後編 上 元の世界へ・・・

窓から見えるその光景に誰もが息を呑んだ・・・

空一面に魔物が飛んでおり町の城壁の向こうでは進撃している魔物達の移動による土埃が舞い上がっていた。


「お・・・終わりだ・・・」


窓から外を見ていた兵士が口にした言葉。

それを切欠に逃げ出そうとする兵士も居たが既に町自体が囲まれており逃げ場などどこにも無いのである。

高志と明美も小窓から外を見て驚きの表情を浮かべていた。

そんな2人に老人が口にする。


「ど、どうですじゃ?あの魔物を撃退してもらえればもう一つの方法を使って帰す事も可能かもしれませんが・・・」


苦し紛れに言ったのかと思ったが他に思い当たる方法が無いことも明白、高志は溜め息を一つ吐きながら了承する。


「いいでしょう、ですが・・・嘘だったら・・・」


その時、国王の座っていた椅子の横に置かれていた机がグシャッと一瞬にして潰れた。

文字通り地面と一体化するように上からプレスされたと言われれば納得する形であった。

高志からの警告であり脅迫でも有った。

そして、そのまま明美の手を引きながら外へ向かう高志。

一人明美を置いておくより近くに居てもらった方が安心だからなのだろう。

明美もそれを悟ったのか何も言わずに高志に付いて行く・・・





「ケギャー!人間は皆殺しだ!」


空から襲い掛かる魔物達が次々と町の人々を殺していた。

逃げ惑う人々はどうする事も出来ず次々と死んでいく・・・

そんな中、高志が明美と街中を歩いていく・・・

そして、2人を見かけた魔物が空から襲い掛かろうとした時であった。

魔物の手が自らの首に突き刺さりそのまま空中で絶命する。

最初の1匹が自害したのを不思議に思った別の魔物も次々と同じようにして死んでいく・・・

空から降ってくる魔物の死体が家を破壊しているがそんな事は気にせずに高志は城壁の方へ向かっていく。

その高志に近付いた魔物が次々と自害する光景に誰もが目を疑った。


「人間!不思議な力を使うようだがそこまでだ!」


城壁の上に立つそいつは漆黒の翼を持つ鼻の長いカラス天狗である。

手にした巨大な三つ葉の葉を高志に向けて言葉を放つ!

そして、城壁の上から飛び降りて高志に向かうのだが・・・


「がぁっ?!ん?んんんん????!!!」


そのまま地面に落下し即死した。

それを見た他の魔物も近くの人間も明らかな異常な光景に固まった。

一見すると飛び降り自殺にも見えるそれであったが近くに居た者には分かった。

明らかにおかしな軌道で地面に落下したのだ。


「明美さん、少し目を瞑ってて下さいね」

「えっ・・・あっはいっ・・・」


もう先程から思考がオーバーヒートしている明美、街中には人の惨殺された死体が転がり現実味を帯びてない光景に考えるのを止めていたのだ。

そして、高志が城壁を潜って外に出たと同時に一斉に魔物達が襲い掛かる!

だが高志に辿り着く前に魔物は土下座をするような体勢で頭を地面に押し付けるのであった。

まるで神が光臨したかのような光景に魔物も動きを止めて固まる。

そこへ高志から言葉が放たれた。


「無駄な殺しはしたくありません、帰って貰えませんか?」


静まり返った場所に響く高志の声・・・

そして、近くに居た魔物から次々とその場を逃げ出す。

後は次々と共に逃げる魔物達を見送った高志と明美はやっと手を離して向かい合う。


「戻りましょうか?」

「えっと・・・はい・・・」


言われるがままとなっている明美であったが高志は先程の約束が違えなければ帰れると考え城へ向かって歩き出します。

それに付いて行く明美もまた街中の悲惨な状況に息を呑みつつこれが現実だと理解させられ吐き気を堪えながら城へ向かいました。






「ひ、ひぇえええええ」


城の入り口近くに来た時には高志の所業を見ていた兵士達が悲鳴を上げながら高志から逃げる。

それはそうだろう、物凄い魔物の群れに一人で向かっていき無傷で撃退した異世界人。

元々は勇者として召喚されたが国王に不良品として投合されたというのは兵士なら誰もが知っていたのだ。

そんな自分を怖がる兵士達を見て高志は今すぐに一人でも救助したら良いのにと溜め息を吐くだけであった。


「ををっお主こそ真の勇者よ!」

「今更そんな事言っても遅いのは分かってるだろ?」


王の間に戻ってきた高志と明美を待っていた王が立ち上がって白々しく述べたが白い目で見ながら言葉を返す高志。

そして、王の横に立つあの老人3人が床を指差した。


「それではおぬし達を送り返そうと思うのでそこに立ってくれ」


言われるままに高志と明美は床に書かれた魔法陣の中央に移動する。

すると魔方陣が光り輝き浮遊感が2人を覆う。

これで帰れる・・・

全身の力が抜ける感覚に身を委ねようとした時であった。

何処からとも無く飛んできた矢が2人を襲う!


「ぎゃっ?!」


高志は腹部に、明美は胸部にその矢が突き刺さり痛みに顔を歪めるがそれと同時に光は2人を包み込みその姿を消失させるのであった。


「せ、成功じゃ!」

「うむ、よくやったぞ!」


実はこの魔方陣、これこそが異世界から人間を召喚する儀式であった。

この上で異世界人を生贄にして別の世界の人間を等価交換により呼び出すというのがこの儀式の正体。

2人に刺さった矢には出血が止まらなくなる魔法が掛けられており儀式の生贄として死ぬまで居空間で囚われ、その人物の死と共に別の人間が異世界から召喚されるのである。

予想を遥かに超えた高志の力に危機を感じたこの国の面々は殺して別の勇者を呼び出す決断をしたのであった。

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