第6話 職業が決まったのです。
JR宇都宮線西那須野駅から徒歩で30分、車で5分の場所に公園がある。公民館と図書館が併設されている市民憩いの場である。
その公園の北側に不釣り合いな地下タイプダンジョンがある。厳つい門の周りで子供たちがボールで遊び、近くのベンチでは老夫婦がにこやかに会話をしている。…平和だ。
第5ダンジョン部はダンジョンに挑むため顧問丹澤慶子に連れられこの地に赴いた…徒歩で。
「さて…、いよいよダンジョンに挑むワケだけど、まずは受付よ。門の脇にある受付所で名前と住所を書いてもらうわ。ここは市営ダンジョンだから、市民は無料よ。みんな市民よね?必要のない物は受付で預かってくれるからね。」
各々受付を済ませダンジョンの門をくぐる。緊張で体の一部が縮こまるのが分かる…フェミちゃん以外は…。
「あっ。言い忘れてたけど、もし死んだら隣の図書館でみんなが出てくるまで待っててね。」
いくら安全とはいえ、恐ろしいことをさらりと言う。それが丹澤慶子である。そりゃ彼氏が出来ないワケだ。でも、そんな慶子でも愛してくれる男性がきっといるさ。だから君はそのままで良いんだよ…なぁ慶子…。
ダンジョンの1階フロアは先日DVD で視たような石畳の部屋だった。ふと、ジョンくんを思い出した。思い出しただけだけど。
「先生!!何か体がワサワサしてきましたけど…。」
ハンクスがプチパニックだ。腹立つ。
「おっ。職業が決まるわよ。何かしらね~?」
みんなの体が柔らかな光に包まれる。
「わ!!かっこいい!!」
フェミちゃんは金属のゴツい鎧姿になっていた。小柄なせいで鎧を着ているというより、もはや鎧そのものだ。
「見習いアーマーナイトですって!!槍も長くて強そう!!」
「アーマーナイトはレア度Aよ。良かったわね。」
「僕は見習いエレメンタラーだって。エレメンタラーって何?」
ハンクスは青いローブに小振りの杖といった出で立ちだ。何か腹立つ。
「エレメンタラーは精霊使いのことよ。攻撃も回復も出来るから重宝されるわ。レア度はこれもAね。」
「先生…僕は見習い戦士でした。」
メガネは革の鎧と両刃の剣を持った姿だ。みんなは思った…「ジョンくんと一緒か…」と。
「戦士はレア度はCね…。でも戦闘特化だから頼もしいわ。バランスの良いパーティになりそうね。」
丹澤慶子も光に包まれる。
「!!先生!!何すか、その格好!?」
ハンクスが叫ぶ。
漆黒の鎧に顔を覆い尽くす兜、漆を塗ったような黒く艶のある細身の長剣。禍々しくも美しい姿だった。
「やっぱり…やっぱり先生が吉祥寺ダークナイトだったんですね!!」
フェミちゃんが興奮しながら拝みだす。
「?吉祥寺ダークナイト?」
「知らないんですか?東京吉祥寺を基点に活動して数々の伝説を残した吉祥寺ダークナイトを!!ファンです!!握手して下さい!!」
フェミちゃんの暴走にみんなちょっと引く。可愛いから許すけどね。
「昔のことよ。前も言ったけど、他言無用よ。分かったわね。」
「はい!!先生レベルは?」
「100よ。」
「お~。」
「ところで……。」
一同でタマを見るとまだモヤモヤと光っていた。
「タマちゃん…いつまで光ってんの?」
「知るか!!こっちが聞きたいわ!!」
「おかしいわね…。ちょっと長過ぎるわ。」
「あ…少し収まってきてる…。」
光が無くなるとそこには布の服に木の棒を持つ姿が現れた。
「……。」
「……。」
「……。」
「……。」
「え~と…。」
その場に静かな時間とほのかに漂う落ち着いた香り…おそらく木の棒はヒノキで出来ているらしい。
「タマ君…職業は何になってる?」
憐れむように丹澤慶子は聞いた。
「うっかりさん…。」
「え?」
「俺の職業は『うっかりさん』だって…。
」
うっかりさんとは果たして職業といえるのだろうか?いや、いえない(反語)。
「聞いた事ない職業ね…。もしかしてSレアなのかしら…。」
「レア度が高くたってどうやって戦えばいいんですか!!『うっかりさん』ですよ!?木の棒ですよ!?」
「ま…まぁ、ランクアップに期待しましょう。木の棒でも戦えるわよ。」
「そ…そうだよタマちゃん。タマちゃんなら木の棒でもじゅうぶん戦えるよ。」
ハンクスが慰める。
「そ…それにタマ君のその棒の香り…癒されるわ。」
フェミちゃんが慰める。
「で…ですね。え~と…何とかなりますよ!!」
メガネだけ慰めきれなかった。
「後で『うっかりさん』について調べてみるわ。今回はとりあえずこのまま進むわよ。」
「あ…先生。ショップには寄らなくていいんですか?」
「大丈夫。回復役のハンクス君もいるし、私もアイテム腐るほどあるから。」
「先生頼もしい!!」
笑い合いながら進むみんな…。ただ一人だけ笑っていない人物がいた。もちろんタマである。
『うっかりさん』とは如何なる職業なのだろうか?はたして役に立つのか?つづく!!
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