無事に作品投稿するトーマス

      ワシントン州 受付会場 二〇一二年六月二〇日 午後二時〇〇分

 昼食と作品が完成したことを、皆に知らせたトーマス。その後彼は、午後からアルバイトへ行くマーガレット・ジェニファーと一緒に、作品投稿するために受付会場へ向かう。受付で内容不備のチェックを受け、“特に問題ありません”とお墨付きをもらう。正式に作品が受理され、彼らはいつになく浮かれ気分。受理されたことを知らせるためか、トーマスは二人にピースサインを見せた。

 彼女たちから激励されたためか、この時ばかりはトーマスもどこか浮かれ気分。そのためいつも以上にテンションが高く、彼女たちと世間話を楽しんでいた。


 その後三人は最寄り駅の改札口へ到着し、“ここでお別れだね”と言い、トーマスは帰路に着こうとする。だがマーガレットは、ちょっと待ってと彼を引きとめる。

「確か発表の日って、だったよね? ……トムの作品完成のお祝いとして、何かプレゼントしてあげようと思うんだけど、どうかな?」

「プレゼント? 実際に入賞が決まった訳じゃないから、別にいいよ」

”大丈夫だよ“と遠慮するトーマス。だが“子供はそんなこと考えなくていいの”と、マーガレットに注意されてしまう。

 そしてさりげなく視線をジェニファーに合わせると、少し慌てた様子を見せながらも“大丈夫です”と笑みを浮かべる。

「私もマギーと同意見です。ただ私たちはケビンやフローラみたいにあまり裕福ではないから、高いものは駄目ですよ。もちろん香澄には私たちから後で伝えておくから、あなたは何も心配しなくていいの。……それでいいかな、トム?」

「……迷惑でなければ、お願いします」


 結局トムは後日香澄たちからプレゼントを買ってもらうことになったが、“何か欲しいものはある?”とマーガレットが尋ねる。だが数ヶ月ほど前に、CDをハリソン夫妻に買ってもらったばかりなので、“今のところ、欲しいものはないよ”と、少し遠慮がちに答える。

「そっか。だったら私たちの判断でプレゼント選びをする――という流れでもいいかしら?」

「うん、それはメグやジェニーたちに任せるよ。……でもあまり無理はしないでね?」

「大丈夫ですよ、トム。ありがとう、心配してくれて」

と言いながらジェニファーはトーマスの頭を撫でようとするが、少年は首をぶるっと振りながら“バカにしないで”と軽く睨み返す。そんなトーマスの反応が可愛くて仕方がないのか、どこか小悪魔のような笑みを浮かべるジェニファー。


 プレゼントに関する話について、これで一段落ということになった。“そろそろアルバイトへ行かないと”と伝えると、トーマスは改札口まで行き“行ってらっしゃい”と二人を見送った。

 

 電車の到着時刻まで五分ほどあったので、マーガレットはスマホのメール画面を開き、文章を入力する。随分とスマホを使いこなしているようで、調べ物をする時に積極的に使用している。メールの入力速度も香澄やジェニファーと比べて、二倍近くスピードが早い。“入力スピードが速いわね”と思いつつも、ジェニファーがふと画面を見ると、そこには次の文面が表示されていた。


香澄へ

 さっきトムと話をして、彼へ作品完成のお祝い品をプレゼントすることになったわ。贈る日時は後で相談するとして、私・ジェン・香澄の三人で、各自プレゼントを渡そうと思うの。……拒否権は認めないからね!

                               メグより


「これでOK。送信完了……と」

 素早くスマホに文字を入力したマーガレットは、五分とかかることなく香澄へ文章を打ち込み送信する。そしてメール送信から数分後、香澄から『了解』の文字が表示されている。すぐに返事が返ってきたことから、プレゼントを贈ることに彼女もこころよく賛同した様子。  

 それを見たマーガレットとジェニファーは満足げな笑みを浮かべ、“これで決まりだね”と喜びを分かち合いながら、電車に乗る。その姿は仲の良い姉妹のようであり、二人が出会ってから数ヶ月しか経っていないとは思えない光景のようだ。

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