【香澄・マーガレット・ジェニファー編(二)】

行方不明になった少年の捜索

        【香澄・マーガレット・ジェニファー編(二)】

   ワシントン州 ハリソン夫妻の自宅 二〇一四年六月三日 午後四時〇〇分

 トーマスの行方を探すため、彼の行きそうな場所を探すことになった香澄たちとハリソン夫妻。だが全員一緒に行動するのは効率が悪い判断した香澄は、“車が二台あるので、こちらも二手に分かれましょう!”と提案する。意見の内容は実に筋が通っており、ハリソン夫妻は香澄たちを次のようにグループ分けした。


一 マーガレット・ジェニファーはケビンのグループに入る。トーマスの通学路途中にある公園・子供が立ち寄りそうな場所などが、彼らの捜索範囲となる。

二 香澄はフローラのグループに入る。トーマスの両親が眠るレイクビュー墓地やその周辺が、彼女たちの捜索範囲となる。

 それに加えて、“トムはあまりお金を持っていないだろうから、必然と行動範囲は限定されます”と香澄は補足説明した――このような緊迫した状況下において、香澄の冷静な判断力や思考力は本当に頼りになる。


 五人の行動方針および捜索範囲が決まったところで、二手に分かれて一同はトーマスの捜索を始める。自宅から車を走らせたケビンは、マーガレット・ジェニファーを連れて周辺の公園を散策する。

 トーマスの通学路を中心に、自宅周辺の公園も一通り探してみる。夜間に比べれば探しやすいだろうと思っていたようだが、思惑とは異なりトーマスの姿は一向に見つからない。

「う~ん……トムはおろか、一人で歩いている男の子すら僕には見えないな。二人は何か見つけたかい?」

「全然だめ。何も見えないよ、ケビン――ジェンは何か見えた?」

「私もダメですね。……でも諦めずに、もう少し探してみましょう」

一向に見つかる気配がしないものの、ケビンたちは彼が立ち寄りそうな公園や通学路などの場所を探してみる。

 だが結局見つからなかったので、フローラたちへ連絡をした後一度自宅へと戻ることになった……


 ケビンたちがトーマスを探している同時刻、フローラと香澄はレイクビュー墓地へ向かっていた。車で移動すればそれほど時間がかからない場所で、比較的すぐに到着する。

 特別な事情がない限りは、みんなで一緒にレイクビュー墓地へ訪れることはない。静かに眠っている彼らのお墓に花を添えるため、レイクビュー墓地近くの花屋へ立ち寄り花を購入する。

 周辺を注意深く観察しながら墓地へと入る二人は、あっという間に彼の両親が眠るお墓の前へと辿りつく。

「ここにもあの子がいない。メグたちからの連絡もないし……あの子は一体どこへ行ったのかしら? フローラ」

「えぇ。……とりあえずあの子の両親へお花を添えるわ。ちょっと待ってね」


 トーマスの捜索を一時中断して、心の中でリースとソフィーに対し黙とうをささげ献花するフローラ。同時に彼らの愛息子のトーマスがいなくなってしまったことに、胸を痛めている。

『ソフィー、リース。あなたたちの大切なご子息が行方不明になってしまって、返す言葉もないわね。本当にごめんなさい……』

“トムへの接し方が間違っていたの?”と自問自答しつつも、静かに眠る二人へフローラはどうすれば良いのか尋ねてみる。

『……もし心当たりがあるなら、トムの居場所を教えてくれない? どんな小さな手がかりでもきっかけでもいい。お願いよ……』


 心の中で彼らと会話しているフローラがそっと目を開けると、彼らのお墓の横で何かキラリと光る物が見えたような気がした。

『何かしら、今何か光る物が見えた気が……』

ふと疑問に思ったフローラが彼らのお墓の横側へ回ると、そこには動物をモチーフにしたキーホルダーがあった。

 それはトーマスが常日頃から大切にしている、ラッコのキーホルダー。まるで“僕はここにいるよ。お願い、見つけて”と、悲しき声が聞こえてくるよう。

 思わぬ発見が得られたと気持ちが舞い上がると同時に、急いでラッコのキーホルダーを自分のバッグに入れるフローラ。

『こ、これは……!? ということはやっぱり、あの子はさっきまでここにいたの?』


 単なる偶然だろうか? それともフローラの悲痛な願いに、リースとソフィーが答えたのか? 真相は謎となっているが、何故か置いてあったラッコのキーホルダーを手に取る。そしてこれがトーマスの物であると、フローラは確信する。

「香澄、これを見て!? これはおそらく、あの子が肌身離さず身に着けていた、ラッコのキーホルダーに間違いないわ!」

「ちょっと見せてください。……確かにラッコのキーホルダーだわ。フローラ、このキーホルダーはどこで売っているかご存知ですか?」

「前にソフィーから“シアトル水族館へトムを連れて行く”って聞いたことがあるから、多分そこだと思うわ――場所もここから近いから、行ってみましょう!」

リースとソフィーが眠るレイクビュー墓地を後にした二人は、とっさにフローラが運転する車へと走り出す。


 なお彼らが眠るお墓には、フローラと香澄が到着する前に花を添えていた。まだ花が枯れていなかったことから、自分たちが来る少し前に誰かが花を添えたのだろう。しかしタイミングからして、花を添えたのはトーマスに他ならない。そう確信した香澄とフローラは、ここにきて重要な手がかりを入手する。


 レイクビュー墓地にはトーマスがいた手がかりが残っており、キーホルダーを販売しているシアトル水族館へと急ぐ。受付でトーマスの顔写真を見せて確認するものの、“その少年は本日入園していません”とスタッフに冷たく返される。だがスタッフの見逃しという可能性も考慮して、香澄とフローラは中に入り、一通り探索してみる。しかし結果は同じだった。

「残念でしたね。フローラ、もう少し周辺を探してみますか?」

「いえ……という重要な手がかりを見つけたから、一旦お家に戻りましょう。そこで主人たちに報告して、あの子の足取りについてもう一度考えましょう」


 なお自宅に戻るまでの間も、無駄だと分かってはいたもののトーマスの携帯電話に何度も電話する。そして留守番電話サービスにつながるたび、彼らはそれぞれの想いを残していく。

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