後編 下 覇王 高橋高志
そこは荒野であった。
高志は辺りに散らばる死体の数に思わず息を呑むがそれよりも明美の事が気になり周囲を見回した。
異空間と呼ばれるそこは次元の狭間で何処までも続く荒野の様な土地に無造作に捨てられたように落ちている死体の数々・・・
それらは全てあの世界に召喚され外れ認定を受けて飢え死にさせられたり殺されたりして次の勇者召喚の贄とされた者であった。
高志の耳に幻聴の様なモノが聞こえる・・・
『理不尽だ・・・』
『いやだ・・・死にたくない・・・』
『なんで俺がコンナ目に・・・』
『家に帰りたい・・・』
高志は気が狂いそうになりながら辺りを彷徨い明美を探す・・・
そして、遂に見つけた!
だが既に胸に刺さった矢から出てる出血が多すぎるのか顔は青白くなっていた。
慌てて駆け寄り抱き起こすと共に力を使って明美の出血を止める。
無意識に自身の腹部の傷は力によって塞がれていたのが幸いした。
明美の傷を一時的に塞いだが既に手遅れだと言う事が直ぐに分かった。
明美は高志の頬に震える冷たくなった手を沿わせ何かを伝えようとしてその力を無くした。
下に垂れた力なき腕、その手を取り名前を叫ぶが明美は反応を示す事は無かった。
その場にどれ程の時間高志は居たのだろうか・・・
辺りの死体が腐敗していない事からこの世界は時間が停止しているのか分からないが明美もここの住人と共に永遠に苦しみ続ける・・・
それが幻聴の様な声に伝えられ高志の内部に怒りが芽生え始める。
それに同調するように幻聴は大きくなり高志は咆哮を上げるのであった。
「さて、それでは次の勇者を召喚するとしようか」
老人の一人が口にして魔法陣に魔力を込める。
そこへ魔力の渦が出来て光が集まり人型が形成される。
新しい勇者の召喚であった。
だが・・・
「ん?一人だと?どちらかまだ死んでなかったのか?」
国王の言葉を聞いた召喚されたその人物はピクリと反応を示した。
白髪の男性であった。
しゃがみ込んでいてその顔は見えないが少なくとも老人ではない事は直ぐに分かった。
そして、老人の一人がいつもの言葉を召喚された者に告げる。
「お目覚め下され・・・お目覚め下され・・・ををっ勇者様の光臨だ!」
白々しい言葉を吐く老人の言葉に白髪の男性の肩が揺れる・・・
痙攣しているのかと思ったその動きに誰もが視線をやった・・・
「・・・ふ・・・く・・・」
泣いているのか?苦しいのか?
そんな風に誰もが捕らえた男性が顔を上げて天井を見上げながら変貌した!
「かはははははははははははははは!!!」
突如大笑いをする白髪の男性の異様な行動に老人達も顔を引き攣らせ一歩下がる。
国王も乱心した者が来たのかと考え兵士に合図を送り攻撃を仕掛けさせる!
この程度が対処できない者に用も無いのだ。
だが次の瞬間!
ベシャ!
「えっ・・・?」
兵士の姿が消えた。
床に残るのは血だけであった。
一体何が起こったのか分からない一同は混乱していたが白髪の男性が顔を向けて国王は悲鳴を上げた!
それは、高志であった。
顔を向けられてから体が重くなり椅子から立ち上がることすらも不可能になったのだ。
「きっきさま!一体何を・・・」
国王の悲鳴に反応した兵士が高志に武器を向けると同時に再び床に血を残してその姿が消えた。
高志が横目で一睨みしただけである。
そして、再び国王に視線を向けて高志は口にする・・・
「明美さんは死んだよ・・・お前達が殺した人達の言葉も受け取ってきた・・・お前達が居るからこの世界は駄目なんだ・・・」
そう言った高志は3人の老人を睨み付ける。
一瞬恐怖に怯えた老人たちはそのまま白目を剥いて倒れこむ。
まるで酸欠になったかのような表情の老人達を見て微笑む高志、その狂気に国王は震えが止まらない・・・
「な、何が望みだ?金か?名誉か?」
国王のその言葉に高志は生ゴミでも見詰めるような視線を向ける。
そして、口にした。
「お前達の絶望」
その言葉を発した瞬間王座に座る国王と高志を除いた全てが一瞬にして消えた。
壁や床だけでなく城自体が一瞬にして消えたのだ。
町が見やすくなった場所にぽつんと国王と高志が居るその光景に外に立っていた門番も唖然と固まる。
それはそうだろう、城内に数百人は居た筈なのに城ごと一瞬にして消えたのだ。
そして、高志は国王に近付いて告げる。
「魔族が世界を支配しようとしているって言ってたよな?なら阻止してやるよ、俺が世界を支配してな!」
高志はそう告げ町の方へ歩いて行くのであった・・・
それから数年の時が流れた。
世界は平和になったと思う。
突如現れた一人の覇王と呼ばれる人物が世界を支配した為である。
人類同士の戦争が起これば突如現れて双方を壊滅させる。
魔物が人里を攻めれば人里も魔物の集落も消滅させる。
争わなければ無害と言われるその覇王の名は・・・『高橋 高志』
後に世界を支配し世界を救った男である。
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