第1話 創れば良いのです。

 那須連山を臨む栃木県北部の街、那須塩原市。平成の大合併により、黒磯市、西那須野町、塩原町を合体!!!!して誕生した比較的新しい街である。主な名産は………名産は………各々ネットで調べてほしい。

 そんな那須塩原市の旧西那須野町にある「那須野ヶ原高校」通称「ナッパラ高」は今年創立56年を迎える中途半端な歴史を持つ男女共学の進学高だ。


 ダンジョンが発生してから20年余り、攻略はスポーツとしても浸透しておりナッパラ高にも「ダンジョン部」が4つも存在する。

 本格的に部活で鍛練の場として活動する「第1ダンジョン部」。

 他の部活と掛け持ちで身体能力の高い人材の集まる「第2ダンジョン部」。

 エネルギーの有り余るいわゆる不良たちの発散の場である「第3ダンジョン部」。

 遊び感覚でユルい「第4ダンジョン部」である。


「暇だな…。」


「暇だね…。」


 5月の暖かな陽射しの放課後、ナッパラ高校1年玉乃井樹(たまのい いつき)通称タマちゃんは友人である塩野谷喜朗(しおのや よしろう)と中庭にあるベンチに腰掛けていた。


「タマちゃん部活とか入んないの?」

 

 喜朗が読みかけの漫画雑誌を開いたままベンチに伏せて言った。


「ハンクスこそ部活入んないのかよ。」

 

 入学式の日の自己紹介で喜朗を見たクラスの8割は思った…「トム・ハンクスに似てるな」…と、その結果入学初日にして「トム」もしくは「ハンクス」と呼ばれるようになった。1ヶ月経った今では「トム」だとトム・クルーズやトム・ジョーンズ(一部の音楽好き談)と混同してしまうというあり得ない理由で「ハンクス」が定着した。


「部活ね~。中学の時、タマちゃんは何部だったの?」


「帰宅部。ハンクスは?」


「帰宅部。」


「……。」


「……。」


 小鳥がピイピイ鳴きながら飛び立つのを2人は見送る。


「暇だな…。」


「暇だね…。」


「部活見学とか行ってみるか?」


「う~ん…めんどくさいかな。」


「暇なのに?」


「暇だけど。」


 中庭から渡り廊下の抜けた先の校庭を走る集団が現れては消え現れては消えを繰り返している。


「あれは何部だろうね。」


「第1ダンジョン部だね。ジャージに書いてある。」


「ハンクス目良いな…2.0?」


「ううん。1.5。」


 一匹のモンシロチョウがフワフワと2人の前を通り過ぎて行く。


「ハンクス、ダンジョン行ったことある?」


「ない。タマちゃんは?」


「ない。」


「そう…。ダンジョンといえば、中学の時、同じクラスに内垣君っていう勉強がトコトン出来ないのがいたんだけど、ダンジョン攻略して絶対ムリだと言われてた高校に進学したんだよね~。」


「マジか。記憶力のダンジョンかな?それだと公園のヤツだろ?」


「うん。行ってみる?」


「2人だとすぐ全滅だろう。誰か誘うか?」


「僕、仲良い友達タマちゃんしかいない。」


「俺もハンクスしかいないな…。」


「部活入る?」


「…?ダンジョン部?」


「うん。」


「毎日走ったり筋トレしたりするんだろ?」


「それは嫌だね。第2はスポーツマンの集まりだし、第3はヤンキーの溜まり場だし…。」


「じゃあ、第4?」


「消去法だとそうなるね。見学だけ行ってみようか。」


「めんどくさいんじゃなかったのか?」


「暇過ぎて死ぬ。暇潰し暇潰し。」



 校庭を挟んで校舎の反対側に部活棟はある。

 2階建ての長細い建物は主に体育系の部活が使用しており1階は野球部やサッカー部、そして第1ダンジョン部といった本格的なものが連なっている。

 2階といえば部員が少なく大会に出られないハンドボール部や万年1回戦負けのラグビー部、第2第3第4ダンジョン部、そしてなぜか将棋部がある。体育系部活棟に将棋部がある事はナッパラ高七不思議の1つであるが、本当にどうでもよい。

 階段を上り奥から2番目の部屋の第4ダンジョン部の部室を目指す。因みに一番奥が将棋部だ。

 途中第3ダンジョン部の部室前を通った時、タバコの匂いがしたような気がするが、きっと…たぶん…おそらく気のせいだろう。

 部室前に着きノックをすると中から「は~い」と男の声が聞こえる。数秒待ったが開けてくれる気配がないので「失礼しま~す」と言いながら立て付けの悪い木製のドアを嫌な音を発てながら開けた。

 そこには机を3つくっつけた上に寝そべる男が1人、今しがた起きたといった様子だ。


「あ…1年生?入部希望者かな?」


 男はゆっくりと体を起こしこちらを向いた。


「俺は3年の五十嵐(いがらし)ってもんだ。一応部長やらせてもらってる。何?入部すんの?」


 五十嵐と名乗った男は頭を掻きながらダルそうに言った。


「いえ。ちょっと見学させてもらおうかと思いまして…。」


「同じく。」


「そうか。ただ、見学する所なんて何もないぞ。ご覧の通り今俺しかいないしな。」


 部室をぐるりと見回すとかなり古いダンジョン攻略雑誌が何冊か置いてある以外はダンジョン部らしい物はない。


「いえ、部の活動内容とか聞かせてもらえたら有り難いんですが…。」


 五十嵐は大きく伸びをするとよれよれの1枚の紙を2人に渡した。ほぼ空欄のマスが並んでいる。


「これが去年の第4ダンジョン部の活動内容。」


「ほとんど何もしてませんね。」


「あぁ、ほとんど何もしていない。ほら、4月と10月に近所のダンジョンの探索してるだろ?これ、5人しか参加してないから。」


「部員は何人いるんですか?」


「確か30人位はいたはずだよ。ほとんど幽霊部員。1度もダンジョン行ってないヤツの方が多いんじゃないかな~。まぁ、本当にダンジョン攻略したいんなら、よそ行った方が良いと思うぞ。」


 五十嵐の言葉に「はぁ」と答え2人は「入るかどうか考えときます」と言って部室を後にした。



「タマちゃん、どうしようか?」


 再び中庭に向かって歩いている途中ハンクスが聞いた。


「いや~。俺も本気でダンジョン攻略したいワケじゃないけど、あそこはやる気0だからな~。」


「どのくらいやる気あるの?」


「15%くらいかな。」


「低!!」


 中庭に着くと再現VTRのように同じ場所同じ間隔、同じ姿勢で座る。


「これから3年間、放課後の暇に苦しめられるのは嫌だな~。」


「そうだね。じゃあさ、第5ダンジョン部創っちゃおうか?」


 ハンクスが半笑いで言った。タマはムクリと体を起こす。


「それだ。」


「へ?」


「創っちゃおうぜ。第5ダンジョン部。」


「いやいや…。冗談だよ…冗談。」


「仮に…結果的にダメだったとしてもだ…。放課後の暇をしばらくは潰せるんじゃないのか?卒業した後『高校時代、新しい部活を創ろうとしたんだよね~。』って話題にもなるし。」


「そんな小ネタの為に!?」


「もし、創れたら大ネタになるかもしれないぞ。取り合えずやってみようぜハンクス。」

 

 こうして、素直に部活に入れば良いものを暇潰しという名の試練に立ち向かう事になるのであった。果たして2人は部活を立ち上げる事が出来るのだろうか?そもそもダンジョンに行く気はあるのだろうか?え~と……つづく…。





 

 

 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る