レベルアップと旅の仲間
それから二日後、町に着いた三人は市に出向いて獲物を売った。なにせ野ウサギ十二羽にイノシシが二頭だ。特にイノシシは肉質がずいぶんと良かったようで、お肉屋さんはかなりいい値段で買ってくれた。その利益で、旅の間に使ってしまった道具などを買い足す。サイクロプスに壊されたセッカの盾も新調した。今度のは金属で出来た装着型のだ円形の盾で前のものよりずっと重かったけれど、青みがかった銀色がそれだけで、セッカをなんだか強くなったような気にさせた。
しかし、盾にお金をかけたことで剣の方は新しいのを買う予算がなくなり、
「ごめん、トキ。僕の剣と盾のために無駄にお金使わせちゃって…」
「気にするな。ミサゴを救うためだ」
途中途中の町で集めた情報で、少しずつだったけれども事件の様子が判ってきていた。
まず魔術師を首領とした一団が、大きな事件のほとんどにからんでいる事。その事件がどうやら何かの準備のために必要なものを集めたり、邪魔なものを破壊したりしているらしい事。その事件の中にミサゴという名の少女の
ミサゴという少女は、この世界の伝説に語られている救世主の奇跡の力「ブルー」を発動するための「鍵」として生まれ、コルバート大陸の北西に浮かぶゴルベート島で王国の
それがどうやらセッカがこの世界に来る前日の事らしく、トキが考えるに何者かがブルーを狙ってミサゴを誘拐した事件によってこの世界に危機が生じ、地球からの救世主が求められ、セッカが召喚されたのだろうという訳だ。セッカにもなんとなく納得出来る事だった。この世界に来る前の日、セッカはヒバリによく似た泣き声を聞いている。きっとあの時にこの世界でミサゴは何者かに連れて行かれたのだろう。
三人は、宿屋の一階で久しぶりにちゃんと料理された夕飯を食べていた。
セッカにももうすっかり見慣れた光景だった。初めのうちは、酒場も兼ねている宿屋の一階の映画みたいな雰囲気が珍しかったし、子供だという事でからかわれたりもして腹も立ったけれど、今ではそんなからかいも気にならない。それどころか、調子よく立ち回りいろんな話を聞く事も出来るようになった。酒場は大事な情報源である。酔ったおじさんたちは口が軽いから、聞いてもいないような自慢話や珍しい話をいろいろと面白おかしく話してくれる。セッカは、そういう今度の冒険にはあんまり必要じゃない話を聞くのも結構好きだった。
「次の街が王都だよね」
食事を終えて、温かいココアのような飲み物を飲みながら、セッカは言った。
「そうだ。王都までは六日くらいかな。敵になるような生き物はもういないから、安全だよ」
「どうして?」
それには、ノスリがいつものように得意そうに胸を反らして答えてくれた。
「王都には人がいっぱいいるから、その人たちの食べるものを作る畑もたくさん必要なのだね」
自慢気に説明してくれるのはいいけれど、相変わらず内容が全然的を射ていない。
「よく判んないよ、それじゃ」
「頭悪いね、セッカ」
「なんかムカつく。君の説明が悪いんだろ」
トキが笑いながら、説明してくれた。
「ハハ、王都の周りはね、大田園地帯なんだ。街道が整備されていて、毎日屋根の下で寝られるんだ」
「へぇ」
セッカは思わず感動してしまった。
元の世界では当たり前のような事という気もしたけれど、野宿で敵に襲われる心配をしないでぐっすり眠れるなんて事のありがたさを想像すると、やっぱり感動せずにはいられない。
「ところで、王都で何するだ? トキ」
お酒を飲んでイイ気持ちになってきたノスリは、フラつく足取りでテーブルの上をよたよた歩いてトキに近付く。
「王都ならもっと詳しい情報が得られると思うんだ。特に、ミサゴは国王の庇護を受けて養われていた。王都ならさらったやつらの情報が判るんじゃないかと思うんだ」
「教えてあげましょうか?」
不意にセッカの後ろから、ちょっと大人っぽい女の人の声が聞こえてきた。反射的に振り返ると、そこには高校生くらいの女の人が笑っている。トキよりちょっと年上だと思う。栗毛の柔らかくウェーブした髪をポニーテールに結い上げていて、髪の色とよく似た色の
「条件は?」
トキは、その栗色の瞳を見つめたまま聞く。
「んーん、私を仲間に加える事。カナ?」
「あなたは信用出来ますか?」
「トキ?」
セッカは戸惑った。トキがいつになく慎重だからである。
「難しいなぁ…どうすれば信用させられる?」
「どうしたんだ、トキ? 仲間は多い方が楽しいど」
いい具合に酔っぱらったノスリが、しゃっくりしながらトキと女の人を交互に見ている。
「敵の存在がはっきりしてきたから用心しているんだ。情報の出所も気になるしね」
「出所はゴルベート島。目撃者から直接聞いたの。詳しい話は当然仲間になってからね。あとは何を話せばいい?」
「仲間になる目的」
「私が仲間が欲しいからよ。話を聞いていると目的が一緒のようだから提案したの」
「ちょっと
トキはまだ、用心深く栗色の瞳を見つめている。女の人は、声をちょっと高くしてこう言った。
「すごい! そうね、そこの子がこの世界の人間じゃないからよ。なれるんなら救世主の仲間になろうって思ったの」
セッカには、二人が何を思って、何を探っているのかさっぱり判らない。ただ、二人が互いに視線を外さないので、周りの空気が緊張している事だけは判った。
「すまなかった、仲間として認めよう」
長い沈黙のあと、トキは席を立つと右手を差し出した。彼女も立ち上がってトキの手を握る。
「あなたの心配も理解出来るわ。若いのにずいぶん優秀なハンターのようね」
「ありがとう。俺はトキ。君は?」
「ツグミ。よろしくね」
「あ・僕、メジロ セッカ。この酔っぱらってるのはノスリって言うんだ」
「オーラ、ノスリ。うひゃひゃひゃひゃ」
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