【香澄・マーガレット・ジェニファー編】

トーマスの異変に気付く香澄たち!?

               一一章


        【香澄・マーガレット・ジェニファー編】

    ワシントン州 ワシントン大学 二〇一四年六月一日 午後一時〇〇分

 二〇一四年度のワシントン大学の卒業式日程が大学教員および生徒に向けてHPで発表されてから、香澄たちは気分が高揚している。日程も二〇一四年六月一四日の午後一時三〇分と告知されているが、香澄にはワシントン大学の生徒として最後の仕事が残っている。そう……香澄自身の考察も含めた、トーマスのカルテを完成させることだ。 

 最後の仕上げをするために、香澄はマーガレットとジェニファーへワシントン大学に向かうことを伝えた。ちょうど数日前にこのことを伝えていたので、急遽マーガレットとジェニファーも付いてきてくれることになった。だが実際にカルテを作成するのは香澄が中心となり、マーガレットとジェニファーは彼女の横で読書をしている。

「ごめんなさい、メグ、ジェニー。本来なら卒業公演の練習やお仕事があるのに、休んでもらって……」

「何言っているの!? 今日は私たちにとっても大事なファイルを作成する日なんだから」

「カルテを作成するのは香澄にお任せします。私とマギーは文章作成とか苦手なので。……でも安心して。あなたの邪魔をしないようにすぐ近くにいるから……困ったことがあったら、いつでも声をかけてね」

「ありがとう、二人とも。その言葉、とても心強いわ」

 香澄が作成するカルテは通常の提出課題とは異なり、関係ない生徒および教員には絶対に触れてはいけない内容。そこで再度彼女たちはケビンにお願いをして、彼の教員室の鍵を借りようと声をかける。だがその日はタイミングが悪く、ちょうどケビンも書類整理で自分の部屋を使う予定。

 だがそんな香澄たちの事情を知ったフローラが、“夕方までなら図書館で調べ物をするから、それまでなら私の部屋を使ってもいいわ”と言ってくれた。それを聞いた香澄たちはケビンの部屋ではなく、フローラの部屋でカルテの作成を行うことになる。

 

 二人の親友に見守られながらも、香澄は自分が愛用しているノートパソコンの電源をONに入れる。パソコンが立ち上がるまでの間に、頭の中で香澄は次に打ち込むべき文章を考える。そしてデスクトップ画面にアイコンが見えると、右手でマウスを動かしながら香澄はパスワードを入力しフォルダを開く。

『この間の続きは確か……あぁ、ここまでだったわね!』

横にいるマーガレットのジェニファーの邪魔をしないように、香澄は静かにノートパソコンのキーを打っていく。


     ワシントン州 香澄の部屋 二〇一四年六月一日 午後一〇時三〇分

 ワシントン大学でカルテを作成した香澄だったが、彼女の心はどこか晴れない。完成したと思われたファイルだが、“まだ何か付け加えることが出来るのでは?”と軽い違和感を覚える香澄。そこで香澄はまだ作成途中のファイルを仕上げるため、細く白い指先をキーボードに置く。


『ふ~、少し疲れたわ――もう夜の一〇時三〇分ね、少し気分転換をしないと』

 非常に重いテーマを考え続けた香澄の心は、これまでにないほど疲労してしまう。軽く深呼吸をすると同時に、自分がまだ体を洗っていないことに気がついた。

「やだ、私ったらまだ体を洗っていないじゃない!? 体を綺麗にしないまま寝るなんて、私には我慢出来ないわ」

 とっさに香澄は洋服ダンスの中から、着替え用のパジャマと白の下着上下の一セットを取り出す。そしてお風呂場へと向かい、誰も入っていないか様子を確認する。するとまだ電気は点いていなかったことから、“この時間帯なら大丈夫ね”と一安心する香澄。

「今は誰も入っていないわ。誰かに入られる前に……」

しっかりと洗面所のドアを閉めた後で、香澄はこれまで来ていた衣類と下着を脱いで、洗濯かごへ入れる。

 

 体と髪を綺麗にした後で、香澄はバスタブに体をそっと沈める。ちょうど月明かりがし込めている時間で、バスタブをレモン色の光がベールのように包み込み、香澄はその心地よさに酔いしれていた。

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