第18話 ハンクスが恋心を抱いたのです。

 酒屋ダンジョン制覇の翌日の日曜。タマはハンクスにファミレスに呼び出されていた。ハンクスのくせに呼び出したのである。

「あっ。タマちゃんこっちこっち!!」

 タマの姿を見付けると窓際の席からハンクスが手を振る。腹立つ。

「何だよハンクス。休日まで会いたくないんだけど。」

「そんなこと言わないでよ。どうしても相談したい事があってさ。」

 なんかモジモジしている。腹立つ。

「呼び出すからには重大かつ、なにかしらの見返りがあるんだろうな?」

「なんでも好きな物頼んでよ。」

 タマは遠慮なくハンバーグセットとドリンクバーとマヨネーズを頼んだ。

「…で、何なんだ?」

「うん…。実はさ…。」

 モジモジが激しくなる。もはやモジモジとは言えない。言うなれば…言うなれば……すいません。思い付きませんでした。

「なんだよ。早く言えよ。」

「好きな人が出来ちゃった。」

「そうか。それは良かったな。」

「タマちゃん、普通『誰?』とか聞かない?」

「いや。別に興味ないし…。」

 タマ…お前本当にハンクスのこと友達と思ってるのか?

「冷たいな~。ヒントは可愛くて強い女性。」

 ハンクスが聞きもしないのにヒントを出す。腹立つ。

 だろうな。フェミちゃんか…。タマも薄々気付いていた。…というかハンクスと関わりのある女の子はフェミちゃんしかいない。

「確かに可愛いし強いな。」

「タマちゃんもそう思う?まさかタマちゃんも…。」

「いや。可愛いのは分かるが、そういう感情は全くないな。」

「そうか~。良かった。」

 ハンクスは心底安心したリアクションをする。なんか腹立つ。

「…で、それを聞かされた俺はどうすればいいんだ?」

「応援してくれる?後、たまに協力してくれたら嬉しいな。」

 ハンバーグセットをぺろりと食べたタマはチョコレートパフェを頼んだ。少しは遠慮しろよ。

「まぁ、たいしたことは出来ないと思うけど、ここの奢り分くらいは働くよ。でもフェミちゃん可愛いからライバル多いんじゃないか?」

「え?」

「だから、フェミちゃん可愛いから…。」

「いや…。」

「え?」

 沈黙が流れる。タマは店内に流れる音楽をこれほどはっきり聞くのは初めてだった。

「僕の好きな人はフェミちゃんじゃないよ。」

「いやいや。他にいないだろう。クラスでも女子と話したり目で追ってたりしてるの見たことないぞ。」

「いるじゃない。もう一人…。」

「ま…まさか…俺?そ…そんなこと急に言われても、あたい…心の準備が……。」

「気持ち悪い事言わないでよ。」

「まさかメガネ?」

「もう一回言うけど、気持ち悪い事言わないでよ。ちゃんと女性だよ。」

「いないじゃん。」

「いるよ!!丹澤先生だよ!!」

 可愛くて強い女性…可愛くて…可愛くて?

「ハンクス…随分と長いフリとつまらないオチだったが冗談はよせとツッこんでおこう。冗談は顔とか顔とか顔だけにしておけ。」

「僕の顔を冗談の塊みたいに言わないでよ。冗談なんかじゃないよ。」

「いいか?よく聞けよハンクス。先生は確かに強い…強すぎる。あれは修羅だ。いや…鬼神、魔神と言っても良いくらいだ。」

「守ってもらえそうじゃない?」

「まあ、確かにな。女性の好みは人それぞれだから俺が口を挟むのは野暮ってもんなのかな。だが、『可愛い』ってのは解せぬのだよハンクス君。」

「可愛いじゃない。」

「生徒をグーで殴る呑んだくれのどこが可愛いんだ?」

「お酒飲んでほんのり赤くなってるところなんて可愛いじゃないか。」

「その後グーで殴るけどね。」

「後、厳しいけど所々手を差し伸べる優しさもあるじゃない?」

「その後、毒舌で心身共に瀕死の重症を負わせるけどね。」

「後、顔だって可愛いじゃないか。」

「確かに顔だけなら美人の部類に入るかもしれないけど、性格がにじみ出て鬼女の様になってる時が多々あるけどな。」

 恋は盲目とはよく言ったものだ。作者にも経験があるが何も見えなくなる…と言うか良いところしか見えなくなるんだよね。もっと言えば、悪い所も良く見えてしまうのだよ。大いなる勘違い…それが恋だ!!青春だな…ハンクス。

「もう!!タマちゃんは丹澤先生の事、全然分かってないよ!!」

「よく分かって俺が恋してもいいのか?」

「…それは…困る。」

 あれ?なんか、ハンクスが可愛く見えてきたぞ。

「うむ。ハンクスの本気はよく分かった。俺の出来る限りの事をしてやろう。」

 チョコレートパフェを完食したタマは席を立つ。

「ありがとうタマちゃん。」

 ハンクスも立ち上がり会計を済ませファミレスを出ようとする。

 入れ違いに入ってくる女性が一人。

「あら。2人とも休みの日も一緒なんて本当に仲がいいのね。」

 丹澤慶子である。偶然とはいえこのタイミング…。

「あ…先生!!こ…こんにちは!偶然ですね。」

 ハンクスがテンパる。分かるぞハンクス。今回ばかりは腹は立たない。

「何でこんな所にいるんすか?」

「私がどこに行こうと勝手でしょ?って言いたいところだけど、近所なのよ。休みの日は結構来るわよ。」

 休日に一人でファミレスとは寂しいぞ丹澤慶子。

「あっ。そうだ。先生、どうやらハンクスが先生の事好きになったみたいなんでよろしくお願いします。」

 ハンクスが固まる。丹澤慶子も固まる。

「あれ?2人ともどうしたんだ?ハンクス、良かったな。早速伝えてやったぞ。」


 ハンクスにグーで殴られた。


 因みに作者は嫁とは恋愛結婚だ。恋は盲目、勘違いとか言ったが作者は大人だから勘違いではない恋愛をして結婚したさ。

 まさかの作者ののろけ話で終わる第18話!!読み手の誰かに殴られる前に終わる!!つづく!!


 

 

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