最終幕 覇王高志の力

「終わりだ・・・世界の終わりだ・・・」


城下町の人々は火山の噴火を眺めながら絶望に沈んでいた。

このまま溶岩が城下町まで流れ着けばこの町の人々は確実に滅びる。

かと言って逃げるにしても全方位に流れている溶岩の勢いを見るにそれも無駄だと誰もが諦めていた。

しかし、そんな絶望の中一人の人影が火山に向けて物凄い勢いで空を飛んでいったのを数名が目撃するのであった・・・


「マジかこれ・・・すっげぇ熱いな・・・」


熱は上に上がるのは常識だがそれでも直接触れるよりはマシ、そう空を飛びながら考えるのは覇王である高志であった。

その力を使い自らを浮かせているその姿はまさに世界の覇王と呼ばれるに相応しい姿であった。


「さて、元の世界に戻れないとしても人類が絶滅するのは避けたいんでね」


そう独り言を言って力を使う!

すると驚いた事に流れていた溶岩がまるで逆流するかのように戻っていき火山の火口へ向けて逆流し始めた。

更にその溶岩は火山の真上に柱の様に形作られその中に溢れる溶岩が閉じ込められるように形作られていった・・・

まるで天界へと通じる塔の様にそれは形作られ人類の危機は去ったと思われたときであった。


「世界の浄化に異を唱える異端者よ、汝には滅びを与えん」


何処からとも無く響くその声に高志は顔を上げた。

その瞬間天から雷が迸り高志が居た近くを通過し地面に落下する。

幸運だったのは高志が武器など金属を一切所持していなかったことであろう、避雷針になる物がもし在ればステータスの低い高志は一溜りも無かった筈である。


「ほぅ、今のを回避するとは・・・異端者よ我に購うのであれば直々に手を下してやろうではないか」


そして、それは姿を現した。

まるで女性の様な姿のそいつは雲の中から現れたのだ。

全身緑色の肌に頭から生えるのは紫の蛇の髪。

額に紅く輝く宝石を埋め込んだそいつは雲を肌に纏い天よりその姿を現した。

魔よりも濃い者、天よりも明るき者、人はそれを天皇姫と呼んだ。


「お前がこの世界のTOPだな?」

「ふふふ・・・我を前に言葉を発する事が出来るのはその力のせいか?面白い、実に面白い異端者だ」

「お前に聞きたい、俺は元の世界に帰る方法を探している。それはあるのか?」

「ふふふ・・・知りたければ力づくで聞き出してみてはどうだ?」

「残念ながらそれをしたらお前は話す前に一瞬で死ぬからな」

「ぬかせ!消えろ異端者!」


そう言って天皇姫が腕を高志の方へ向けた。

巨大なその腕が動くだけで世界に暴風が吹き荒れ地上は壊滅的被害を蒙る。

ここが溶岩で汚染された土地で人が住んでいないのが幸いであった。

だが・・・


「ひ・・・ひぎゃあああああああ!!!!」


天より響くその叫びは世界を揺るがした。

高志に向けたその腕が一瞬で捻られ細切れになるまで潰れてしまったのだ。

本来なら血が噴出す筈なのにその血すらも細切れに押しつぶされたその事実に天皇姫は驚愕した。

天皇姫もまた高志の力を想像出来ていなかったのだ。


「もう一度聞く、俺が元の世界に帰る事は可能か?」

「ぐ・・・ぐぐぐ・・・我にこんな傷を負わせるとは・・・ひっ?!ひぎゃああああ!!!!」


今度は右足であった。

上下からプレスされたように足の付け根に向けて一瞬で潰れた足がそこに在った。

その激痛に再び世界に悲鳴が響く。

だが高志は表情を変えず繰り返す。


「もう一度聞く、俺が元の世界に帰る事は可能か?」

「ま・・・待て・・・答える・・・答えるとも・・・お前が元の世界に帰る事は・・・」


そこまで言った次の瞬間高志向けて物凄い数の氷の矢が空の雲の中から飛んできた。

まさに天を埋め尽くすと言わんばかりのそれは隙間の無い弾幕、どう回避しようが高志は一撃でも掠れば死ぬ。

ステータスがそれを示していたのを理解している天皇姫は口元を歪めるがその顔はすぐに絶望に染まるのであった。


「ひ・・・ひぃいいいいいいいい!!!!!!」


なんと空を飛んでいる高志に向かって飛んでいた氷の矢は全て向きを変えて天皇姫に向かって飛んできたのだ。

しかも天皇姫が力を使って操作している筈の矢は一切減速する事無く全てがその体に突き刺さる!


「あがあああああああああ!!!!!!」


自らの力で操作しているのだから止められると勘違いしていた為にそれは眼球にも突き刺さり絶叫と共に全身を穴だらけにされた天皇姫は既に虫の息であった。

そして、高志は最後の質問を繰り返す。


「もう一度聞く、俺が元の世界に帰る事は可能か?」

「・・・・・・・ふ・・・不可能だ・・・」


そう、この世界に干渉する事が出来る力を持つ天皇姫ですら異世界へ高志を届ける方法に心当たりが無かった。

かと言って嘘をつけば間違い無く自分は殺される。

ステータスは明らかに普通の人間よりも劣る目の前の存在に天皇姫は恐怖しかなかった。

既に視力を失っていたのもあるだろうが高志の存在がとてつもなく巨大に見えていたのだ。


「そうか・・・ならお前にももう用は無いな」

「ま・・・待て!このべばっ?!」


叫ぼうとしたその瞬間天皇姫はその全身を押し潰され小指サイズの肉片の塊にまで圧縮されて消滅するのであった。

そして地上に向けてゆっくりと降りる高志。

溶岩のせいで雲に覆われていた空は天皇姫のせいですっかり晴れ渡っていた。

その空を見上げて高志は呟く。


「まだ何処かに可能性は残っている筈だ・・・」


そして、高志は城下町へ向けて歩き出す。

力の反動なのか鼻から血が少し流れていたが本人は気にも留めないまま歩き続ける。

人知れず世界を救い世界を誰にも知られずに支配している覇王の姿をその後見た者は居ない・・・















「何者だ?」

「俺か?高橋 高志って言う普通の人間だ。お前が異界大魔王ゴルベッシュだな?」

「冥界のここまでただの人間が来れる訳が無いだろう、私の部下をどうした?」

「邪魔をするので全員消した」


人間界と魔界、そして更にその奥へ進んだ冥界の異世界最強の裏ボス的存在である者の前に高志は居た。

そして、同じ質問を高志は繰り返す。


「俺が元の世界に帰る方法を知っているか?」

「き・・・貴様・・・重力使いか?!」

「質問に答えろ・・・」

「ぐ・・・ぐぁあああ」


高志の前に現れた。

それ即ち既に敗北しているという事に気付いていなかった異界大魔王ゴルベッシュは既に詰んでいた。

そして、高志は溜め息を一つし初めてそれを口にした。


「もういい、お前も俺の役に立たないなら・・・消えろ」

「な・・・め・・・るなぁああああ!!!たかか重力ごときにぃいいい!!!」

「あっ俺の力、重力操作じゃないから」

「なっ?!ぶげぇぇえええ!!!!」


その瞬間異界大魔王ゴルベッシュは上下に押し潰されて消える。


「俺の力は引力と斥力を視界に捉えられる物全てに自由に操れる力なのさ」


そして、高志は再び世界を彷徨う・・・

視界に捉える事さえ出来ればどんな物体であろうとどんな生物であろうと彼の力の前では全て等しく同じであった。

その気になればこの星そのものも破壊する事が出来る彼の名は覇王高志。

一つの異世界をたった一人で手も触れず支配しつくした男であった。



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異世界への復讐 世界は俺が支配する 昆布 海胆 @onimix

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