後編 下 続 魔王と覇王

樹海の奥深くに存在する地下への道。

そこは魔界へと通じる道・・・

そこを一人の白髪の男性が歩いている。

覇王と呼ばれた高志である。


「ゲギャー!!!!」


高志の気配を感じ取り餌がやってきたと襲い掛かる魔物は次々と地面に血溜まりを残して消失する。

彼の通った後にはそれのみが残るのである・・・

魔界の更に奥へ進むとおどろおどろしいその建物が目に入る。

それを見詰めて高志は声を上げる。


「居るんだろ魔王?出て来いよ」


千里を見渡すことのできる魔王は高志の存在に気付き自ら建物を出てくる。

服を着ていないその真っ黒な体は高志の倍はあり高志は見上げるように魔王を見る。


「人間、中々面白い力を持っているようだな」

「へぇ・・・流石魔王って事か」


高志の力の一端を理解したのかと魔王を褒める高志だがその態度が気に入らない魔王は威圧を放つ。

それによろける高志は反撃として力を使う。

その瞬間、魔王も膝を付いて屈みこむ。


「くはは・・・やはりお前の力は重力を操る能力か」


自らの体が地面へ貼り付けられる様に重くなったのを実感し魔王は嬉しそうに声を上げる。

全力で殺す気では無かったにしても笑いながら高志の力を受けつつも立ち上がる魔王に高志は拍手を送る。

少なくとも人間なら今の力だけで血溜まりを残して重力に押し潰されて消滅していたのだ。

それに耐えるだけでなく立ち上がったその力を褒め称えたのだが魔王からしてみれば面白くない。

それはそうであろう、人間の・・・それもステータスは貧弱そのものの高志にそんな態度を取られて内心怒り狂っているのだ。

だが高志のこの能力は魔王からしても是非手に入れたいモノであった。


「どうだ人間、余と手を組まぬか?世界を魔族の手中に収めた時には世界の半分をお前にやろう」


まさにテンプレとも言えるその言葉に高志は口角を上げて答える。

内心、これを断ればボスとの最終バトルと言うのがゲームの定番とか考えているのだろう。

だが高志の答えに魔王は耳を疑った。


「何言ってるんだ?お前が俺の下に付くというのなら考えてやっても良いがそうじゃないのなら消すだけだ」

「く・・・くはは・・・くははははははははは!!!」


魔王の笑い声が響く、周囲の魔物達は魔王と高志の会話に耳を傾けていた。

その周囲の魔物達も魔王の高らかな笑いは見た事が無く驚きに驚愕して逃げ始めていた。

魔王の体内の魔力が異常なほど高まり今すぐにここが戦場になるのは目に見えていたのだ。


「良かろう、お前が我を下僕としようというのならその力を示して見せろ!」


そうして魔王は口から巨大な炎の塊を吐き出した!

それを高志は笑みを浮かべたまま親指を下に向けて手を上から下へ降ろす。

それと同時に炎の塊は地面に真っ直ぐ落下し高志と魔王の間に沈んでいく。


「とんでもない威力だな」

「よくいう、お前の重力操作能力の方が恐ろしいわ!」


そう言って巨大な手が更に巨大化して横から高志を襲う!

だが魔王は見た。

高志の表情が一切恐怖に染まる事無く笑みを浮かべていたのを・・・

そして高志に触れる直前で魔王の腕は地面に落下してめり込む!

それと同時に魔王の背中の羽が千切れて地面に落下した。


「ぐぁああ?!な、なんだと?!」

「背中がお留守だぜ魔王」


直ぐに一度距離をとろうとバックステップをして背中の羽を生やす魔王だったが既に遅かった。

地面に埋まった腕が全く動かず手首から引きちぎって下がったのにも関わらず今度は肘が地面に沈み生えたばかりの新しい羽が再び地面に落下する。

そのせいでバランスを崩してしまった魔王は地面に四つん這いになる。


「がぁああああああああああああああ・・・ぐぎいいいいいいい・・・」


魔王の呻き声は痛みを我慢しているそれではなかった。

そう、魔王は自らの頭部が地面に落ちるのに耐えていたのだ。

四つん這いで頭を地面に付ける、即ち土下座の姿勢を強制的に取らされようとしているのに抵抗していたのだ。


「頑張るじゃないか魔王、でもさ・・・無駄なんだよ」


高志の言葉と同時に魔王の体を支えていたもう一本の腕の肘が勝手に曲がり地面に付く、それと共に頭部も地面に叩きつけられ文字通り土下座の姿勢となった。

そして、叫ぶ。


「や、止めろ!」


それは高志に言った言葉ではなかった。

魔王の住む建造物から遠距離攻撃を不意打ちで仕掛けようとしている魔物たちに送ったものであった。

だが時既に遅くそれは高志目掛けて飛んでくる!

だが高志は嬉しそうに微笑み力を使う。

するとその飛んできたモノは空中で軌道を変えて土下座している魔王の背中に突き刺さる!


「ぐ、ぐぁああああああああ」


悲痛の叫びと共に魔王は自らの股越しに自らが住んでいた建物が崩壊するのを見てしまう・・・

高志が攻撃を仕掛けた魔物を建物ごと崩壊させたのだ。


「ぐぬぬぬ・・・おのれ人間・・・この恨みはいつか必ず・・・」

「あっそう、ならここでお別れだね」

「なっまっ待て!話はまだおわ・・・」


そこまで口にした魔王であったが次の瞬間にはその全身が潰れ青い血溜まりとなり消え去った。

この瞬間、魔界を統べる魔王は消滅したのであった。

その魔王の血溜まりに高志は呟く・・・


「残念だったな魔王、俺の力は重力操作じゃないんだよ」


そして、魔王の消滅と共に世界に異変が訪れる。

それは人間界の巨大な山からの噴火の兆候であった。

元々世界が滅ばぬように魔王が代々力を使って封じていたそれは魔王の死と共に開放され世界を破壊する程の噴火となる。

人間が魔族を迫害し反撃をしていた魔族を滅ぼす為に勇者召喚が繰り返し行なわれていた事実を知るものはもう国王しか居ない・・・

高志は魔界を後にして人間界に戻るのであった。

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