第7話 少女はW
建物の頂上から吹き飛ばされ、もう少しで、地面に激突というところで浮遊しながら着地した。
「どうやって、私の場所がわかったの?」
目の前には召喚した「ピンク・トルネード」があった。それで視界を遮り、爆発音で移動したことに気づかれないようにもした。影から見ていたのがバレたとしてもいきなり近づくことはできないはずだった。
「どうやってもなにも、バレバレの位置にいたから見つけられたんだが?」
「建物の上にいた私に近づくためにはトルネードの付近を近づかないとまず、分からないようになっている! 近づこうにもトルネードの餌食になって身動きがとれなくなるはず! なのに……どうして!?」
最初の余裕のある態度は既に吹き飛んでいた。
バルトはそんな彼女の様子を見て、魔法のあることに気づいていないことがわかった。
「……まさか、魔法の攻撃適用範囲を知らない訳ではないだろ?」
「適用範囲?」
どうやら、バルトの世界の魔法よりだったらしく向こうはその事を知らなかった。
バルト自身も過去に魔術師のグリンから聞いた程度ではあったが、魔法には様々な分類があり、スタンダードな攻撃魔法に、回復魔法。召喚魔法、特殊魔法という4つに分類されていた。さらに例として攻撃魔法なら、炎や水といった属性毎に細分化されていた。
発動するためにも条件があり、詠唱型、無詠唱型、アイテム使用による発動などの条件と効果を持続させることのできる範囲が決まっていた。魔力が多いほど、強力な魔法を広範囲で使うことができる。しかし、詠唱型だと広範囲に攻撃できるかわりに発動中は移動できないというデメリットもあった。召喚獣も召喚者の周囲にいないと魔力の供給ができず、弱体化するか、消滅するという弱点があった。
逆に魔力をあまり消費しない魔法は離れた距離からでも使うことができる。その事から、相手が竜巻の近辺にいるだろうという予測とたまたま、逃げ場がないため気合いで竜巻を越えて、ビルを飛び回って見つけただけの幸運であり、バルトのいた世界の法則で当てはまる訳ではないし、わざわざ、相手にその説明をする必要はなかった。
なので、バルトは少し笑いながらこう答えた。
「お前に教える必要はないな」
対戦相手であるマリン・ランドゥはこの発言に腹を立てたのか、少し顔をしかめた。しかし、すぐに高笑いしながら立ち上がった。
「久しぶりに本気で戦う機会が来るなんて……楽しくなってきたよ!
さぁ、幻想の第二幕といこうじゃないか!」
そう叫ぶとこちらに杖を向けた。杖の先にはハートの模様が着いていた。
バルトもまた、構え直す。
両者の間でしばらくにらみ合いが続いたが、先にバルトが動いた。すばやく間合いを詰め、拳による猛攻を仕掛ける。
しかし、攻撃の一撃一撃をダイヤのような形の盾らしきもので防がれてしまった。だが、現状はマリン・ランドゥの方が不利であった。
彼女の魔法は爆発魔法「ハート・ボム」を主体としているため至近距離まで詰められてしまうと、発動することができても自身も一緒にダメージを受けてしまう。素早い猛攻の中、気を抜けば向こうの攻撃は確実にヒットする。防いでいるものの、あとどれくらいもつかはわからなかった。
急に、バルトは攻撃の手を緩めた。体力や運動能力を自身の力を足したところで平均値ぎりぎりの肉体。素早い猛攻は昔はサポートありきではあるが、魔法使い相手には有効であったため同じ手を使ってみた。しかし、昔できたことを今はできない。早期決着を狙うつもりでもあったが、体力の関係から緩めざるを得なかった。
この好機をマリン・ランドゥは逃さなかった。すぐに距離を取り今度は相手に当たるようにハート型の魔法を飛ばす。相手は回避しようとしたのか、それとも知らなかったのか、ハート型の物体を落とそうとした。しかし、その拳が触れた瞬間爆発した。
「ハート・ボム」は、人に触れた瞬間に爆発する。このルールは自身にも適応されるという弱点はあったが……。
しかし、バルトは倒れていなかった。自身の回復を行いながら、マリンは考えていた。
どうしたものだろうか……あれを使うにはまだ時間が……そう考えてやめようとした。その時、
「起動時間、残リ30分デス」
という放送が脳内に響いた。
『ファイト・ゲーム』の試合には制限時間は基本的には無い。しかし、簡易タイプからでは制限時間があり、一時間ほどしか戦えなかったことが激しい戦闘の中で頭からすっかり抜け落ちていた。
こうなれば、最後の手を使うのに躊躇っている場合ではなかった。
「なかなか、やるわね。でも、私の本気についてこれるかしら?」
「まだ、出し惜しみがあるのか」
お互いに切り札を見せていなかった。短期決戦にする必要があるため、バルトは瞬間的な攻撃を叩き込む戦術がある……それは、マリンも知っていた。
相手の能力は身体能力の強化。それは以前の戦いを見て気付いていた。しかし、それは既に行っているのではないかという考えもあった。あの猛攻は発動していたからできた。ならばもう、使ったとしても押し勝てる。
「私の異名は知ってるよね?」
「いや、知らん」
会場からは知っていると騒ぐ声と知らないというバルトへのブーイングでざわついた。
「知らないのかー。それは少し残念だけど、なら教えてあげるわ」
そう言うとぶつぶつと何か呟いた。すると彼女を光が包んだ。
「私たちの異名は『少女W』」
「元々は魔法少女ってつもりだったからこの異名はあまり好きじゃなかったけど、この切り札を使うようになってからはお気に入りなんだ」
「マリンは私。ランドゥも私。マリンはあの子。ランドゥもあの子。二人で一つの力を使う魔法使い」
「「二人でならどんな相手も越えられる」」
そう言い終わると同時に光が離れる。そこには二人の少女が立っていた。先ほどまで戦っていたマリン・ランドゥともう一人、顔はマリンに似ているが髪は短く少し男の子のような感じがした。
「武器はどうする?」
「お好きなように」
そう二人で会話すると空中にマリンの持っている杖を投げたと同時にサーベルのような武器が現れた。
そしてふたつの武器が重なったかと思うと剣の持ち手部分が杖となった武器が二人の少女の手元にあった。
「さっきまでと違って、強さは2倍!
この、コンビネーションについてこれるかしら?」
「武器の融合で使われた武器の切れ味は無くなりますが、鈍器としては一流なので気をつけて」
「ちょっと、解説しないでよ!」
そう、やりとりしながらバルトへと攻撃を仕掛けてきた。
バルトには、2対1での戦いの経験がゼロという訳ではなかった。
……たちと旅をする前に×××地方の闘技場で戦っていた時に何度か戦ったことがあった気がした。
対処するためには、確か、同時に相手をする必要があったようなそう思い出しながら攻撃をかわしながら考えていた。
しかし、あることに気がついた。自身の記憶で重要なことが思い出せなくなっているのだ。誰を助けようとしていたのか、何故、戦っているのかが思い出せなかった。回避するのをやめてしまうほどに衝撃的なことであった。
「試合中に考え事?ずいぶんと余裕だね‼」
マリンのその叫び声によって、現実に引き戻された。しかし
「吹き荒れる風よ……手足を縛る拘束具となれ、『ストーム・ロック』!」
詠唱とともにバルトの身体は風によって身動きが取れなくなっていた。
「今だよ」
「任せなさい、極大爆発魔法!
ハート・ブラスト!」
身動きの取れないバルトに向かって巨大なハート型の爆弾が迫っていた。
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