあ。お願いしちゃいます。ちょっと待ってて下さいね。」

 タマが筆記用具を取り出す。


『前略

 鈴木涼子様。

 やっぱりめんどくさいので、止めません か?

 追伸

 ご飯粒の事、忘れてません。』


「よし。」

「『よし。』じゃないわよ。何しれっと断ってるのよ。後、鈴木さんを煽るんじゃありません。」

「だってあの人からかいがいはあるんだけど、めんどくさいんですよ?みんなも嫌かと思って…。」

「私は別に構わないわ。元第1ダンジョン部部員としては、部長の実力見てみたいし。」

 フェミちゃんはやる気だ。

「僕も先生がいいって言うならやってみようかな…。」

 ハンクスがモジモジしながら言う。やっぱり何か腹立つな。

「みんなが行くなら僕も行きますよ。」

 メガネに自己主張はないのか?

「そういう事だから早く返事書きなさいよ。」

「ふぁ~い。」


『前略

 鈴木涼子様。

 先日の件、お受け致します。忘れていたワケではありません。本当です。信じて下さい。そして諸々許して下さい。

 返事が遅くなったのは顧問の丹澤慶…』


「おいタマ…。」

 丹澤慶子がドスを効かせた声で言う。タマはビクッとして書くのを止める。

「余計な事は書かなくていいから…。受ける旨を書くだけで後の日程とかダンジョンとかは私が調整するから。」


『前略

 鈴木涼子様。

 やったるわ。』


「これでお願いします。」

「………まぁ、良いわ。」

 良いんかい!!諦めたな丹澤慶子。

「じゃあ、届けてくるから待っててね。」

 そう言うと丹澤慶子は部室を出ていった。

「大変だったんだね…タマ君。」

 拉致のくだりを聞いていたフェミちゃんが優しく声をかける。

「まぁ、悪い人たちではなかった…と思うけどね。ところでフェミちゃん、鈴木部長ってどんな人なの?」

「そうね…。私も第1ダンジョン部にあまりいなかったからよくは知らないけど…人望は厚いらしいし勉強は出来るし、美人だし…隙がないように見えたけど…タマ君の話だと隙だらけの人みたいね。」

「うん。愉快な人だったよ。ダンジョンではどんなんだろう?何か知ってる?」

「それならこんな物があるよ。」

 フェミちゃんはカバンから一枚の紙を取り出した。

「第1ダンジョン部に入った時に配られた先輩たちの職業とレベルよ。鈴木部長は…これね。」

「え~と…なにこれ『籏本(はたもと)』って職業なのか?」

「侍がレベル60でランクアップした職業ね。鈴木部長はレベル62だから上級者よね。」

「ふ~ん。」

 聞いといてその態度はないと思うぞタマ。「じゃあ、僕達ももう少しレベル上げた方が良いかな?」

 メガネは本当に真面目だ。前回のダンジョンでは特盛スライム戦で疲弊してしまいその日のランクアップはおあずけとなっていた。

「別にいいんじゃないの?こっちに合わせてもらおう。あくまでも鈴木会長を連れていってやるという上から目線で行こうじゃないか。」

 要するにタマはめんどくさいのだ。お前のせいで前回ランクアップできなかったんだぞ?

「前回のダンジョン自転車で行けない距離じゃないわよね?ボスとさえ戦わなければ余裕じゃない?」

 やる気満々のフェミちゃんの提案にハンクス、メガネはうなずく。

「そうだよね。やるからには第1ダンジョン部に一目置かせてやろうよ!!」

 ハンクスにフェミちゃんのやる気が伝染する。

「僕も足を引っ張りたくないからレベル上げしたいな。」

 メガネにも伝染した。

「え~。」

 タマには伝染しなかった様だ。やる気に対して抗体でも持ってるのか?

 結局多数決によりこれから毎日レベル上げに酒屋のダンジョンに行く事になった。多数決は民主主義の基本である。…が、少数意見が切り捨てられるという側面もあるからそれに配慮したシステムが求められる。しかし、第5ダンジョン部においての少数意見はほぼタマのワガママ、自堕落、妄想なのでここでの救済処置は必要ないだろう。

「タマ君もランクアップして早く木の棒と布の服から脱却したいでしょ?」

「確かに鎧とか剣とかカッコイイやつに換えたいけど…。」

「でしょ?じゃあ決まりね。明日から毎日行きましょう!!」

 第5ダンジョン部に一体感が生まれた。いや…ほぼ一体感かな?鈴木会長とのダンジョン攻略までレベル上げだ!!

 因みに作者はゲームでのレベル上げは嫌いじゃない。某レベル上限がない有名ゲームでレベル3500オーバーして皆に引かれた経験もあるぞ!!

 次回!!ランクアップするぞ。タマの手紙に対する鈴木涼子の反応も気になるが、とりあえず…つづく!!

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