第5話 アダ名をつけるのです。

 金曜日の放課後、第5ダンジョン部の4人は部室にいた。先日の視聴覚室で明日の土曜日に丹澤慶子オススメの高校近くにあるダンジョンに行く事が決まった。その前日だというのに緊張感はない。

「ここで一つ提案があるんだけど…。」

 タマが口を開いた。桐子が答える。

「なぁにタマ君。」

「それだよ。俺とハンクスだけ当たり前の様にアダ名で呼ばれてるじゃんか?郷田さんと石田君もアダ名で呼びたい。いや、呼ばせてくれ。むしろ呼ばせろ!!」

 実に暑苦しい。

「タマちゃん落ち着いてよ。でもせっかく同じ部になったんだからアダ名で呼び合いたいのは僕も一緒かな。」

 いい子ぶるハンクス。腹立つ。

「郷田さん、石田君。覚悟を決めたまえ。ちなみに今まで何てアダ名で呼ばれてた?」 

「私は…桐子ちゃんとかしかないかな。」

「僕は…良君とか……メガネ…とか…。」

「はい、メガネで決定~。」

「決定だね。」

「よろしくメガネ君。」

「マジっすか…。」

 石田ことメガネは思った。言わなきゃ良かったと…。

「さて…問題は郷田さんだ。郷田桐子…郷田…ごうだ…ごうだ?ジャイア……。」

「それだけはやめて!!」

 桐子が全力で阻止する。今の反応からすると過去にそのアダ名をつけられた事があるのだろう。日本を代表するいじめっ子の名を女の子につける事がどれ程残酷なことか…。

「ごめんごめん。誰か有名人に似てるとか言われた事とかは?」

「それって、自己申告すると『いや、似てないから』とか『自分でも似てる自覚あるんでしょ?』とか思われるパターンのヤツよね?だから言わないよ。」

「手強いな…。ハンクス、メガネ、郷田さんのイメージから何か案を出せ。」

 無茶ぶりも甚だしい。下手な案を出せば桐子からずっと軽蔑されるであろう。そこで2人がとった行動とは…

「………。」

「………。」

 だんまりであった。

「もういいじゃない。桐子でいいよ。」

「そうはいかない。桐子ちゃんと呼んでみたいが、意地を張ってしまった以上もう後戻りは出来ないのだよ。」

 めんどくさい男だ。タマはスマホを取り出しいじり始める。

「桐子ちゃんの桐(とう)は桐(きり)っていう字だよね~。桐はと…。へ~、桐って聖なる木なんだってさ。鳳凰がとまる木という伝説もある。タンスとかの材料になったり、燃えにくいから昔は金庫にも使われたらしい。」

「桐子っていい名前でしょ?だから桐子で…。」

「フェニックス…。」

「?」

「鳳凰からとってフェニックスと名付けよう。」

 部室は静寂に包まれた。タマだけは満足気だ。

「タマちゃん、女の子に不死身かつ強そうなイメージはいかがなものかと思うよ。」

「じゃあ可愛らしくフェニちゃんは?」

「タマ君は少し黙ってようか。フェニちゃんって言いヅライし。」

「………フェミちゃん…。」

 ずっと黙っていたメガネが呟く。

「メガネ…今何て?」

「いや…フェニックスからのフェニから『女性らしい』の意味のフェミニンを連想してフェミちゃんと…。」

 男共が郷田さんを見る。

「…悪くないわね。それなら呼んでいいよ。」

 少し恥ずかしながら郷田さんことフェミちゃんは言った。

 

 こうしてメンバー全てのアダ名が決まった。そして、賢明な読み手の方はお気付きだろう。今回まったく話が進んでいない事を…そして「この第5話っていらないんじゃない?」と思っているに違いない。


 安心してほしい。作者もそう思っている。え~と…つづく!!!!

 

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