【寄り道】メタフィクション一人称と反則技三人称

 先のヤツで、極端に難しいのと極端に簡単なのを並べてご紹介しましたが、イマひとつ解かんないと思いますんで、もうちょいとだけ解説します。


 読者を意識した時点で、そこにメタフィクションというものが発生します。


 これ、作品内の登場人物が自分を架空の存在だと解かっている前提でないと論理的におかしくなっちゃうんですな。だから、古くは危険を考慮して、三人称の地の文くらいでしか使われない手法だったんです。

 ほら、推理小説なんかで地の文が、『皆さんも一緒に考えてみてください。』とか書いちゃうアレです。小説ってのは、いかにこのフィクション感を取り除くかが問われるものですんで、メタフィクションなんてのは子供騙しもイイトコだったわけ。


 最近映画化された『デッドプール』の主人公の特殊能力ってのは、原作ではどうもコレだったらしいのですね、私は映画では気付きませんでしたが、言われてみれば彼は画面内でよく視聴者に向けてなんやかやと喋ってました。あまりに世間に溢れ過ぎていて気付かなかった。鈍感になってましたな、と反省。(笑

 ついでに、「そーか、彼の馬鹿げた不死身性ってのはメタフィクションを実感する存在だから、という一周回ったややこしいトコからだったか!」と膝を打った次第。


 やっぱ腐っても鯛、なんであれアメリカ製、アカデミックであるところにぬかりはなかったわけですわ。アメリカって妙にそゆの気にするよね。理屈が通ってなきゃダメ、というのは徹底してる。(笑


 ひるがえって日本でのこの辺りの事情を鑑みるに……なんともトホホな実情な気がしなくもありませんな。理屈が放り出されていて、成果至上主義に陥っているからでしょう。「面白ければよい」なんてのは成果主義だよ、解かってる?


 理屈を気にしないメタフィクションと、自由間接話法という三人称の理屈をぶち壊す反則技、これ、使わずに書けるということが「文章力がある」ということです。


 それから、情景描写を何行読ませることが出来るか、というのも割と解かり良いモノサシなんじゃないかなと思います。これは単純に描写のウマヘタに過ぎませんけどね。本筋にはほとんど無用の、蛇足ですらある情景描写ですから、それを書いて許されるということそのものが、その作者の技量の証です。逆転してんのね、理屈が。


 読者の中には描写好きな層もそれなりにおられますが、彼らは何も描写ならなんでもいいわけではなく、ドヘタクソなヘタクソ描写なんぞ求めてはいないわけです。


 さて、最後に。


 メタフィクションがアカデミックにはちょっと問題を孕みすぎた設問である、てのはご理解いただきたいかな、と。

 これ、読者を意識した主人公ってのは、つまり、自分が架空の存在だと認識しちゃってるわけです。ここ、大問題なんです。


 じゃあ、自分がいまやってるコレってなんなの? て問題ね。

(巷に溢れかえっているコレ系一人称ではサクッと無視して都合よいトコ取りで使ってます)


 これも古くはシュワルツェネガーがネタにして映画化してます。『ラスト・アクション・ヒーロー』です。当時はこの問題設問が、日本では早すぎたのか論壇ではもんのすごい酷評されたそうですが、当時の日本の論壇レベルが低すぎたんですな。隠された問題に気付けなかっただけで、今見ると、はっきりと何が問われているか解かります。当時のアメリカの聴衆的にも難し過ぎてポカーンだったんで大コケだったそうですが。早すぎるってのはどこの国でもあるもんです。

 視聴者は細かいトコは無視して娯楽で見てるでしょ、そこへアカデミックな存在証明問題的な非常にややこしいトコを持ってこられても、てな感じでしょう。問題が問題として認識すらされなかったものかと。


 、というテーマね。これが、当時の視聴者にはポカーンだった、というわけ。


 とにかく、メタフィクションの孕む問題ってのは、この映画を観ればなんとなく解かります。それを解かりやすく演ってくれた映画ってことですんで。お勧め。

(これよりさらにさらに掘り下げが可能な、果てしなく問題だらけな事柄なのです、このメタフィクションってのは。それだけ覚えてくだされば。)

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