第2話 ここは夢か、現実か?
バルトにとってもロビンにとってもこのような状況は予想外であった。
まさか、こんな訳のわからない場所になっているとは……。バルトは内心戸惑っていた。一度引き返そうにも多分魔界との境界線はここにはないだろう。そんな気がしていた。恐らくその事は、ロビンも理解はしているだろう。
だからといって自分があわあわとすることはロビンの心配を煽ることになる。自分のするべきことは現状を理解することが先決だと、気持ちを切り替えることにした。
ロビンは最初、地上の変化に驚いたが、すぐに驚きは好奇心へと変わった。もちろん、両親や友人。旅の途中出会った人たちやかつての仲間がどうなってしまったのかは気がかりだったが、それ以上にこの場所のことが気になっていた。
あの建造物はなんだろうか、どんな風になっているのだろうか。この土地の偉い人はどのような人物なのか?という長い間忘れかけていた冒険の時のワクワク感がロビンの脳内を、心を駆け巡っていた。
「流石に引きこもり過ぎたみたいだな……」
「なにかのおとぎ話みたいなことになっちゃったね」
「とりあえず、周囲を散策することにするか」
「そうだね」
二人は見たことない建物の列の近くを歩いた。道も土ではなく、また固い感じがした。旅の間にも魔界にもこんな道ではなかった。それに、何故かこの場所からは奇妙な感じがしていた。
「ねぇ、バルト。さっきから人も魔物も見てないんだけど、そっちはなにか見た?」
「……なにも見てねぇよ。だけど一応用心はしておけ、何がでてくるかわからんぞ」
バルトにそう言われたロビンはローブについているフードを被り直し、荷物入れから目元だけ穴の空いている仮面を取りだし、つけることにした。この仮面は、ロビンの故郷の村では魔除けとして使われているものであった。その効果は確かなものであり、魔物が近づいてきても仮面をつけている間は感知されなくなるというものだった。長い冒険の間にも、この仮面は幾度となくロビンの身を守ってくれていた。……魔物がロビンに気がつかなかったのは、ロビンのある力と相棒であるバルトや魔術師グリンのおかげなのだがそれはここで語ることではない。
……今のところ人はいない。馬や犬も通りかかる気配もない。バルトはこの無人であり未知の建物のあるこの場所から離れたくて仕方なかった。地面は歩く度に今までとは違う音を鳴らす。それがこの場所で反響していく。それが、ただ寂しいような、物悲しいような感覚を与えてくる。
冒険していた時も、魔物によって寂れた村はいくつも見てきていた。しかし、その時の感覚とはまた違ったもの寂しさがこの場所にはあった。
……まさか、こんな寂れた場所が天国みたいな場所ではあるまい。そう思っていると、いつの間にか前方にひとつの影が立っていた。
「どうする?近づいてみる?」
ロビンが不安そうにこちらに尋ねてきた。ロビンもまたワクワク感は霧散していき今は、ただ不安でいっぱいだった。
「近寄ってみなきゃならんだろう。念のためいつでも戦えるようにはしておくぞ」
そうバルトは返事をした。
コツリコツリと足音だけが響く。少しずつ彼らは人影の方へと近づいてみると……
バルトはその影の正体に驚愕した。先ほどから、隣にいるはずいやいる人物が目の前に立っていた。違う点としては、フードを被り、仮面をしていたかしていないかの違いだけで、ロビン=ガルシア本人(?)であった。
「……何者だ、お前」
神経を尖らせながら、バルトはロビンそっくりの人物に話しかけた。
「そう、ピリピリしないで下さいよ。ちゃんと説明しますから」
その声色は、ロビンのものよりも高かった。しかし、どことなく人の声とはまた違ったように聞こえた。感情的なものという感じではなく……。それに、全く隙のない立ち方に油断できそうになかった。
「いやぁ、この場所に転送されてくるとは運がいいのか、悪いのか。ようこそ
ロビンの姿をした人物は自身のことを『アイ』と名乗ると深々とお辞儀をした。しかし、その行動パターンをバルトはどこかで見たことがあるような、そんな気がしていた。首を傾げながらバルトは質問した。
「名前はわかったが……、一体ここはどこなんだ?なんで誰もいない?」
そんなバルトの質問に対してよく聞いてくれたという風に大きく動いたかと思ったが、
「そのような質問は実に嬉しいのですが、相手が名前を名乗ったのならそちらもまずは名前を名乗るのが礼儀というものでしょう?」
先ほどの声とは違った声色で……高かった声が地の底から響くような声となった。思わず、半歩ほど身を引いてしまっていた。先ほどからは感じていなかった殺気があった。
……こいつからは底のわからない恐怖がある。とバルトは確信した。似たような経験としては、魔王に初めて対面した時以来だろうか?いや、魔王への恐怖とは別のものであった。未だに謎の多い場所、ロビン似の人物『アイ』……。そのふたつがバルトを少しだけとはいえ後退させる要因となった。下手にこいつに逆らうとどうなるかよくわからない……。今は従うしかなかった。
「勇者 バルト。もっとも今では元が頭につくが」
そうバルトが名乗ると『アイ』は少しだけ嬉しそうにした。相手が自身のいうことを聞いたという征服感からかそれとも……。
「もうひとりの方も、名前を教えてくれるとありがたいのですが」
「おい……」
お前も名乗っておけ。とロビンに言いかけたが、ロビンはバルトの服の裾を摘まんだまま、じぃっと、どこかを見つめていた。或いは怖がっているようにもバルトは受けとることができた。自分でさえも恐怖を感じる相手であったため無理もないことだろう。そう考えた。
「……こっちは相棒のロビンだ」
そうバルトが代わりに名前を伝えると『アイ』は地の底から響くような声ではなく、最初の高い声となった。
「はい、バルトさんとロビンさんですね。改めましてようこそ、このすばらしき別世界へ。先ほどの質問の答えを言わせてもらいますと、今あなたたちがいるこの場所は現実世界ではありません。だからといって、夢の世界というわけでもありません」
「どういうことだ?」
「ここは仮想世界『IF』その中の実在した国々をモチーフにした場所。ここはそのエリアのひとつ、『N』です」
「……仮想世界」
生まれてはじめて聞く言葉であった。仮想世界というのがなにかというのは、きっと理解することができるものではないだろう。ただ理解できたのは自分たちが魔王を倒すために旅をしていた『×××地方』という場所ではなく、また別の場所。あるいは実在しない世界であり、二度とあの場所に帰ることができないことだけはわかった。
「あなたたちには戦ってもらわなくてはなりません。あなたたちと同じような
「もしも、断るといったら?」
「その時にはこの場所から出ていってもらいます。もっともあなた達には拒否権が存在していないということは充分にわかっているはずですよ」
その通りだった。もしもこの場所以外に人の住んでいそうな地域があるかもしれないという一抹の希望がなかった訳ではなかった。しかし、その希望は見事に打ち砕かれてしまったようにバルトは思った。
……ふと、服の裾を掴んでいたロビンの掴む力が強くなっている気がした。強く掴まれたことによって、バルトはハッと我に帰りロビンの方へと目をやった。先ほどまでロビンが怖がっているのだと思っていたがそうではないことに気がついた。怖がっているというよりも威嚇……いや警戒しているようだった。
警戒心自体はバルトにもあった。しかし、ここまで表面的に出すのは異常なことだった。
「……どうしたんだ、そんなに強く掴まれたら破れるだろ?」
バルトは小声で少し冗談のように言った。しかし、ロビンの表情は強ばったままであったが、落ち着いた様子で一点に指をさしながらこう返した。
「ねぇバルト、きみは一体なにとはなしているの?」
指を指すす他方向にはなにもなかった。おそらくバルトが話している最中の相手である『アイ』を指差したのだろう。しかし、ロビンが指を差した方向は『アイ』のいない見当違いな方向であり人影のない空間だけがただただ広がっていた。
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