第16話 レベル上げに勤しむのです。

「今日のテーマは攻略ではなくレベル上げよ。」

 丹澤慶子はダンジョンを進みながらみんなに告げる。

「え~…。攻略しないんですか?」

 緑色のタマが不満気に答える。気持ち悪。

「気持ちは分かるけどね。ボスを倒さずに入り口に戻って外に出て傷を治し、またダンジョンに入ってを繰り返すの…疲れるけどランクアップの為にもレベル上げは必須よ。

 さて、ここで問題。そんな中、なぜこのダンジョンを選んだのでしょうか?」

「はい!!」

 元気に益々鎧の塊のようになったフェミちゃんが手を上げる。

「はいフェミちゃん。」

「高い経験値が貰える『ゴールドモフモフ』が出やすいからです。」

「正解!!ゴールドモフモフは逃げ足が速いから逃げそうになったら私が仕留めるわ。それまでと、それ以外の敵は手を出さないからそのつもりでいてね。」


「何か扉がたくさんありますね。」

 珍しくメガネが口火をきる。確かにビジネスホテルを思わせる構造だ。

「このダンジョンは広い地下一階構造よ。通路で敵に遭遇する事もあるけど、扉の中にいる場合が多いわね。」

「…ってことは、扉さえ開けなければ、ほとんど敵と会うことはないってことっすかね?」

「まぁ、そうなるわね。一番奥の扉にボスがいるけど、そこに真っ直ぐ向かう事も出来るわ。」

「何か楽勝なダンジョンですね。」

「このダンジョンはボーナス的な要素が強いわね。ゴールドモフモフもそうだけど、お金が多めに貰える『ゴールドチクチク』もいるからね。でも、初級とはいえ、前回のダンジョンより敵は強いから気を付けてね。」


 1つ目の扉を開けると金色に輝くフサフサの毛で覆われた愛くるしい姿のモンスターが3匹いる。

「え?いきなり?珍しいわね。」

 丹澤慶子が驚きの声をあげる。

「あれがゴールドモフモフですか?…可愛い…。」

 ハンクスが気持ち悪いことを言う。可愛いものを可愛いと言って可愛いのは女の子だけだ。早口言葉みたいになってしまった。

「さぁ、狩るわよ。」

 丹澤慶子が構える。緑色のタマが止めに入る。

「ちょっと待って下さい!!あんなに可愛いのに?どう見てもチワワとかアメショとかの部類の生き物でしょ?それを狩るだなんて…。先生の鬼!!悪魔!!独身!!」

 お前もかタマ。可愛いものを可愛いと言って可愛いのは可愛い女の子と可愛い子供の可愛い声で言うから可愛いのではないだろうか。さぁ、読み手の皆さん、声に出して言ってみよう。どうぞ!………言わへんのかい!!

「独身は悪いことではないわ。悪いことではないのよ。悪いワケあるか!!」

 タマは心の底から「ごめんなさい」と思った。そうタマが心に思うやいなやフェミちゃんがゴールドモフモフに躍りかかった。瞬く間に一匹倒す。

「あぁぁぁ…。フェミちゃんなんてことを!!」

 タマが青ざめる。緑色なのに。

「可愛いくても可愛くなくても敵は敵!!」

「普通こういう場合、女の子が躊躇うもんじゃないの?」

「美醜で価値を決める方が傲慢でゲスだわ。逃げちゃうから早く!!」

 女子高生でその価値観…大人だねフェミちゃん。

「でも…。」

 タマが続けようとした時、後方より黒い影が走る。そしてフェミちゃんに襲いかかる一匹と逃げようとする一匹をたちまち殲滅してしまった。もちろん丹澤慶子である。

「タマ君、ハンクス君。モフモフは可愛さも武器なのよ。これから見た目を武器にする敵もたくさん出てくるから慣れておきなさい。それと、メガネ君。気配が感じられなかったわ。」

 酷い事を言う。


 その後、悔い改めたタマとハンクスは躊躇なく戦い、メガネは気配を出すために必要以上にしゃべった。…が、面白い話は1つもなかった。

 そして、開ける扉開ける扉ほぼゴールドモフモフかゴールドチクチクがいるという奇跡にも恵まれ(「うっかりさん」の効果が考えられる)第5ダンジョン部の面々のレベルは一気に19まで上がりランクアップまで後少しとなった。因みにゴールドチクチクはどんなモンスターかといえば…チクチクしているのである。以上。


「さぁ、そろそろ戻るわよ。回復してもう一回くらい来れるわね。」

 丹澤慶子が促す。皆に疲労の色がうかがえるが今日中にはランクアップ出来そうだ。

「せっかくだから、ここだけ行っちゃいましょうよ。」

 タマが次の扉に手をかける。

「タマ君ダメ!!」

 フェミちゃんが叫ぶ。

「へ?」

 時既に遅し。タマは開けてしまっていた。

 轟音と共に扉から青色の液体が溢れ出した。押し流されたタマがやっとのこと立ち上がった。

「いてて…何が起こったんだ?」

 目の前には山盛りスライムを遥かに凌ぐ巨大なスライムがそびえ立っていた。

「やってくれたわねタマ君…。そこはボスの扉だったのよ…。」

 丹澤慶子が頭を抱える。

「こうなったら仕方ないわ。援護だけするから戦ってみなさい。」

「せ…先生。このボスの名前ってなんですか?」

 しゃべる事を半強要されているメガネが聞く。やっぱり面白い事は言えないんだな。


「『特盛スライム』よ。」


 やってしまったなタマ。次回、2回目のボス戦!!特盛スライムとはどんなボスなのか!?ネーミングセンスは大丈夫なのか!?そもそもボスはスライムしかいないのか!?

 もろもろの懸案事項はあまり気にせず……つづく!!


 

 

 

 

 


 

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