日曜日の勇者さん
麦博
日曜日の勇者さん
「起床ーーーーーッ!」
「ふわぁっ!?」
一人暮らしの俺の部屋に突如大音量で響く誰かの声。思いっきりドスの効いた女の声だ。
「なん、何だアンタ!?勝手に人ん家に入ってきやがって!」
「黙れこの野郎!私は妖精、貴様を勇者として迎えにきた!早速だが、魔王『サイコパス』を倒しに行ってもらう。」
妖精と名乗る女は軍服にグラサン、ベレー帽を身につけ、肩には銃らしき物を担いでいる。
どんな妖精だ。傭兵の間違いだろう。
「それじゃ、さっそく異世界『サイコパスワールド』に向かうぞ!準備はいいか!」
「ワールド名もサイコパスなの!?ややこしい──」
────────────────────
突然、何も見えなくなったかと思うと、そこはもうすでに俺の部屋ではなかった。
やけに暗雲立ち込める空に、目の前にそびえ立つ巨大な城。
勇者「…なにここ。」
妖精「サイコパスの城だ。」
勇者「もう来ちゃったの!?馬鹿じゃない!?」
妖精「黙れ!お前になど最初からあてにしとらん。ここにある村で仲間を集めて、力を合わせてサイコパスを倒すのだ。」
勇者「それ、俺必要ある…?」
素朴な疑問を持ちながら、近くの村へと向かう。……というか魔王の城の近くに村があるのが不思議なんだが。
勇者「どこで仲間を集める?」
妖精「定番に『ダールイの酒場』へ向かおう。多分誰か仲間になってくれる。」
勇者「定番なんだ……。」
『ダールイの酒場』
剣士(28)「俺を雇いな!力になるぜ。」
盗賊(32)「私を雇いな!魔王なんざ楽勝だよ!」
妖精「どうだ?言った通りだろう。」
誇らしげに胸を反らす妖精。確かに仲間は集まりそうだが、それ以上に気になる事が。
勇者「名前の後にある数字って何?というか何で話す時に名前が表示されてるのこれ。」
妖精「RPGなら当然だろう。誰が喋ってるか分からなくなるだろ。あと、数字はそいつのレベルだ。高い奴を選んどけ。」
中々メタいことを言ってくる妖精だが、彼女のアドバイス通りレベルの高い人を選んで、村を出ることにする。
「勇者さま、どうかお気をつけて行ってらっしゃいませ…。」
老人の声が聞こえる。恐らくこの村の村長だろう。よし、行く前に挨拶をしておくとしよう。
勇者「はい、行って参ります。」
村長(999)「はい、吉報期待しております。」
勇者「……。」
魔王城へと俺たちは歩みを進める。きっと辛い戦いになるだろう。
しかし──、俺は負けない。生きて、あの日常へ戻るんだ!
────────────────────
魔王城の門前にやってきた。門番らしき怪物が俺たちの前に立ちはだかる。
魔王(600)「フハハハハ!よく来たな!我が魔王『サイコパス』!」
勇者「魔王出てきちゃった!どうしよう、妖精!思ったよりも早く出てきたよ!」
妖精「くっ、予想外だ!集めた仲間たちも村に出るときから着いてこなかったし。」
勇者「それ詐欺じゃないか!くそっ、やっぱり村長連れてくれば……ん?」
チラとサイコパスを一瞥する。さっきと変わらずニタニタと小馬鹿にするような表情だが、どこか違う気がする。
魔王(574)「フハハハハ!怖気付いたか小童め!我に降伏し
勇者「ねぇ、妖精。あれレベル下がってない?」
ヒソヒソと妖精に耳打ちする。
妖精「あぁ、あれは魔王の余命だ。あと10分もすればサイコパスは果てる。儚い命だ。」
勇者「妖精……」
サングラスを外し、妖精は流す涙を拭いている。
充血しながらも、その双眸は俺たちの前に気高く立ちはだかる魔王を真っすぐと見据えていた。
勇者「……俺必要ある?」
俺たちはサイコパスの自分語りを温かく聞き届け、そして──
─────魔王は亡くなった
勇者「…これでいいかな?」
彼の身体を土に埋め終え、妖精に話しかける。
妖精「ああ、きっとこれで奴も浮かばれるだろう。」
勇者「そうだね…。」
刹那──、俺の身体が光り輝く。
妖精が微かに微笑む。それだけで、俺は悟った。
──やっと日常に戻れる──
「……夜か。」
長い夢を見ていた気がする。ものすごく長ったらしい夢を。
「……飯食いに行こう。」
男の貴重な日曜日は一日勇者として終わりを告げた。
日曜日の勇者さん 麦博 @mu10hiro
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