第17話 仲間に間違えられるのです。
「少し戻った開けた場所まで走るわよ!!」
丹澤慶子が号令をかける。一同一目散に走り出した。ハンクスが出遅れる。放っておいて走る事にしよう。特盛スライムがウニョウニョ迫る。
「タマ君!!『アカラナータフレイム』出せる?」
フェミちゃんがガッシャンガッシャン音をたて走りながら声をかける。重そうな鎧なのに誰よりも速い。もしかして凄い娘なんじゃないのか?
「それ…が…まったく…うて…うて…撃てる…気が…しな…い…。」
タマは息が上がっている。緑色なのも見慣れてきた。開けた場所に着く。ハンクスもなんとか逃げ切った。残念…いや…良かった。
「そう…。じゃあ、正攻法で行くしかないみたいね。メガネ君とタマ君は私の後ろにハンクス君は後方から支援!!」
フェミちゃんが指揮をとる。無駄がない。
「基本的に山盛りスライムと戦い方は同じよ。ただサイズが大きいからメガネ君とタマ君は側面に回るのに距離があるから気を付けて。じゃあ…突撃!!」
今回は丹澤慶子のアドバイスも入る。しかしまぁ、第5ダンジョン部は女性が強いな。
前回の山盛りスライム戦の反省と丹澤慶子のアドバイスのおかげで戦闘は順調だ。ただ、攻撃力が強いのでハンクスはフェミちゃんの回復に集中している。タマは長くなったヒノキの棒で強めにツンツンしている。メガネは…まぁ普通?…に頑張ってる。
「その調子よ。時間はかかるかもしれないけど根気よくね……あら…これは困ったわね…。」
丹澤慶子が特盛スライムの右側面、つまりタマとメガネがいる方を見て呟く。右通路からゴブリンの一団が迫って来ている。
「タマ君!!メガネ君!!後ろからゴブリンが来てるわよ!!迎撃して!!」
タマとメガネは振り返る。
「うわっ!!たくさん来た!通路には敵出ないんじゃなかったんすか!?」
「出ないとは言ってないわ。出にくいって言っただけよ。」
「先生が何とかしてくれませんか?」
「イヤよ。」
「……。」
とりつく島もない。
「手を出さないと決めたの。頑張ってね。」
「は~い。…まったく…頑固というか融通がきかないというか…だから恋人も出来ないし…結婚も…。」
「タマ。聞こえてるわよ。おまえをゴブリンのエサにしてやろうか?」
恐ろしい…教育者としてではなく、人として恐ろしい。いや、もはや人を超えた悪鬼羅刹もしくは修羅である。国語の授業はちゃんと受けようなタマ。
「グァボグゥガッ」
ゴブリンが奇声を発する。
「あれ?」
「どうしたのタマ君?」
メガネが怪訝そうなタマに声をかける。
「今ゴブリンが『お前、人間と何している?』って言った気がする。」
「何言ってるの?迎撃するよ!!」
「いや。待てメガネ。何かコミュニケーションが取れそうな気がする。」
「さっきから『気がする』しか言ってないじゃないか!!」
珍しいメガネのツッコミ。
「ウゴギィゲギャイ」
「やっぱり解る…。『さては捕らえられ戦わされているのだな?』だってさ。俺の事、仲間だと思っているみたいだ。」
確かに緑色なのは同じだし、ヒノキの棒もゴブリンの持つ棍棒に見えなくもない。
「リスニングが出来ても話せなきゃコミュニケーションは取れないでしょ?早く倒してボス戦に戻ろう!!」
メガネが焦っている。真面目か!!
「ゴァゴァギィンガァー」
タマが奇声を出す。ゴブリンたちがザワザワしている。
「タマ君?」
「『この人達は悪い人ではない』って言ってみた。」
「しゃべれるんかい!!」
珍しいメガネのツッコミ2である。
「ギギガハァゴゥグァ(何をバカな事を…)」
「ガァーゴアグェ(嘘ではない。一緒に戦ってくれ)」
「グゥガカガァ…ゴァグェガギャー(そんなこと出来るか…いや、もしかしてあなたは!!)」
片仮名めんどくさ……いや、読みやすくするためにこれからは同時通訳でお届けします。
『その濃い緑色…我々よりも大きな身体…そして、その香りの良い棍棒は…もしやゴブリンロード様ではありませんか?』
何か勝手に勘違いしてくれている様だ。ここはのって一緒に戦ってもらおうぜタマ。
『違います。』
タマのアホー!!
『いや、隠しても分かります!!皆のもの!!ゴブリンロード様と共に戦え!!』
ゴブリンたちは雄叫びを上げると一斉に特盛スライムに襲いかかった。
因みにゴブリンロードはゴブリンにとっては憧れの存在である。人間に例えるとビートルズとかマイケル・ジャクソンとかマ○コ・デ○ック○とか火野○平なんかが適当であろう。
『違うって言ってるのに…。』
今は取り合えずどういう状況なのか皆に知らせた方が良いんじゃない?ほら、フェミちゃんが突然戦い出したゴブリンたちにパニックを起こしてるぞ。
『フェミちゃん!!コイツら手伝ってくれるって!!』
ゴブリン語はフェミちゃんには通じません。
「フェミちゃん!!コイツら手伝ってくれるって!!」
言い直しました。
「えっ?ほんと?何で?」
フェミちゃんだけでなく一同…丹澤慶子までもが状況を把握出来ずに混乱している。
そして混乱しているのは特盛スライムも同じであった。混乱は思考の停止を誘い、思考の停止は行動の停止を誘う。行動を再開する頃には特盛スライムの体力は風前の灯火だった。
誰がとどめをしたのか分からないほど攻撃回数が多かったが、ついに特盛スライムは動きを止め、そして消えていった。
『ありがとう。君たちの事は忘れない。』
ボス撃破したので第5ダンジョン部は輝き出しダンジョン入り口に飛ばされる準備ができたようだ。タマはゴブリン語でゴブリン達に語りかける。あるゴブリンはにこやかに笑い、またあるゴブリンは憧れのゴブリンロードに声をかけられた事に感激して涙した。
ありがとうゴブリン達。
助かったよゴブリン達。
まぁ、次会う時は敵だろうけどね…。
ちょっとセンチメンタルな感情が入ったが、一番気の毒だったのは特盛スライムだったね。かわいそうに…。
次回。ハンクスが…あのハンクスが!!………つづく!!
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