未来に怯える心と体
オレゴン州 サンフィールド家の自宅 二〇一四年六月四日 午前〇時五〇分
一階の西側を探索することになったフローラとジェニファーは、一つずつ順番に部屋を調べて行く。最初に目に留まったのがダイニングルームで、彼女たちはそれぞれ部屋の中を調べる。
だが今回はあくまでもトーマスを見つけることが目的なので、事件などの証拠集めや新たな住まい探しなどではない。一部の部屋は電気が点かないため、時折懐中電灯やライトを使いながら、トーマスが隠れそうな場所を重点的に探す。テーブルの下も入念にチェックするが、そこにトーマスの姿はなかった。
「トムの姿が見えないですね。この部屋にはいないのかしら?」
「……一応子供が隠れそうな場所を調べたけど、やっぱりいなかったわ。次へ移動しましょう、ジェニー」
フローラが先頭に立ちその後にジェニファーが続く。ぱっと見は広い家であったものの、実は一階の西側はそれほど調べる場所がない。エントランスからちょうど北に位置する場所まで辿りつくが、二人はトーマスの姿を発見出来なかった。
「あら、もう着いてしまったわ。こちら側はあまり探すところがないのよ、ジェニー。……少し早いけど、主人のところへ行きましょう」
「そうですね。トムは西側ではなく、香澄とマギーがいる東側へ行ったのかな?」
などと思いつつも、二人はケビンが待つエントランスへと戻る。
二人が急いで一階エントランスへと向かう道中、ジェニファーはフローラにある心の奥に眠る言葉の答えを彼女に問いかけた。
「あの、フローラ。一つ質問してもいいですか?」
「……何かしら、ジェニー?」
沈黙が支配していた時間の中で言葉の重みを噛みしめながらも、フローラへある問いかけをするジェニファー。
「もしトムを見つけた時に……私は一体どんな声をかければいいですか?」
“ほんの少し前まで一緒に過ごしていた少年に、自分たちが避けられている”と知ったジェニファーの心境は、以前として苦しいままだった。
「……大丈夫よ、不安に思っているのはあなただけではないわ。そんなに難しく考えずに、ありのままの気持ちを伝えることが重要だと思うわ。ジェニーの言葉……でね」
「私のありのままの気持ち、私の言葉……」
ジェニファーが言葉選びに悩んでいる一方で、フローラも別の意味で苦悩していた。数年ほど同じ屋根の下で暮らしていたトーマスが、実は自分を心から信用していなかったことに強いショックを受けている。
『……やっぱりあの子には私たちではなく、ソフィーとリースがいいってことなの? 私たちの愛情よりも、あの二人の愛情には勝てないってことなの?』
自分たちなりにトーマスを愛したつもりだったが、もしかしたらどこかで道を誤ってしまったのではないか。そんな自責の念に駆られつつも、一人苦悩するフローラの姿があった……
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