魔法
自己紹介の後、ようやくセッカは、トキがどうしてあんなに警戒していたのか教えてもらった。
それは、ツグミが魔法使いだからだった。
敵が魔法使いを中心とした集団であるという事で、魔法使いであるツグミを敵かも知れないと疑ったのだ。
「さて…救世主くんの
とツグミは二人に声をかけた。
「どうしてツグミの部屋に? 僕たちの部屋にくればいいのに」
そういったセッカに対して、ツグミは
「私も一応女の子なんだけど。何の準備もなしに男の子の部屋に行くなんて不用意な行動はしないのよ」
それがどういう意味なのかはよく理解出来なかったが、その仕草と話し方がセッカにはとても魅力的に思われて思わず頬が赤くなった。
ツグミの部屋は一人部屋でセッカたちの部屋より狭かったが、荷物はきちんと片付けられていてしかもほんのりいい匂いがした。
「まずはセッカの腕の治療ね。腕を出して。その方が治りが早いから」
言われてセッカは上着を脱ぎ、包帯を外した。傷口は強い衝撃でぱっくり裂(さ)けたもので、血だけは止まっていた。それを確認するとツグミはトキを振り返り感心した口調でこういった。
「普通の手当としては合格ね。やっぱトキって優秀だわ」
そしてちょうど西部劇のガンマンがガンベルトに差している拳銃を抜くように三十㎝ほどの杖を取り出すと、杖の先を傷口に近づけて
余談だが、怪我と病気の治療は根本的に同じ魔法なのだが働きかけるマナの作用を呪文の詠唱のわずかな違いで変える。産業革命以前の文化水準に思えるこの世界において医療分野だけは現代医学に匹敵するほどの進歩を果たしているのだが、ひとえに治癒魔法の進化に人体構造と各器官の働きの解明が必要だったからである。
さて、ツグミが教えてくれた事。それはとても具体的な事だった。
十年ほど前、マンテル共和国の評議員をしていたオオジュリンという魔術師(上級魔法より複雑な呪文を使える魔法使いをそう呼ぶ)がその邪悪な
「オオジュリンの野望って?」
「世界征服じゃない?」
セッカたちは、話の重大さに酒場に戻るとこもできず人目を避けてツグミの部屋で話をしていた。それぞれに飲み物の入ったカップを握って、今やこの世界全体に影響を及ぼすかも知れない事が判ってきた事件に暗く、重たい気持ちになっていた。
「ブルーって一体何なの?」
ツグミは、いびきをかきながら寝ているノスリをなでながら言う。
「ごめんね、私アニング公国出身なの。それは、トキの方が詳しいんじゃない?」
アニング公国とはマンテル共和国の勢力圏内にありながらスターンバー王国と同盟を結ぶ小さな国だ。
「俺もおとぎ話や
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